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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第1章 勇者降臨、その名もイオリ。
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イオリ、立場が危うい


 三人で廊下を一直線に走り、角を曲がろうとすると、突然先頭にいたアスタロトさんは尻餅をついて転んだ。そんなアスタロトさんに申し訳なさそうに手を差し伸べるのはゼルさん。


「わりぃ! 大丈夫か?」

 ゼルさんの手を強引に掴んで「ふん!」と起き上がるアスタルトさん。

 あれ、いつものゼルさんに戻ってる……よな? いつもは凛々しい筈の眉は垂れ下がっていない。うん、いつも通りに戻ってるな。


「イオリ、さっきは悪かった。いきなり取り乱して掴みかかったりして……」

「大丈夫ですよ。……それより、どうしてあんなに取り乱してたんですか?」


 俺が投げかけた質問にゼルさんは一瞬眉間にしわを寄せる。精霊の話をしただけで目に見えて取り乱したゼルさん。俺もその精霊の事を知りたい、ゼルさんも知りたがっている。お互いの為にもここで疑問を解決してしまいたい。


「あ……その、まぁ、あれだよ!」

 何かを隠すように口ごもるゼルさん。何かやましい事でもあるのか? それともあの精霊は敵だったり? いや、それにしては反応がおかしすぎる。何というか、恥ずかしがってるようにも見えた。


「お願いです、教えてください!」

「あー……もう! ただ、嫉妬してたんだよ。あのガキに……白露を取られてしまうんじゃないかって。……それだけ!」


 ゼルさんから返ってきた、まるで会話が噛み合っていない返答に困惑した。

 ゼルさんの様子がおかしかった一環の事を言っているんじゃなくて、精霊の事を口に出した瞬間更に取り乱した件について聞きたかったのに……まあ、やっぱり俺の考え通り嫉妬が原因だったのか。解決して何よりだが、今はそんな事話している場合ではない。


「そうだったんですね……。俺が精霊の事を言った瞬間取り乱したのは?」

 追加の質問でやっと会話が噛み合ってない事に気付いたのか、ゼルさんの顔は目に見えて真っ赤に染まる。


「ハァ、その事なんだがよ。俺の相棒とそっくりなんだ……アイツはもう死んだのに。似ている精霊がいるだけで今でもこんなに取り乱すんだ。まだマシになったんだぜ? 前なんか似ている通行人に詰め寄って号泣したりさ……」

 シンとした雰囲気にしたくないからか、笑いを交えながら話すゼルさん。だがその笑いは感情を押し殺した溜め息のようだ。


「本人って事は無いんですよね……?」

「ああ、アイツは俺の目の前で逝っちまった。そもそも人間は精霊の世界には入れない。頭では分かってるんだけどな」

 悲しげな表情で投げかけるゼルさん。これ以上聞くのは可哀想で仕方が無く思い、口を噤んだ俺を見て更にゼルさんは寂しげに笑った。


「そ、そうだ! ゼル殿! これから三人で修業をするんでござる! イオリ、アスタロト様! 行くでござるよ!!」

 苦し紛れに明るく提案するフルル。こういう雰囲気になった時、いつもフルルに助けられる。そんな言葉にゼルさんの表情にも思わず笑みが浮かぶ。


「なんだよ修行って! ……頑張ってこいよ。俺を早く超えてくれな!」

 ゼルさんは笑いながら言い残すと、手をヒラヒラと振りながら去って行った。何はともあれ、ゼルさんがいつも通りに戻っていて安心した。俺としてもかなり心配だが何も出来ず、もどかしいばかりだった。


「フルル、あんたって怖いわね」

 アスタロトさんは呟いた。無意識で場の流れを正反対に持っていく、そんなフルルが怖いくらい凄く、怖いくらい羨ましくもあった。それには俺も同感だ。

 まあ、こんな飛び抜けた人だらけの時代、俺みたいなごく普通で平凡なツッコミ役が居てもいいじゃないか。フルルみたいな事しようと思っても出来ないんだけどな。



 楽しげなスキップを颯爽と披露するフルル。そしてその後をとぼとぼと歩きながら追う俺とアスタロトさん。フルルははしゃぎ過ぎだ、修行するってだけでこのテンションの上がり具合、ある意味尊敬する。

 そんな時間がしばらく続いた。そして次第に見えてくる裏庭のような場所。人通りが全く無く静かでこじんまりとした、まさに修行にはもってこいの場所だった。フルルは立ち止って振り返る。


「ここなんてどうでござるか? ずっとここで修業をしたいと考えていたんでござる」

 俺が修行を提案するずっと前、もしかしたら俺がこの時代に来る前からずっと誰かと修業がしたかったんだろう。だからあんなに嬉しそうだったんだな……。

 嬉しそうに笑うフルルに、俺の頬も次第に緩む。


「ああ、最高だな」

 そう告げると更に嬉しそうに尻尾を振り始めた。呆れたように腕を組むアスタロトさん、でもその表情は微笑んでいるようにも見えた。こんな形でフルルの願いが叶えられてアスタロトさんも嬉しいんだろう。


「そういえば俺、魔法を使ってるところを見た事ないんだった」

「姫達が使ってるのを見ていたでござろう?」

「あいつらはノーカンだ、あんなのは魔法じゃない」


 そんな俺たちの会話を聴いて目を見開くアスタルトさん。そしてその表情は瞬く間に恍惚に染まる。今にも何か言いたげに口をパクパクとさせていて、俺とフルルは「これは触れてはならない物だ」と口を噤んだ。


「……あ、あ……あの」

 どもったように少しずつ頭の中で纏まっていない単語を出そうとするアスタロトさん。一体どうしたんだ……でも、ここは黙って待つべきだよな? 急かしてもこればかりはどうにもならない。


「あの……ひ、姫って……?」

 しばらく時間が経過し、やっと核心の質問を聞けた。その質問の為にどれだけ待った事か……。それはそうと、アスタロトさんは矢神の事を知らないのか? ……あまり外の世界には興味が無いというか、自分のどっぷりハマった物以外どうでもいいというような人なのは分かってたが……


「ディア―ブルの姫でござる! 名前は……えっと、ヤガ……?」

 アスタロトさんの質問に即座に応えるフルル。名前どころか、俺が矢神矢神言いすぎたせいかこの時代でのアイツの仮名すら覚えていないようだ。まあ、そんな俺も覚えていないんだがな。


「矢神、だよ。それにアイツ……この時代では何て名乗ってたんだっけ」

 アスタロトさんは俯いたままプルプルと唇を震わせた。あれ、俺達何かまずい事を言ったか? もしかしてアスタロトさんも被害者だったり……


「気を悪くさせ……」

「サリー様でしょ?! 何で? 知り合いなの?」

 俺の言葉を遮り、先ほどとは打って変わって瞳をキラキラさせながら距離を詰めてきた。どうしてこんなに嬉しそうなんだ? 被害者じゃないならどうして……


「羨ましいわ、羨ましすぎる……っ! あの悪魔帝国を牛耳る漆黒の魔王……何てカッコいいの!」

 状況が呑み込めずに口をポカンと開けて固まる俺とフルルを余所に、アスタルトさんは一人で淡々と語り始めた。好きな美少女キャラについて、ろくに息継ぎもせずに早口で語り始めるオタクにも勝るその姿に更に頭がパニックになる。


「あたしはずっとサリー様に憧れていたの、あんな風になりたいって……」

 トロンとした目でウットリと述べるアスタルトさん。息を呑むことも忘れて呆然とする。


「ちょっと!」

 突然合った瞳と大きな声にびっくりして思わず開いていた口が閉じる。

 駄目だ、全く理解できない。矢神に憧れている? こんな天使の擬人化のようなアスタルトさんが……矢神に……

 そう考えただけでも眩暈がした。できる事なら一生関わってほしくない、その手を汚してほしくない……矢神達みたいな残酷な魔法の使い方をしてほしくない。


「サリー様の魔法を見た事があるんでしょ!? 紹介しなさい!」

 アスタロトさんはどんどん距離を詰めて来て、俺の背中は木の幹にぶつかった。紹介しろと言われても、残念ながら矢神とは親しい仲じゃない、全くもって。もっと言うなら正反対だ。俺たちは犬猿の仲、一生分かり合えないだろう。

 傍から見たら俺だけが嫌ってるように見えるだろうが、矢神だって一度俺を殺してる。好いていないのは目に見えて分かる。


「俺、殺されたって話はしましたよね」

「ええ」

「俺を殺したのは矢神……そのディア―ブルの姫なんです」


 アスタロトさんの眼は大きく開かれ、次第に申し訳なさそうな表情になる。違う、そんな顔させたくて言ったんじゃない。


「だから決して親しい仲ではなくて、紹介することはできません……すみません」

「あ……いいの。こちらこそ悪かったわ」

 矢神の事でこんなにも一喜一憂できるという事は、本当に矢神の事を尊敬してるって事なんだな。いずれアスタロトさんが黒魔術を使えるようになって、矢神に似たような使い方になったら……


 そんな事、想像もしたくない。アスタロトさんが矢神の事を尊敬してるなんて思いもしなかった。厨二病患者にはアレがカッコ良く見えるのか……? 


「イオリ、新しい精霊とは契約しないでござるか? レベルも上がって契約できる精霊も増えてるはずでござるよ!」

 突然のフルルの言葉。よくよく考えてみたら、そろそろ新しい精霊と契約しても良い頃か……。ニート精霊だけだと頼りない。かと言ってあの時みたいに命の恩人が来てくれる事も暫くはないだろう。


「精霊魔法を使うの? 珍しいのね……」

 興味深そうに、更には感心したように呟くアスタロトさん。矢神が精霊魔法を使う事は知らないのか? それに……精霊魔法ってそんなに珍しい物なのか。


「矢神も精霊魔法を使ってるって聞いて、俺も練習してるんです」

「サリー様が精霊魔法を? ……意外ね。でも、どうしてイオリまで?」

 “復讐のため”なんて言える訳がない。アスタロトさんに言ってしまったら……でも嘘を付くのも気が引ける。もう少し時間をおいて伝えるべきか、それが一番だな。


「まあ、色々事情があってですね。よし、新しい精霊と契約できるように頑張るか」

 かなり強引に話を濁してはみたが、不自然ではなかったのか、これ以上触れようとしないでくれたのか、話はそこで終わった。

 そして俺は静かに目を閉じる。今回はいつもとは比べ物にならない程静かな場所、魔力を集中させるのにそんなに時間はかからなかった。


『……我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ』

 その言葉と共に真っ白な視界に現れたのは、風に揺れる透き通った金髪にすべすべの白い肌……極めつけはキラキラと輝くアメジストの様な瞳。残念な事に相手は男、ときめきは一欠けらも無かったが吸い取られそうな目力に言葉を失う。


「僕はハルバード、君の事を永遠に守ると誓おう」

 ……キザなのか紳士なのか分からないなこれ。まず俺は男なんだが? 分かって言ってるんだよな? え……ホモなのか???

「あ、よろしくお願いします」

 俺は男であることを主張する為になるべく低い声で返した。女だと思っていたに違いない、きっとそうだ。


「敬語なんて使わなくていいさ、僕と君の仲だろう?」

 駄目だこいつ……! どうして精霊はまともな奴が居ないんだ?! “僕と君の仲”? なんだよその意味深極まりない表現は。初対面で俺はホモじゃない。そんな疑われてもおかしくないような言い方はやめて頂きたいものだ。


「分かった、一つ聞いて良いか? 俺は男だぞ?」

 こんなセリフを言う時が来るなんて、自分でもビックリだ。でもこの精霊はキョトンとしてみせた。


「……? だからどうしたって言うんだい? 僕を呼んでくれたからには大切に扱わなきゃ」

「そ、そうか。ありがとう」

 あくまでも冷静に、俺は返答する。ホモではなさそうだな……少女漫画でよく見る王子様キャラなのかもしれない。俺が女だったらイチコロだったかもしれないが、ただただ寒い。

 そんな事は置いておこう。早く契約を結ばないと。


「俺と契約、してくれるか?」

「もちろんさ、何かあったら僕の名を呼んで。すぐに飛んでいくから。あ、僕の事はハルって呼んでね」

 そう言ってにこやかに笑うハル。まあ、ルシファーとは違って友好的で戦力にもなってくれそうで幾分か助かる。


 大きく息を吸って目をゆっくりと開く。視界には心配そうに俺の顔を覗き込むフルルとアスタロトさん。あまりの顔の近さに驚き即座に距離を取った。


「あっ! 生きてたでござるーーーーー!」

「叩いても罵ってもビクともしないから死んだかと思ってたんだから!」

 え、叩いた? 罵った? お前ら……俺が集中してるのをいい事に好き勝手しすぎだ。かと言って、こればかりはどうしようもない。集中してる間は別の世界に飛ばされたような感覚になって、幽体離脱か? 元の俺を動かすことは出来なくなる。


「何はともあれ、新しい精霊と契約できた!」

「うんうん、僕も君と契約できてよかったよ」


 背後から聞き覚えのある声。「まさか」と冷や汗を流しながら振り返ると、そこにはやっぱりハルの姿が。どうして呼んでも無いのにここに……? あ、でもルシファーの時もこんな感じだったっけな。

 それは置いといて。まずい、こんな最大級にギザな男を野放しにするなんて! フルルやアスタロトさんが誑かされてしまう。


「やあ、君たち可愛いね。花のようだ」

 息を吐くように二人を口説こうとするハル。ああ、遅かった。フルルもアスタロトさんもあまりの出来事に固まっている。


「い、いやぁ……そんなこと言われたのは初めてで……照れるでござる……」

「な……何なのアナタ……ううっ……」

 顔をポッと赤く染めてポリポリと頬を掻くフルルに真っ赤な顔を必死に手で覆い隠すアスタロトさん。

 ――……コイツ、やりおる。この時代に飛ばされてから、俺は沢山の女性、女子と関わってきた、沢山イベントやフラグもあった。いわばハーレムものの主人公になれそうな瀬戸際を歩いていたわけだが……コイツがいたら立場が危うい。一言放っただけで二人の女子の顔を染め上げる。こんな魔性の男が居たら俺は……


 マズイ、何もかも全部吸い取られてしまう。


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