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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第1章 勇者降臨、その名もイオリ。
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死に近い感覚


「……何を言っているのか全然わからないわ」


 悪びれる様子も無く問いかける矢神。もうコイツには何を言っても無駄なようだ。相変わらず長身男も無表情のままだんまりだ。この状況でよくもそんな事が言えたな。


「普通の人じゃないから分からないんだろ」

「貴様……」


 矢神に悪態をつくと必ず突っかかってくる長身男。やっぱりガッチリと主従関係が結ばれている。という方が当たっているのかもしれない。こいつは口を開かないだけで理解はできているのか? まあ、それが理解できるのなら矢神の家来になんてなる訳がないか。

 

「そう……わたしは()()じゃないのね……ルプス?」

「姫、この男の戯言など聞いてはなりません」


 焦るように矢神に言い聞かせる長身男。その姿に何か違和感を感じた。こいつ……過保護というより、ご機嫌取りの方が強いんじゃないか? どうしてこんなに矢神のご機嫌取りなんて……何か隠しているのか。


 矢神は家来でも有無を言わさず殺すのか? じゃなきゃこんなに顔色を気にする訳がない。となるとやっぱり皆矢神の事をよく思ってないのか、いつか暗殺されるんじゃ……いや、コイツに復讐するのは俺だ。俺が倒さなきゃ意味がないんだ。


 ……!!! 忘れていた。矢神も輪廻転生を持っているかもしれないという可能性。それどころか好きな時代に行き来できる上位互換かもしれないという最悪な可能性。その場合あと矢神を何回殺さなくちゃいけないんだ?


 考えただけで気が遠くなる。


 そうなると尚更矢神より強力な精霊と契約しないといけない。ルシファーと矢神の精霊を戦わせたところで、俺もルシファーも全身の血を抜かれてワインに変えられるだけだ。


「貴方って本当に興味深い人ね」


 そう言って矢神は嘲うようにニヤニヤする。この笑顔が俺は大っ嫌いだ。こいつはどうして俺を嘲笑う? 何でそんな目で俺を見るんだ……


 矢神に近付こうとする魔物をバタバタと切り殺していく長身男。キリが無いほど沢山いるようだ。

 こうなったら怖いなんて言ってられない。魔物を始末しないとこっちが殺されてしまう。それに……今ここで長身男にだけ戦ってもらていたらいざという時に体力がない。なんて事になりかねない。だがこの長身男は人間を躊躇無く切り捨てる。頼ってしまって見過ごしたら俺も同罪な気がする。


 そして矢神も無限の様に湧いてくると気付いたのか、「キリが無いわね……ではこうしましょう」と嘆くように呟き、MPMの画面に触れる。


『地獄の嵐、罪人の首を刈り取りし者。我の声に応え地獄から姿を現せ!オーディン!』


 ゴブリンめがけ飛び降りてきた黒い仮面を付けた男。自分の身長よりもはるかに長い強靱な槍を軽々と薙ぎ払い、魔物の足を切り込んでゆく。このスラリとした体の何処にそんな筋肉があるのか疑問に思う程、洗練されきった立ち回りだ。


「オーディン、ここを任せてもいいかしら、一人で大丈夫よね?」


 矢神が問いかけると、その男は声を発することなく静かに頷いた。この無限に湧く敵を精霊に任せて俺たちは先に進むという訳か。となると矢神はこの精霊を出しているからここからは戦えないのか。

 矢神は何分召喚したままでいられるのか? 一回召喚しただけで体がだるくなる俺とは正反対だ。情けないが認めざるを得ない。

 元々ステータスが高かったのか、努力して魔力を増やしたのか……どちらにせよ悠長にしていられない、離されていくんじゃなくて追い付かないと。

 このままじゃ勝つどころか足元にも及ばない……今も矢神の方が上だと信じたくない、認めたくない。


 階段を登って行く矢神と長身男を必死に追いかけながら頭に思い描く……矢神みたいに人を苦しめる為に召喚するんじゃない……俺は矢神みたいな人間じゃない……


『……我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ』


 やっぱり静かな空間で集中して詠唱しないと成功しないのか……何一つ起こりはしなかった。

 クソ……こんな事になるなら事前に数体と契約しておけばよかった。


「遅いわよ! ここの部屋、入ってきて」


 ドアの中に入りながら、矢神は俺に向かって叫ぶ。誰に向かって命令してんだ……

 そう思いながらも俺は、たった今閉じたばかりの一際目立つ装飾が施されたドアを再び開き、恐怖を堪えながら進む。


 部屋は廊下や階段とは違って明るかった。そのコントラストに目がクラクラする。目を細めながらも辺りを見回すと……白く眩しい無機質な空間が広がっていた。さっきの薄暗く獣臭い空間とは正反対で、いつの間にか別の場所に連れて行かれたんじゃないかと思わせるほどだ。

 そして最悪な事態が起こる。矢神と長身男がいない……この部屋のドアは今通った一つしかなく、窓は一つもない。いないというよりは消えてる……


 どういう事だよ……物どころか塵一つもないくらいの空間。隠れられるような場所も無い。俺が消えたのか、矢神達が消えたのか? いずれにせよこの状況はまずい。下に降りて矢神の精霊のところに行くか? そこにもゴブリンや他の魔獣がわんさかいる。この部屋に居てもドアは一つ。敵が入ってきたら逃げられない、そっちの方が生き残れる自信がないな……という事は部屋を出て様子を見るしか道はない訳で、俺は扉に手を添えた。


「……開かない……何で、誰が鍵を……」


 先程は何も考える事無く、鍵も掛かっていない簡単に開く扉。それがほんの数秒でビクともしない重い扉に。オートロック……な訳ないよな、入る時は簡単に開いたんだ。

 誰かに意図的に閉じ込められたという事実は明白だ。ここのボスか? それとも矢神か。そんな事は後だ、この状況……死亡フラグで満ち溢れている。


 ――そして負の連鎖は起こった。……足音だ。徐々に大きくなる足音……そしてその音は部屋の間で止まる。

 鼓動は急激に速度を増し、流れ出る沢山の汗、口を塞ぎ呼吸が聴こえない様に耐えるが、そんな努力も虚しく、鍵が掛かっていたはずの扉は重たい音を立てて開いた。


「まんまと罠に入った馬鹿がいて助かったぜ」


 その声と共に入ってきたのは、いかにもプロレスの世界チャンピオンですというような図体の大きな男。片目は深い傷跡によって閉じられていて、関わってはいけない空気を醸し出している。

 荷物を返してください。なんて馬鹿正直にお願いしたって無駄だろうな。この場合逃げることすら不可能なんだよなぁ……


「さァ、ゴミ掃除と行きますか!!」


 オッサンは拳を構えた。俺がお前にとってゴミならお前は社会的にゴミだ。それはともあれどうしようか……見た感じこのオッサン、肉弾戦を仕掛けてくるのか? 訳も分からない魔法連発されるよりかは幾分かましだ。冷静に考えるとこれほどガタイがいい男と殴り合うなんて無謀極まりない筈なんだが、感覚がとち狂ってきてる。奇想天外な数々の魔法。元の時代の常識すら忘れ始めていた。


 そして殴り掛かってくる男。その重すぎる拳は見事に頬にクリーンヒット。全身に波を打つような鈍い痛みが全身に駆け回る。早い、この体格でこんな早い攻撃が出来るとは思いもしていなかった。テレビで見るものとは全く違う。どうせ動きは遅い、全然躱せる。なんて呑気に考えていた。そんな甘えもビリビリに引き裂かれ、頬は腫れ上がり始めた。


「……ッ!」

「やーっぱり腰抜けか。逃げてきた奴に聞いたよ、一人何もできない奴が居るってな」


 アイツか……矢神が()()()男だ。それで俺に目を付けたって訳か。だけど何故矢神達が消えたのか? 疑問に思う事はまだまだあった。


「何で俺を一人にしたんですか、二人は?」

「アイツ等は強すぎる、雑魚のお前だけ殺して魔法が解けないうちにずらかろうって訳さ」


 得意げに淡々と言葉を並べるオッサン。やっぱりあの二人の強さにはおっさんも危惧していたか……。だったら俺の事も殺さずとっとと逃げてくれよ。そしてこのオッサンが今回の黒幕みたいだな。


「時間がねぇ、次は体ごとぶち抜いてやる。安心しろよ? お前の死体だけは返してやるから」


 オッサンはそう言ってケラケラと笑いながら拳を光らせた。……やっぱり魔法か。さっきのはお遊び、ナメられてたって訳だ。この魔法は強化バフか? それともフルルの銃みたいに何かに変わるのか……。何も起こらず拳は光ったまま。強化か。


 何故か床に拳を打ちつけるオッサン。その威力は莫大で、床にヒビが入る。……そしてそのヒビは一瞬で消える。……そういう事か、この空間は異空間。所謂パラレルワールドって事だ。だから矢神達は消えた……正しくは俺が消えたんだ。


「おっと! 手が滑った!!!!」


 ワザとらしく大きな声で吐くオッサン。俺の足は鈍い音を立てる。襲ってきたのは心を食いやぶるほど激しい痛み。それは顔をしかめなくてはならないほど深い。


「ぐっ……!っああああああああ!!!」


 右足を抱えてその場に倒れ込む。その痛みに呼吸ができず、ただただ意識が遠のきそうになるのを、痛みで堪えていた。

 殺される、相手は本気だ。再び襲いかかる悲痛な不安。死の感覚に近いからこそ分かる。あの時と同じだ……俺はまた……


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