63:これから
真っ直ぐな問いに、私は瞬間、呼吸を止める。
確かに、ルドルフ様の言うとおりだ。
今までは「ルドルフ様奪還」という期間の限られた目標があったので、エドガーも同居を快諾してくれた。
でも、そのゴールが達成された今、いつまでもエドガーの世話になるわけにはいかない。
かといって、父とあんな別れ方をしたのだ。今更戻ることもできない。
「それは……、まだ決めておりません。どこかに、新たに住む場所を探さねば、とは思っているのですが」
小さな声で、正直に告白する。
するとルドルフ様は「そうですか、なら」と言いながらも、一瞬俯く。
が、彼は再び顔を上げ、何か決意したかのように告げた。
「もし良ければ、今までのように、私と城で、暮らしませんか?エドガー氏やウィルの話によれば、あなたは妹であるリネット嬢のことを気にしておられるのでしょう?城で暮らすのであれば、彼女の近くにいられるし、それに」
ルドルフ様は、一旦息を止めた後に、私の瞳を真っ直ぐ見つめながら、言った。
「なにより、私が、あなたのそばにいたいのです。今後は、私が、この生涯を賭けて、あなたを護っていきたいのです」
思いも寄らぬことに瞬間、私は目を見開く。
数秒の、沈黙。
その後ルドルフ様は、急に慌てたように、顔の前で両手を振る。
「あ、と言っても、我々の安全が確保されてから、の話です。私たちは城から抜け出してきたばかりで、今後、どうなるかはわかりませんからね。が、今日のあの様子ですと、トレド大臣とクラウス陛下が、今までと変わりなく政権を握り続けるのは難しいでしょう。もし、私の身の潔白が証明され、私が城で暮らせる日が来たら、その時は、い、一緒に暮らしませんかという意味です。で、でも、少し拙速でしたね。まだ明日の状況も分からないのに、こんな告白を」
そう早口で話すルドルフ様は、耳まで真っ赤に染まっている。
私はその姿が少し可笑しくて、思わず笑みをこぼす。
ルドルフ様は気まずそうに俯いた。
そんな彼を見つめながら、静かに答える。
「私も……ルドルフ様と一緒にいたいです。たとえ、安全が確保されていなくても、この先、どんなことがあろうとも、私も、ルドルフ様と、日々を過ごしてまいりたいです」
そして「あの頃と同じように」と付け加える。
ルドルフ様は顔を上げ、呼吸を止める。
私は、頬の熱さを気にせずに、ニコリと笑んだ。
私たちの間を、優しい風が駆け抜ける。
それは夜風だというのに、そこまで冷たくはない。
そう、春が近いのだ。
「……そう、ですか」
ルドルフ様もまた、微笑む。
「では、これからも、よ、よろしくお願いします。ポラリ……いえ、コレット様」
彼の後ろに広がる空は、どこまでもどこまでも澄んでいた。
夜の帳を飾る星々は、私たちの新たな関係を祝福するかのように、きらきらと瞬いている。
私は、ルドルフ様に拾われた、あの日の夜空を思い出し、同時に、目の前の彼に視線をやる。
そして、息を吸い込むと、「よろしくお願いします」と頷いた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、私が初めて「小説家になろう」に投稿した長編小説です。
ここまで規模の大きなサイトに連続投稿するのは初めてで、
しかも最近、長編は不利だ、なんて声も聞こえていました。
そんな中、『固定ファンもいない私の小説を読んでくれる人はいるのだろうか』とかなり不安になりながら、投稿を始めました。
正直、感想0、評価0ポイントも覚悟していました。
しかし、徐々にPV数は増え、感想スタンプ(?)などで評価していただくことも多くなり、それらは確実に、投稿への励みになりました。
完結まで続けてこられたのは、今、お読みくださっている読者様のおかげです。
無名の私の、無名の作品をここまで追いかけてくださり、本当にありがとうございます。
現在、新たな長編を準備中です。
また、短編もちょこちょこ投稿したいと思いますので、もし、今後もお付き合いくだされば嬉しいです。
最後に。
このお話のテーマは「報われる」です。
いつしか愛されることを諦め、虚無感の中生きてきたコレット。
自ら汚名を被り、人との交わりに背を向けてきたルドルフ。
二人とも、多くの理不尽に打ちのめされた結果、「自分も幸福になれる可能性がある」ということを忘れていました。
そういう人って、現実世界にも結構多いのではないのかな、と思います。
頑張っても、報われない。努力しても、責務を淡々とこなしても、見てくれる人は誰もいない。
そんな、スポットライトから縁遠い人にこそ、報われてほしい、幸せになってほしい。
このような気持ちから、この物語を書きました。
もし、今これを読んでいるあなたが、そんな状況下にいらっしゃるのであれば、
あなたのその地道な営みが、痛みを我慢してここまで来た日々が、
どうか、報われますように。
コレットとルドルフのように、地味でも、きらびやかでなくても、
穏やかで落ち着いた幸福が、今のその先に続いていますように。
それを願ってやみません。
こんなところまで、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
麦野ほなみ




