prologue
初投稿です!
頑張って書いたので、最後まで読んでくれると嬉しいです!
今回は私の大好きな絵に関するお話になります!
この世界は、生まれた時から魔法が使える。
火を灯すもの、水を操るもの、風を吹かせるもの。
人々はそれぞれ異なる魔法を授かり、その力によって将来さえも決められていく。
魔法の強さは才能の証明であり、時には家柄よりも重視されるものだった。
だからこそ、十五歳を迎えた子どもたちは、魔法学園への入学を目指す。
優れた魔法使いになるために。
自分の才能を証明するために。
そして今日、私――リリア・フェルノートもまた、魔法学園の入学試験に挑んでいた。
「それでは、次の受験生。前へ」
「は、はいっ!」
返事をして、一歩前に出る。
目の前に置かれているのは、透明な水晶玉だった。
魔力を持つ者が触れれば、その力に応じて光を放つという。
今まで何度も聞かされてきた話だ。
大丈夫。きっと大丈夫。
私は胸の前でぎゅっと手を握り、そっと水晶玉に触れた。
――何も起こらない。
「……もう一度、試してみてください」
試験官の先生が穏やかに告げた。
私は頷き、今度は目を閉じて意識を集中させる。
炎。
水。
風。
どんなものでもいい。ほんの少しでいいから、私の中にあるはずの魔法を呼び起こそうとした。
けれど。
水晶玉は、いつまで経っても透明なままだった。
「……そう、ですか」
先生の声に、わずかな困惑が混じる。
後ろから、小さな囁き声が聞こえてきた。
「魔法が使えないの?」
「そんなことあるんだ……」
聞こえないふりをした。
慣れている。
こういう反応には、もう慣れているのだ。
生まれたときから魔法が使えない。
それが私だった。
魔法の才能がないのだから、学園に入るのは難しい。そんなことは、私自身が一番よくわかっている。
それでも、諦めたくなかった。
だって、ここは魔法学園なのだから。
もしかしたら、何かのきっかけで魔法が使えるようになるかもしれない。
そんな淡い期待を、私はずっと捨てられずにいた。
「……ありがとうございました」
頭を下げて、試験会場を後にする。
背中に視線を感じたけれど、振り返らなかった。
中庭に出ると、柔らかな風が頬を撫でた。
白いレンガで造られた壁。手入れの行き届いた花壇。陽の光を受けて輝く噴水。
どこを見ても、魔法学園は美しかった。
こんな場所で勉強できたら、どれほど楽しいだろう。
そう思うと、胸の奥が少しだけ痛んだ。
「……はぁ」
小さく息を吐き、私は中庭の隅にある白いレンガの壁へと歩いていった。
そして、壁に背を預けて座り込む。
鞄を開き、中から一冊のスケッチブックを取り出した。
魔法は使えない。
才能だって、きっとない。
でも。
「……絵なら、描けるもん」
誰に聞かせるわけでもなく、私は呟いた。
スケッチブックを膝の上に広げ、鉛筆を手に取る。
何を描こうか。
少し考えてから、目の前の花壇に視線を向けた。
そこには、小さな白い花が咲いていた。
風に揺れる細い茎。幾重にも重なる花びら。中央に集まった、小さな黄色い雄しべ。
私は花をじっと見つめた。
花びらは、思っていたよりもずっと複雑な形をしている。
ただ白く塗ればいいわけじゃない。光が当たる部分と、影になる部分。重なり合う花びらの境目。
そういう細かな違いが集まって、ひとつの花になっている。
私は鉛筆を動かし始めた。
一本、線を引く。
もう一本、重ねる。
花びらの輪郭を描き、葉の形を整え、茎を伸ばす。
少し歪んでしまったところは、消しゴムで消して描き直した。
納得できるまで、何度でも。
そうしているうちに、さっきまで胸の中にあったもやもやが、少しずつ薄れていった。
試験のことも、周囲の視線も、今だけは忘れられる。
私にとって、絵を描く時間は特別だった。
頭の中にある景色を、少しずつ紙の上へ移していく。
見たものを、見たままに。
感じたものを、自分なりの形に。
それができるだけで、私は嬉しかった。
「……できた」
最後に、花の中央へ小さな点を描き加える。
スケッチブックの上には、一輪の白い花が咲いていた。
もちろん、本物ではない。
ただの鉛筆の線と、紙の上に描かれた模様。
それでも、自分ではなかなか上手に描けたと思う。
私は少しだけ満足して、花の絵を眺めた。
そのときだった。
ふわり、と。
「……え?」
紙の上で、花びらが揺れた。
私は瞬きをした。
風だろうか。
けれど、周囲の草花は動いていない。
スケッチブックの上に視線を戻す。
花は、そこにあった。
鉛筆で描いたはずの、白い花。
なのに。
花びらの端が、ほんの少しだけ浮き上がっている。
「な、に……?」
思わず身を乗り出した。
目を近づける。
紙の表面に描かれた線のはずなのに、花びらには確かな厚みがあった。
白い花びらの重なり。
淡い影。
中央に集まった、小さな黄色。
それは、私が目の前の花壇で見ていた花と、そっくりだった。
いや。
違う。
これは、私が描いた花だ。
私が、今、この手で描いたものだ。
「うそ……」
声が震えた。
花びらが、もう一度揺れる。
その瞬間、花の輪郭がふわりとほどけた。
紙の上から、白い花がゆっくりと浮かび上がる。
鉛筆の線が淡い光に包まれ、花びらが一枚ずつ、柔らかな風を受けるように開いていく。
私は息をするのも忘れて、その光景を見つめていた。
そして。
私のスケッチブックの上には、一輪の花が咲いていた。
紙に描かれた絵ではない。
触れれば揺れ、風を受ければ花びらを震わせる、本物の花が。
「…………え?」
間の抜けた声が、静かな中庭に響いた。
私は恐る恐る、花に手を伸ばした。
指先が、花びらに触れる。
柔らかかった。
確かな感触があった。
これは、夢なんかじゃない。
魔法を使えなかった私が。
何度挑戦しても、水晶玉を光らせることすらできなかった私が。
ただ、花を描いただけなのに。
――どうして。
どうして、描いた花が本物になっているの?
答えを知る者は、まだ誰もいなかった。
私自身でさえ、このときはまだ知らなかったのだ。
たった一輪の花が、世界に隠された秘密を暴く始まりになるなんて。
面白かった分だけ、星を押してくれると嬉しいです!
最後まで読んでくれて、ありがとうございました(≧▽≦)




