悪から光を守る番人
次はない、一発一発を避け続けるかコイツを倒すか……どちらも可能性はゼロ。足を折られて身動きが取れない今、俺はただただ震えるだけだった。
「やめてくれ……」
光る拳を構えながらじりじりと近づいてくる巨大な影。その顔は悪寒がする程楽しそうに笑みを浮かべている。もう選択肢はない、死ぬのを待つだけだ。こんな所で貴重な一回を使う事になるなんて……。
……そういえば死んだ後の転生先は? 元の世界? 違う時代? ……それともこの場? 安易に死にに行くのは無謀だ。元の世界に戻れればいいが……この場で転生でもされたら死まで一直線だ。
大人しく死んでやるなんて癪だ。それなら俺に出来る最大の抵抗をして……抗うんだ、最期まで!
『……我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ』
死にたくない、元の世界に戻りたい、皆とまだ一緒に笑いあいたい……矢神に復讐もしてない……こんな中途半端な場所じゃ終われないんだ。少しでもいいから“最強”の力を貸してくれ。
『堕天使ルシファー!!!!』
透き通るような青みを帯びたオーラが辺りを包み込む。ルシファーを召喚した時、こんなオーラは出なかったはず。何かがおかしい。
「俺が代わりに相手をする」
その声と共に霧の様なオーラが晴れ、姿を現したのは、天使だった。
ゲームやアニメでよく見るような立派な四枚の羽根を背に生やし、腰まで伸びた透き通る白銀の髪。ゆっくりと開かれた瞳は深紅と濃紺のオッドアイ。ぞっとするほど美しいその姿に息を呑んだ。こんなに胸が痺れるほど綺麗だというのに男だ。
「あの……ルシファーは」
色々思う事や言いたい事はあったが、まずは疑問をぶつける。だがその男は顔色一つ変えないほど、凛としていて冷静だ。
「あまり詳しくは言えないが事情が色々絡まっていてな……今回だけ俺が君を助ける」
「あ、ありがとうございます……」
ゲームで言ったら最強ランキング一位。見た目がそう物語っている。ひょっとして俺はとんでもない当たり精霊を引き当てたのか……? でも今回だけという理由も、事情というのも色々質問したいが……俺の魔力が尽きる前にまずはこのオッサンを倒さないと。
「コ、コイツ……まさか!」
精霊を見た瞬間、目に見えて焦り出すオッサン。こんな盗賊でも知ってる程有名なのか……?
「さあ、そんな事よりもお前が犯してきた数多の罪を数えてみろ。お前が数え終わるのが先か、それともお前を倒すのが先か」
淡々と述べる精霊。先程とは打って変わってオッサンの方が腰を抜かし、地べたを這いつくばって必死に逃げようとする。殺しはしない、だが俺の足を折ってくれたお礼くらいはしないとな。
「ふむ……数えないという事は罪を認めないという事だな。――裁きのリュミエール、罪人に審判を下せ……断罪之光!」
元々目を閉じたくなる程明るかった部屋は、その詠唱が終わると共に強い光に包まれる。だけど不思議と嫌な眩しさじゃなかった。逆にさっきまで死ぬんじゃないかと思う程の足の痛みは緩和し、恐怖や焦りも消え去っていく。
「君の力になれて良かった、また会える日を心待ちにしている」
光の中で聞こえてくる精霊の優しい声。待ってくれ、聞きたいことは山ほど……
「あの、貴方は誰なんですか……! ルシファーとの事情って……」
「俺は悪から光を守る番人、その事情を知るにはまだ早い。……また会おう」
その言葉と一緒に消えた光と精霊。驚くことにゴブリンと戦っていた場所まで戻されていた。そこにはオッサンどころかゴブリンすら一体として残っていなかった。気持ち悪いほど静まり返ったこの場所で俺は必死に自分に問いかける。
何もかも無かった事になってる。頭が痛くなる程眩しい密室、折れた右足……犯人のオッサン……ゴブリンも魔物も、矢神の精霊も……全部全部消えている。
「悪から光を守る番人……」
その正体は何一つ掴めなかったが、矢神に打ち勝つ為の鍵である事は確かだ。「また会おう」という彼の言葉が頭をぐるぐる回る。消耗した魔力が回復したらルシファーを問い詰めよう。




