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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第1章 勇者降臨、その名もイオリ。
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厨二病患者の占いパニック


 MPM本人(?)ですら把握できていない能力の持ち主に抜擢された俺。輪廻転生を持っている上にそれを生かせる能力も持ち合わせているチート並みの能力の持ち主なのか、輪廻転生が強すぎるが故のデメリットなのか。使ってみないと分からないって時点で相当デメリットでリスキーなんだが……

 そもそもどうやって発動するんだ? 能力って意図的に使えるものなのか、いや、輪廻転生は死んだ時にしか発動しないんだったよな。簡単に試せるものじゃない、という事か。


「こればかりは考えても無駄よ、どうこうなる話じゃないわ。発動したら発動したで受け入れるしかないわ」

 そう言って先生は鼻歌を歌いながら椅子に座って高速タイピングを始めた。こうなると話しかけても無駄だ。やっぱり先生の言うとおり受け入れるしかないのか……それはそれで安易に考え過ぎな気もするが確かにどうこう出来る問題じゃない。

「ミカ、他に役に立つ情報はない?」

『すまないが君のレベルでは難しい。レベルを上げてからまた聞いてくれ』


 ま、そうだよなー……レベル3にできる事なんて1%にも満たないんだろうな。もう周りに頼れる人はいないか、先生は相変わらずタイピング。フルルは立ったままウトウトし始めている。ミカも言ってしまえば機械、これ以上聞き出すのは無理だろう。


「あ、そうだ! いるじゃない、オカルト大好きなのが」


 突然の先生の言葉にハッとしたのかフルルは急に目を覚ます。オカルト大好き……嫌な予感しかしない、そんなの厨二病こじらせの端くれ絶対碌な奴じゃない、出来れば関わりたくないのが本音だ。

「黒魔術が大好きな女の子でござるね!」

 フルルもキラキラと目を輝かせながら左右に大きく尻尾を振る。その説明だけでも関わったら駄目だと分かるのにどうしてそんなに嬉しそうなんだ?

 ケモ耳天然っ子、特殊な無口系ねぼすけ……そして黒魔術大好き厨二病ときた。なんて特殊すぎる女の子ばっかり揃ってるんだこの時代は! 普通の女の子が恋しい。俺らの憧れ、所謂二次元のアニメキャラは実際目の前にして一緒に過ごすとなるとこんなにも大変で普通が一番だと痛感する。言ってしまえば“美人は三日で飽きる現象”だ。この時代の女性で唯一まともで頼れる白露さんはアンジュ一の騎士様という素敵な旦那さん持ち。まて、今更だけど白露さんって何歳だ? ゼルさんと同じ位なら……四十は超えてる? あの美貌で? この国は一体どうなってるんだ……


「イオリも占ってもらうでござるか?」

 フルルの提案で思考は元の世界へと戻る。そうだ、白露さんの美魔女説よりもその厨二病だ。実際会う理由は全くといて良いほどない訳だが……少しの可能性に賭けるしかないのか? まあ、詐欺占いで変な結果出されたらたまったもんじゃないが。この不可解な現象について少しでも、ほんの一欠けらでも情報がもらえたらそれでいい。


「占いは結構。話を聞きに行こう」

 ぴしゃりと断りを入れ、部屋を出る。悪質な占いの手口は弱い人間を利用する、遠慮ではなくしっかりと断らないとズルズルと引き込まれてしまう。……まあ、親の経験談なんだけど。

 どっちみちこの世界の硬貨は持ち合わせていない。万が一占う流れになっても断られるだろう。


 呆れとは裏腹に緊張はピークに達していた。この能力の効果によって俺の異世界転生ライフは左右されると言っても過言ではない。詐欺占い師じゃありませんように、ちゃんと魔法で占ってくれる、まだまともな厨二病でありますように……俺は心の中で何度も念仏のように唱えながらフルルの後を歩いた。



 暫くフルルの背中を追うだけの時間が続いた。階段を登ってはまた登る、その繰り返しに嫌気がさし始めていた。というのも、元の時代で中高と帰宅部を貫き続けてきた俺にとってこの運動量は耐え難い物だ。

 痺れを切らして「少し休もう」とフルルに呼びかけようとしたその時。タイミングが良いのか悪いのか、姿を現す扉。しかしそれはただの扉ではなかった。あの古城の扉よりも更に禍々しい黒を基調とした、いかにも厨二病チックな物だった。

 頭蓋骨に十字架……そして持ち手は薔薇か? 足の疲れだけじゃなく色んな意味でどっと疲れが増したような気がした。


「ここだよな……?」

「よくわかったでござるね!」

 ……当たり前だろこんなド派手でいかにもなドア。今からここに入るのかって考えただけで疲れが更に押し寄せそうだ。栄養ドリンクでも持ってくるべきだった。


「おーい! アスタロト様ー!!」

 何の躊躇も無く禍々しく痛々しい扉をコンコンと叩くフルル。アスタロト? 様? ツッコミどころがまたもや多すぎて消化できない。


「入って来るな」

 扉の向こうから聞こえてきたのは不機嫌そうな女の子の声。この子もフルルの変なあだ名で呼ばれている犠牲者なのか、と少し同情した。


「シャ……」

「そ、それ以上は言うなっ! 早く入りなさいよ!」

 フルルの言葉をかなり慌てた様子で遮る女の子。身内ネタが分かるはずも無くただ眺めるだけだった。それはともあれ入室許可が出て満足そうな様子のフルルは勢いよく扉を開いた。扉が壁に強く当たり大きな音が廊下中に響いた。何でいつも扉を壊す勢いで開けるんだよ……


「ちょっと! 扉が壊れちゃったら極秘情報が筒抜けじゃない! やめなさいよね」

 恐る恐るフルルの後に続いて室内に入ると、腕を組んだまま頬を膨らませる女の子と笑いながら「すまぬでござる」と頭を掻くフルル。そんな事は眼中になかった、この部屋……オカルト専門家かと疑いたくなる程ガッチリと固められている。赤い絨毯の真ん中には黒で描かれた謎の魔法陣、赤の液体が入った花瓶には黒の薔薇。ゴシックな雰囲気を醸し出す鏡、どうしてか俺らは写っていない。黒く円形のテーブルに置かれているのは十字架と大きく丸い水晶。思っていた以上に徹底した厨二病すぎて目まいがした。


「その男は?」

「イオリでござる、占ってもらえるでござるか?」


 その質問からワンテンポ遅れて俺の方に振り替える女の子。耳よりも上で結ったサラサラのツインテールがパサリと舞った。そんな繊細で透明な水色の髪には言葉を失った。厨二病の女の子=リリアンのみたいなゴスロリ女という予想を立てていただけあって、占い師という称号に相応しくない天使の様な見た目には驚愕した。

 そしてラピスラズリのような深い青の瞳がジッと俺の目を捉える。全て見透かされるような気持ち悪い感覚に耐えられず、思わず目を逸らした。


「あなた……どこかで会った事ない?」

 突然女の子の口から発せられたまるでナンパのようなフレーズに思わず笑いが込み上げる。なんだ、目を見ただけで全てが分かるとかじゃなくてただ誰かに似てるってだけであんなに凝視していたのか。


「ちょ……っ、何笑ってんのよ!」

「すみません、ナンパみたいだったからつい……」

 不思議そうな顔で顔を見合わせるフルルと女の子。どうしたんだ? と思った直後にハッとする。

 そうか……この時代にナンパって言葉があるはずがないのか。


「あ……口説かれたのかと思って」

「なっ……バッカじゃないの!」

 途端に顔をリンゴの様に真っ赤にして怒り出す。透明感の強い肌なだけあって真っ赤になると一層目立つ。

 それはともあれ、冗談抜きで今まで出会った女の子の中で一番可愛い。あ、一つ語弊があったな。世間的に一番可愛いと言われているのは矢神だ。きっとこの女の子と比べても人々は矢神を選ぶだろう。だが俺は違う、矢神は最初からノーカン。フルルやリリアン、先生に白露さん。俺がこの時代に来て出会った女性の誰と比べても一番可愛いと思ったのがこの女の子だ。


「あらら、拗ねちゃったでござるよー……」

 そう言ってジト目で俺を見るフルル。まあ、からかってしまったのは申し訳ないし……どうしていいのやら。


「そうだ、アスタロト様って呼んであげたらどうでござるか?」

 真っ赤で頬を膨らませている女の子を横目に、フルルはそっと小声で耳打ちする。

 アスタロトまでは黙っておこう。だが“様”だろ? 絶対呼びたくない。

 でもこのままだと怒りに任せて変な呪いをかけられてはたまったもんじゃない。ここは仕方なく……


「アスタロト様? 許してください……」

 震える声で呟く。こんなの屈辱だ、俺までこの子の僕になったみたいじゃないか。フルルとは違って俺には羞恥心と言うものがある。初対面の人を様付けで呼ぶなんて恥じらいの欠片も無い事できない……まあ、時既に遅し。


「ふん! 二度とこのような無礼がないように気を付けなさいよね」

 ツンと言い放つと顔を背けた。そうだ、この子に占ってもらうためにここに来たんだった。とんだ茶番に付き合いすぎてすっかり忘れそうになっていた。といっても占いなんて信じた事もないし信じる気もない俺は一体どんなリアクションを取ればいいのか分からずにいた。


「ほら、占ってほしいんでしょ? 今回は特別だから!」

 そう言いながら椅子に腰かけた女の子。俺も目の前の椅子に腰掛ける。初めての占い。そして俺の未来……自然と汗が流れ始めていた。



 暫くお互い無言の時間が続いた。ただただ見つめられるだけで一向に言葉を発しない。深い海の底のような瞳に全てを見透かされるようでなんだか小っ恥ずかしい。今すぐ目を逸らしたい、いや、いっその事顔ごと逸らしてしまいたい。


「……そんなに真っ赤な顔で見つめないでくれる?」


 どうやら気付かないうちに顔まで真っ赤になっていたらしい。そんな俺につられてアスタロトさんも顔を真っ赤に染めている。

 か、可愛い……じゃなくて! こんな緩んだ表情じゃ占いにならない。誤った結果を出されるのは困る。ましてや相手もかなり影響されている。ここで急に真剣な表情になれって言うのもなんだか不自然だし、ああ一体どうすれば。


「あなたの眼を見て分かった、復讐に駆られるのはやめなさい。お先真っ暗よ」

「アスタロト様、イオリは一度殺されてるでござる……恨みはきっとそのせいであります」


 アスタロトさんは俯き「ふむ……」と短く呟いた後、何かを思い出したかのようにハッとこちらを向き直す。その目は「まさかあなたなんかが輪廻転生を使えるの?」と言いたげだった。まあ、そうなるよな。俺でも未だに信じられないくらいなのに。


「……そのまさかです、ビックリしますよね。俺なんかが」


 まだ何も言われていないのに突然自虐し始めた俺に、二人は何も言わずにただ気まずそうに俯くだけ。どこにでもいる普通の男子。できる事ならそのまま普通に生きていたかった。それが突然何の関わりもないクラスメイトに殺されて? こんなファンタジーな時代に飛ばされて……何度も死ねるなんてさ。こんな最強スキル、この国で一番強いゼルさんに付けてあげてくれよ。俺なんかは普通のままでいさせてくれ、と何度も思う。

 “矢神 莉彩という残虐非道な魔王を討伐する”という命を懸けてでも叶えたい目標があるからこそ正気でいられる。まだ死ぬ訳にはいかないって思える一種の命綱のような物。どう足掻いたってお先真っ暗なのは変わりない、それは俺が一番自覚している。


「そんなに暗い顔しないの! 少しでも気が収まるように薬をあげるわ」

 厨二病患者から出る“薬”という単語にこの上ない不安が勢いよく募る。一体俺は何を飲まされるんだ?! 輪廻転生を持っているとはいえこんな所で貴重な一回を使うなんて嫌だぞ……?


 そんな不安とは裏腹に、アスタロトさんが取り出したのはごくごく普通のティーポットだった。問題は中身だ。真っ赤な鮮血だとか、虫をすり潰したものは断固拒否したい。この時代のとある悪魔王国ではオーソドックスなのかもしれないがな!


「これは何でござるか?」

 俺より早く一番聞きたかった疑問を出してくれたフルル。やっぱり誰でも中身は気になるのだろう。

「白露さんの故郷、桜雲帝国の飲み物よ。葉っぱのような物に火を通し、揉み……そして乾かすの。最後にお湯と一緒にこのティーポットに入れる!」

 簡単に言うとお茶か。白露さんの故郷は元の時代で言う日本だろう。和服を着ていたり言葉使いだったり、昔の日本を思わせる。その飲み物で葉っぱを使い淹れるというとお茶。種類は緑茶か? いずれにせよこの中身が異様な物じゃなくて安心だ。緑茶なら好んでは飲まないが嫌いという訳でもない。予想をある意味裏切る、普通の正統派だった中身に安堵した。


「あ、あれでござるね……フルルには少し苦すぎたでござる」

 フルルはガクガクと震え始める。普通の反応はこんな感じなのか? お茶を飲む習慣どころかお茶自体馴染みのないフルル達にとっては苦く感じるのか……。

「アスタロトさん、淹れて下さい」

 まったくと言っていい程動じない俺に信じられないと言いたげな表情をするフルル。そりゃ心配されてもおかしくないのか……? 

「元の時代でこの飲み物は一般的だったんだ。だから大丈夫だ」

「フルル、この時代に生まれて良かったでござるー!武士や忍者を目指すとはいえこれは苦行すぎるでござる……」

 しゅんと尻尾を下げるフルルに苦笑いを浮かべ、カップの取っ手を握る。そしていつもの様に一気に口の中に流し込む。


「…………っ?! ーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」


 異様なお茶を口の中で溜めたまま、声にならない悲鳴を出す。苦い、苦すぎる。騙された! こんなのお茶じゃない。作り方を聞いただけでそこら辺に生えている草で代用したんじゃないかと疑いたくなる程に青臭く苦く渋い。これを吐き出す訳にもいかずどうすればいいのか、吹っ飛びそうな思考の中一生懸命に考えた。ずっと口に溜めて苦い思いをするより一瞬我慢して飲み込んだ方がいいのか?

 気合を溜め、一気にゴクンと喉を鳴らしながら、悪魔のお茶を飲みこんだ。


「なんですかこれ! フルルもだよ、少しどころじゃない! 規格外だ!!! お茶がこんな苦すぎる訳ないだろ?!」


 顔を真っ赤にしながら怒鳴る俺を見て二人は不思議そうな顔をした。大体何の葉っぱを使ったんだよ、場合によってはお腹壊すどころか死ぬ可能性だってあるんだぞ。


「これは白露さんに貰ったのよ?! 歴とした高級品なんだから!」

 な……白露さんがこんな馬鹿げたお茶を? しかも高級品だと……?! この時代のお茶は口の中が痺れて味覚が麻痺しそうになるような物なのか。そう考えたら元の時代に生まれていて良かった。


「確かこれは……」

「センブリ! 白露さんはそう言っていたわ。これを飲むと色々な特殊効果が付与されるの!」

 記憶をたどるように思い出そうと頑張るフルルを遮って、アスタロトさんは得意げに語り始める。

 センブリ茶って、あのバラエティーの罰ゲームでよく見かけるアレか?! というか特殊効果って……ただの漢方じゃないか。あーあ、馬鹿らしい。


「これであなたは無敵よ! 頑張りなさいね!」

 俺の気も知らないでニコニコと笑顔を向けるアスタロトさん。何の効果も得られなかったように思えたが、その笑顔が見れただけいいのかもな。


「手伝える事があったらいつでも言いなさい、あたしだって魔法使えるのよ!」

 得意げに述べるアスタルトさん。魔術系の魔法か、占い自体が魔法なのか。気になる所ではあった。


「アスタロトさんはどんな魔法を使うんですか?」

「氷の魔法よ、あたしの魔法は全てを凍らせるの。魅力的でしょ?」

 ふふんと腕組みして俺の顔を見上げる。意外だ、厨二病からかけ離れた、まさに神秘的な氷の魔法を使うとは……

 自慢するように語りながらもどこか寂しげにも見える表情。残念ながら女の子の気持ちとやらに無縁の俺にはその表情の意味が分からなかった。


「本当は黒魔術系統が使いたかったのよ? でも、適性が無かった。魔力が拒むの」

 寂しげな表情のまま続ける。そうか……何のこだわりも無くただただ復讐の為に選んだ俺とは違って絶対にコレがしたい! って人もいるのか、そりゃそうか……俺みたいなタイプの方が珍しいよな。

 黒魔術系統か、きっと膨大な魔力を使うのだろう。こんなか細くて小さな体では支えきれない、ただそれだけの事、なのに俺まで心が痛む。


「俺も、一緒に戦いたい精霊がいます。でもまだこんな魔力じゃ呼び出せない……」

 その一言で更に場は静まる。慰めるつもりが逆効果、やっぱり俺は空気が読めない馬鹿だ。フルルまで気まずそうに窓の外を眺めている。さて、どうするか……


「アスタロトさんが黒魔術を使えるように俺達で特訓しませんか!」

 たった今思いついたその場凌ぎの提案に二人は目を見開いた。その場凌ぎにしては我ながら名案だと思った。アスタロトさんはお望みの黒魔術を習得して、俺も魔力が上がる。フルルにとって得があるのかは謎だが……これを機にアスタルトさんとお近付きになれるかもしれない。――俺、天才だ。


「俺ももっと魔力が欲しいです。フルルも、ほら……修行! したいか?」

「修行でござるか?! 望むところでござる!!」


 何とか言いくるめる事に成功、目を輝かせながら尻尾をブンブン振っている。そんなフルルを横目に苦笑いをするアスタロトさん。あまり乗り気じゃない……?


「これ以上あたしが強くなるの……? フッ! 震えながら生きなさい!」

 あ……乗り気だな。何というか、黙ってれば息をするのも忘れるほど綺麗な天使なのに、口を開くとかなり残念な厨二病患者。この悪い方の意味でギャップのある女の子、やっぱりこの時代は多種多様な人が居すぎて疲労が勢いよく溜まる。


「気に入ってもらえたようで何よりです」

 そんな疲れを隠して俺はフフッっと微笑んだ。

 そういえばこの時代に飛ばされてからゆっくりと休んだ事なかったな……。前はバイトが終わったらすぐにベットにダイブしていたくらいなのに。一日くらいゆっくりと自分の時間が欲しいものだ。

 それでも時間は有限、じっとしている時間なんて惜しい程に今すぐ強くなりたい、早く矢神を倒してこの復讐から解放されたい。


 ――……この目的を達成したら俺は一体どうするんだ? 元の時代に帰れるように試行錯誤する? それともずっとこの時代で生きていくのか……? 考えてもみなかった。矢神に復讐することで頭が一杯だったばかりに今後の事を全く視野に入れてなかった。皆とこうやって過ごす時間は本当に楽しいし無くなってしまうと思うと、とても名残惜しい。だけど本音を言うと今すぐにでも元の時代に戻っていつも通りの暮らしがしたい。普通の生活に戻りたい。親にも友達にも会って話したい……普通の学生らしい普通の事がしたい。


 そんな事考えないようにしないとな……そうじゃないとこんな夢のような世界で生きていけない。これは夢なんかじゃなく現実なんだ、戻りたいって思えば戻れるなんて甘くない。忘れないと……俺はこの時代の人間にならないと。


「どうしたのよ、だんまりして」

 心配そうな表情でアスタロトさんは俺の顔を覗き込んだ。突然の行動に俺の肩はビクリと跳ね上がる。そっか、特訓するんだったな。


「すみません、特訓しますか!」

「ええ! 世界を氷結させし悪魔と下僕の契約……完了よ!」


 目を輝かせながら得意げに言葉を放ったアスタルトさん。ツッコミどころは沢山あったが、「おー!」と続き三人で部屋を出た。


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