表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/18

8:罪滅ぼし

皆の目線に釘付けにされた私は、動くことができない。


「ちょっと、なんでこんなところに猫がいるの?

まさか、知らない間に部屋に入り込んだの?」


「やばいわよ!

猫が部屋に入ってたなんてルドルフ様に知られたら、私達処刑じゃない?」


「で、でも、別に私たちが入れた訳じゃ」


「そんな理屈がルドルフ様に通じると思う?

あの方は常日頃から、誰かを処刑にしたくて、その口実を探し回っているって噂よ?」


「ほ、ホントに!ひ、ひぃ~」


そう言うと、メイドさんの一人が慌てて私の首を掴む。


思わず暴れ抵抗するも、全く敵わない。

彼女は開いていた窓から私を投げ捨てようと、勢いよく振りかぶった。


と、その時。


「何をしているのです?!」


響いたのは、空気を切り裂くような声。


すぐさまそちらに目線を向けると、息を荒げたルドルフ様の姿が、そこにはあった。


「えっ、あ、ルドルフ様!その、違うんです!!!」


私を掴んでいたメイドさんは、慌てて私を背の後ろに隠す。


しかし。


「子猫から、手を離しなさい。乱暴に扱ってよいものではありません」


するとメイドさんは、「はいっ」と甲高い声を上げると、

すぐさま私を床へと下ろした。


ルドルフ様は足音を鳴らしながら、こちらに駆け寄る。


「ここの物はすべて、私個人に属しています。

それをなぜ、勝手に処分しようとしたのですか?」


ルドルフ様は私を拾い上げると、眉をつり上げメイドさんをにらみつける。


メイドさんは真っ青になりながら「そのようなつもりでは」と震える声で告げる。


「あ、あの、私たちは、この猫が勝手にルドルフ様の部屋に入り込んだのだと思ったのです。

だから逃がそうとしたのです。まさか、ルドルフ様が猫をお飼いになっていただなんて……」


別のメイドさんは、しどろもどろになりながらも、必死に言葉を尽くす。


ルドルフ様は唇を噛むと、そのまま長いため息を吐いた。


「……すいません。私も冷静さを欠いていましたね。

事情はわかりました。猫のことを伝えていなかった私にも責任があります。

この子は籠に入れておきますので、掃除を続けてください」


そう言うと、ルドルフ様は昨晩用意してくれた、ブランケットの敷かれた籠を取り出し、

その中に私を入れた。

そして籠をデスクに置くと、再び部屋を後にした。


気がつくと、籠の中には、さりげなく食パンの耳も入れられている。

これを私に与えるために、わざわざ部屋に戻ってきてくれたのだろうか。


なんて考えていると、メイドさん三人の大きなため息が、一斉に響いた。


「よ、よかった……処刑されずに済んだ……」


一人のメイドさんはへなへなと、床にへたり込んだ。


「だ、だめよ。安心するのはまだ早いわ。

あの一見丁寧な素振りの裏に、とてつもない残虐性を秘めているって噂なんだから!」


「た、確かに、使用人の私たちにも敬語って、かえって不気味よね」


辺りがシーンと静まりかえる。メ

イドさんの一人が、チラリと私に視線を向ける。


「……そういえば、この猫、自分のものだって言ってたわね」


「あの残虐公が猫を飼うだなんて、信じられない」


「で、でも、私昨日もこの部屋の掃除当番だったけれど、こんな猫いなかったわよ?」


「じゃあ、昨日の夜に拾ってこられたのかしら」


しばらくの沈黙の後、一人のメイドさんが口を開く。


「……メアリ様を処刑した、罪滅ぼしに、とか?」


すると、残りのメイドさんが「まさか!」と声をそろえる。


「ないない。そんなこと。だってあの『残虐公』よ?

処刑のことなんて、露ほども気にしちゃいないわよ」


「そうよ!あのルドルフ様が……。

と、とにかく、さっさと用を済ませちゃいましょう!!」


そう誰かが叫んでからは早かった。

先程まであれほど話に花を咲かせていた三人は、

一切私語をせずに掃除を素早く終わらせた。


そして逃げるように、部屋を後にする。


残された私は呆気にとられながらも、一つ、ストンと腑に落ちたことがあった。


(ルドルフ様は、罪滅ぼしのために、私を拾ってくださったんだ)


確かに、昨夜、ルドルフ様は今回の処刑のことを「堪えた」と仰っていた。

処刑に至った経緯はわからないが、彼にとって、苦渋の決断だったのだろう。


だから、その後ろめたさを払拭するために、私を拾われた。

だから私に、特別に優しい。そう考えると、すべて合点が行く。


誰も居なくなった部屋で、私は短く息を付く。

そして何気なく、視線を籠の外のデスクに目をやった。


そこには羽ペンやら紙やら綺麗に整頓されていた。


と、ふと、目に付いたのは一通の封筒だった。

宛名は国王陛下及びルドルフ公爵宛となっている。


そういえば、昨日ルドルフ様は、兵士と思われる方から手紙を受け取られていた。


(確か、処刑前のメアリ様が、王とルドルフ様に向けて書かれた手紙……)


気になった私は、そっとデスクの上へと降り立つ。


封筒は、すでに乱雑に開けられていた。


私は口を使い便せんを抜き取ると、二つ折りにされていたそれを、そっと開く。


そこにはこう書かれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ