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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第1章 勇者降臨、その名もイオリ。
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残虐非道な悪魔


 そして盗賊たちは俺たちの目の前に現れる。ニヤニヤ笑ってる奴、威嚇している奴、剣を構えてる奴……予想のはるか上、二十人はいる。さあどうしたものか。こんなに沢山いるなんて聞いていない。

 ゼルさん達が来てくれれば……あ、MPMだ。メッセージを送ればきっと俺たちの方に来てくれるはずだ。


≪確認しました、メッセージ機能を使用します。ゼル・テュールにメッセージを送ります、そのまま仰って下さい≫


 ……なっ! 俺はまだ何も言ってない。この機械……俺の心を読んでるのか? そんな機械が存在するなんて……いや、こんな事悠長に考えてる暇はない。とりあえず今は……


「ゼルさん! 二十人位盗賊が出てきました! 助けてください!」

≪メッセージを送信します≫


 この機械……完璧すぎて気持ち悪い。まあ、便利な事に越した事はないな、ゼルさんが来てくれるなら今は何でもいいか。


≪ゼル・テュールからメッセージを受信しました≫

≪……イオリ、悪いがこっちも戦闘中だ。終わらせ次第向うからどうにか凌いでいてくれ≫


 ゼルさん、いつもと様子が……一体何があったんだ? それに盗賊も二手に分かれていたのか……となるとゼルさんが来るまでどうにか凌がないと。


「イオリ! 戦えるでござるか!」


 フルルは焦ったように投げかける。俺、戦えるのか……? 相手は剣を持ってる、魔法も使えるかもしれない……大口を叩いてはいたが、いざ戦闘となるとそうはいかない。本物の刃物……法律もクソもない世界……またあの時の刃物が突き刺さる痛みを感じないといけないのか……?




 ――……どうしようもなく怖い



 ガタガタと震える足。それを皆に見られたくなくて必死に手で押さえる。額には滴り落ちるほどの冷や汗。俺はなんて情けないんだ……


 その恐怖を知った今、リリアンが偉大に思えてきた。あんな小さな体で何も怖がる事無く敵がいるかもしれない道を突き進んでいく……敵を前にしただけでこんな発作を起こしている俺とは大違いだ。


「……やるわよ、ルプス」

「承知しました、殲滅して参ります」


 そんな俺を見て痺れを切らしたのか、使えないと思ったのか、矢神は静かに口を開き、告げる。そして刀を梢から抜く……

 俺は思わず息を呑んだ。本物の刀が目の前にある、そして立ち回りも見ることが出来る……興味津々だ。


「さ、わたしも戦おうかしら」


 呟く矢神を横目でちらりと見る。そういえばコイツはどんな精霊と契約してるんだ? ルシファーよりは使える精霊だろうけど……

 そして視線を戻すと……そこは血の海と化していた。


「何があった……」


 信じられないかもしれないが、あの二十人の敵は一人残らず倒れている。そして鼻を刺激する錆のような匂い。暗い夜中でも分かる程血が地面に流れていた。

 残酷にもこのタイミングで月が雲から顔を出す。月明かりに照らされる死体……その中に立ち、納刀する長身男……


 不謹慎だが見とれていた。一人でこんな大勢の相手を一瞬で倒すなんて……そしてこの納刀の仕方。流石にかっこ良すぎる。

 それだけなら間違いなく俺の憧れになっていただろう。……が悪魔信仰の残虐非道という事をすっかり忘れていた。“これだけ”じゃ終わらなかった。


『深紅の血を欲する者、我の声に応え地獄から姿を現せ! ザガン!』


 長身男が全員を倒した。その事実は明白で戦闘は済んだというのに、矢神は何故か詠唱を始めた。この伸びた男たちが見えないのか? いや、そんなはずはない。

 そうこうしているうちに突如現れたのは、悪魔の羽が生えた赤髪ショートヘアのメイドだった。


「祝杯ですね、姫様」

「えぇ、いつものお願いね」


 矢神がそう告げるなり精霊は倒れた男たちに近寄った。何がしたいのか、何が目的なのか分からず、俺は言葉を失うだけ。これから何が始めるのか……


「――くははッ……!! 血を下さい!……私に……!! 血を! 血を……!!!」


 狂ったように笑い叫ぶ精霊、その狂気は俺の言葉を更に失わせた。倒れた男たちの口から溢れてくる鮮血を水瓶に集めるその姿は、俺が今まで見てきたどんな物よりも残虐非道でグロテスクで……俺はついに腰を抜かした。

 全身の血を抜かれたのか、青白くなった死体を見て、やっぱりこれは現実なんだ。画像や映像なんかじゃない、目の前で起こっているんだ。だからこの恐怖は何百倍にも跳ね上がっているのだろう。


 そして集まった()()は光り輝く。途端に鼻につく発酵したような、成熟したような香り……まさにワインの様な香りだ。一体何がどうなったんだ?

「血をワインに、ワインを水に、また水をワインにこの子はこういう事が出来るのよ」


「……ぐっ……ッ! ゲホッゲホッ!」

 激しく襲い掛かる吐き気と嫌悪感。まさか……あの血をワインに変えたというのか?! 気持ち悪い……気持ち悪すぎる。そしてそれを呑もうなんて言う訳……


「さあ、ディア―ブルの勝利に。乾杯」


 矢神の合図と共に聞こえるワイングラスのぶつかる音……頼むから俺の耳にこれ以上入って来ないでくれ……さっきから嗚咽が止まらない。

 こいつらは人の血を飲んでいるんだ。ワインに変えたとしても、もとは人の血……


「どうして……殺しちゃったんでござるか……」


 フルルは静かに言葉を落とす。その声は震えている。アンジュは人を殺さない、ディア―ブルは人を躊躇なく殺す……その事実は平和主義者のフルルには、重く信じがたい事実だろう。

 だが質問を投げかけられた張本人は「どうしたの?」と言いたげな表情。罪の意識が全くない。


「殺さなくてもいい命だった……生きてれば更正できたかもしれないのに……ッ!!」


 その目からは沢山の涙が溢れている。フルルが……泣いてる。いつもはあんなに優しくて笑顔のフルルが……。だが矢神達にはそんな必死の訴えも通じなかったようだ。


「貴女、何を言っているの? 罪人は殺さないといけないんでしょう……? ね、ルプス」

「えぇ、この者たちに聞く耳を持ってはなりません」


 コイツは息を吐くかのように人並み外れたことをする。でもその表情に罪悪感の欠片もない。ここの世界に来て会った矢神は俺の知っている矢神では無くなっていた。

 いや、矢神に殺されたあの瞬間から、俺は矢神がどんな人なのか分からなくなっている。




 ――狂ってる。




 悪びれる様子の一欠けらも無いどころか、いけしゃあしゃあとワインを楽しんでいるディア―ブルの三人を見て、フルルは絶望に打ちひしがれていた。どこまでも人間の気持ちが分からない奴だな……いや、俺たちがこいつらの気持ちが理解できないだけなのかもしれないが、こんな奴らの気持ちなんて分からなくて大いに結構。こっちから願い下げだ。


「……あら、起きたようね」


 この最悪なタイミングで、リリアンが撃ち抜いた男が目を覚ました。こいつもまたワインの材料にされてしまうのか、またあの光景を見ないといけないと思うと気が飛びそうだ。その男は仲間が顔を青白く染めて倒れているのを見て腰を抜かし後ずさる。矢神と長身男は同じ分だけ男に詰め寄る。精霊はそれを無視してワインを楽しみ続けている。

 意識があるのに全身の血を抜かれて殺される……何て無残な死に方なんだ。きっとこの男も殺される事は分かっているはずだ。


「う……あっ……や、やめてくださ……」


 声を震わせ涙を浮かべながら必死に許しを請う男、それを表情一つ変えずに見つめる矢神。この状況だとどっちが悪者か判断できなくなる。確かに男は窃盗したが……それで死刑になるのはあまりにも常識外れ過ぎる。この時代に常識を求めることの無意味さはもう痛感してはいたが……


「貴方は帰っていいわよ」


 突如笑顔で男に投げかける矢神。男も俺もその言葉に呆然とした。殺したり逃がしたり、気まぐれなのか? コイツは一体何を考えているんだ。


「ほ、本当ですか……?」

「えぇ。――……ただし、黒幕の居場所を吐いてくれたらね?」


 そう言って矢神は顎をクイっと挙げ、長身男に合図する。そして男の首筋に当てられるのは光り輝く刃。やっぱりただで帰すわけがないよな……次は拷問ってわけか。


「――貴方が協力してくれるのと……首が飛ぶの。どっちが早いかしらね?」

「ヒッ……! ここを真っ直ぐ行ったところにある古城です……皆さんの物も全部そこに……」


 矢神は「そう、ありがと」と笑顔で呟き本当に男を開放すると、男は覚束ない足取りで逃げて行った。さっきの行動を見たからか協力させて殺すのかと思っていた。意外だ。


「本当に逃がすんだな」


 俺が信じられないというような表情で言うと、矢神はクスッと悪戯をする子供の様に笑う。

「どうせアレは死ぬわ。アジトに戻るしか選択肢はないんだもの」

「なんで死ぬって分かる? アジトにも戻らないかもしれないだろ」

「甘いわね、盗賊よ? 独り立ちなんて出来ると思う? それに戻ったところでどうせ殺すわよ。……だって“帰っていい”とは言ったけど殺さないなんて言ってないわ」


 矢神はニヤリと口角を上げながら語る。確かに不覚だった、逃がしたんじゃなくて一回帰らせただけだったのか……。どっちにしろあの男には死しか……そうならなくていいように俺が手を打たないと。

 フルルもリリアンも戦意を完璧に失っている今、俺がちゃんとしないと全部こいつらの言いなりになってしまう。それだけはどうしても避けたい、ゼルさんも白露さんもきっとそう考えてるはずだ。


「何固まっているの、アンジュの皆は怖くてついて来れないのかしら」


 誰のせいでこんな事になったと思ってるんだ……正直言って俺だってこんな胸糞悪い中戦闘なんて出来る気がしない。お前があんな残酷な事しなきゃ……フルルも俺も戦えてたはずだ。


「姫の言う通りでござる……フルルはちょっと具合が悪くなったから休んでいてもいいでござるか。どっちにしろリリアンを一人にはできぬでござる」


 フルルは申し訳なさそうに呟く。顔色も悪いようだ……俺はフルルの方が心配だ、出来る事ならここでゼルさん達が来るのを待って合流したい。だが矢神達はもう歩き出している……選択肢は一つ。それ以外の選択肢を出す暇も残されていない。だったらそれに従うしか出来ない。


「分かった、リリアンを頼んだ」

 その一言だけ残して矢神達の元に早足で向かう。

 お願いだ、ゼルさん……早く戻ってきてください。そう必死に願う俺を見て矢神はまたクスッと笑ってみせた。



 前々から不審に思ってはいたが、こいつらは一言も会話を交えない。ガッチリと固められた主従関係なのか、単にお互いをよく思っていないのか。最初はこいつらの会話からなにか情報を得ろうとしていたが……ここまできて情報どころか会話すら聞けない。という事はこいつやっぱりコミュ障の矢神かもな。見たところ長身男もコミュ力高そうには見えない、お互いコミュ障で……それが一番しっくり当てはまる。

 そう考えたら長身男も可哀想なものだ。ただ命令を執行するだけの為に四六時中矢神の傍についてないといけないなんて。


 それはそうと、この事件の黒幕が現れたら新しい精霊と契約しよう。そうやって戦う以外に道はないと思っている。ルシファーを呼んだとしても戦わずに暴言吐き散らして帰るだけか、矢神の事を刺激してさらに空気が悪くなるか。そのどっちかだな。だから性格の良くて強い精霊をどうか……


「驚いたわね……こんなとこに古城があったなんて」


 一応ここはディア―ブルの領地なんだろ? それなのにこの森林の入り組みを理解できてないのか。もしかしたら、俺のいた時代の富士の樹海に似ているのかもしれない。ずっと真っ直ぐ歩いていたはずが、何故か帰れなくなったり……現に矢神にその現象が起こっている。ちゃんとゼルさん達と合流できるのか不安になってきた。また連絡入れてみるか……? いや、まだゼルさん達は戦ってるかもしれないし、何だか様子がおかしかった。今はそっとしておいた方がいいのか……?


 俺の華麗なデビュー戦のはずがこんな波乱万丈帰れるか分からないものに変わるなんて……

 今すぐ家に……元の時代に戻りたい。どうして俺はこんな事になってるんだ? 平凡に普通の生活を送っていたはずなのに。……となるとイライラの矛先はやっぱり矢神に向くもので……無限ループだ。


 怪しい骸骨と石が混ざったような素材でできた入り口に恐る恐る足を踏み入れる。どうやら怖がっているのは俺だけみたいで、矢神と長身男は視線を逸らす事無くただ真っ直ぐと突き進んでいく。こういうとこだけは尊敬できるんだがな……


 何とも言えない不快な獣の臭いが鼻につく。野良犬の匂いに生ゴミの匂いを混ぜ、それをさらに強くしたようだった。そして一瞬で矢神の前に立つ長身男。敵のお出ましか?


「……姫、気を付けてください。魔獣がいます」

「そうね、この悪臭……気味が悪いわ」


 魔獣、モンスターか? そんな疑問を投げかけてもまともな答えが返ってくる可能性はゼロだ。きっとこいつらの頭には全滅の一文字しか無いだろうからな。

 雑魚モンスターならここで経験値を稼ぐのが正規ルートなんだろうが、どうも気が進まない。さっきも良い経験値稼ぎの機会はあったものの、恐怖が打ち勝って無駄にしてしまった。だから今回もそうなるんじゃないか、また矢神に一本先を取られてしまうのではないか、と不安になるばかりだった。


 因縁の相手、矢神にまた助けてもらうのか? そんな腰抜けだったのか? いや、俺は戦える。召喚魔法だって使えた。きっと今回も契約できるはずだ……大丈夫。


 徐々にきつくなる獣の匂いに顔を顰めながら、そう自分の気持ちを抑えつけていると、腕に何か冷たい物が触れた。……濡れてる。なんで濡れて……いや、知りたくない。近くで感じる荒い息遣い、生暖かい空気。俺は何も知りたくない。


 俺は反射的に強く閉じていた目をゆっくりと開く。立っていたのは所謂ゴブリンの類。口からは大量の血……何が起こっているのか分からないまま目を見開いていると……

「戦場で目を閉じるな、死ぬぞ」

 ゴブリンの腹から剣を抜く長身男。助けてくれたのか……?


「あ、ああ……助かりました」

「姫がいなかったらこんな事はしていない」


 強く俺を睨みつける長身男。こいつ人が素直に感謝してるっていうのに……やっぱり俺はこいつ等全員気に食わない。倒れているゴブリンを踏まない様に避けながら、長身男の後ろを歩く。


「貴方、魔法は使えないの? さっきから何もしないでばかりだけれど……」


 悪気はないのだろう、軽く放った矢神の一言に頭の中の何かが切れる音がした。 

 ――そんなの俺が一番分かってる。痛いほど分かってる……じゃあ逆になんでお前らはそんなに軽々と人を殺せるんだよ。それが()()()()()事になるんだったら、俺は何もしないままでいい。人を殺すことは当たり前じゃないんだ。そんな食事をするかのように軽く俺も殺されたと思うと更に冷静でいられなかった。


「お前らに何が分かるんだよ! どうしてそんな簡単に人が殺せるんだ? 心が無いからだろ? だからそんな簡単に沢山人が殺せるんだ。俺らはお前らと違って心があるんだ、だから怖いんだよ、相手と殺し合うなんて簡単にできねぇんだよ!!」 


 いつの間にか流れてきた大量の涙と汗。そんな事よりも怒りの方が強かった。今まで考えすぎないようにしていたのに。フルルと俺の戦意喪失、ゼルさんの様子がおかしかったのもきっと……こいつらの自分勝手な行動と言動に呆れるどころか憤怒していた。


 それでも尚、矢神は俺が言っていることが理解できない様で、不思議そうな顔をした。やっぱりこいつ等には大切な物が欠けている。そう考えると少しだけ可哀想に思えない事も無いが、コイツがやってきた事を思い出すと、そんな慈悲の心さえも吹き飛んだ。



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