62:星空の下で
その日の「お祝い」は夜になってもなお、続いた。
エドガーとウィル様は盛大に飲み、私とルドルフ様は、それを見ながら微笑んでいた。
こんなに沢山笑ったことなんで、今まで一度もなかった。
きっと明日は、頬が筋肉痛になるんだろうな、なんて思いながらも、私は始終、笑みをやめることができなかった。
そして深夜。ふと目を覚ますと、私は、いつの間にかソファーベッドの上で眠っていた。
エドガーとウィル様は、酔い潰れたのか、瓶を片手に床でグウグウと寝息を立てている。
ルドルフ様は、壁を背に、床に腰を下ろし眠っている。
無防備な三人を見ていると、なんだか自然と笑みがこぼれる。
私はしばらくその光景を見つめた後、一人でそっと、小屋の扉を開けた。
「やっぱり」
一人でつぶやきながら、私は空を見上げる。
今朝は雲一つない快晴だった、なので、きっと夜は星が綺麗だろうと思っていた。
案の定、私の視界には、満天の星空が広がっていた。
沼地のほとりに腰を下ろす。少し地面が湿っているが、気にはならなかった。
私は、星を見ながらため息を付く。
すべてが終わった。みんな無事だ。
それが何より嬉しい。安堵のため息が、思わずこぼれた。
と、その時だった。
「ポラリス」
凜とした声にハッとして、振り向く。後ろにはブランケットを手に持った、ルドルフ様の姿があった。
「だいぶ春が近くなってきたとはいえ、まだ夜は少し、冷えますよ。これ」
そう言いながらルドルフ様は、私の肩にそっと、ブランケットをかける。
「……ありがとうございます」
私はなんだか恥ずかしくなり、彼から顔を背ける。
ルドルフ様はしばらくの間の後「座ってもいいですか?」と、私の隣に腰を下ろした。
「……あなたと再び、こうして星空を眺める日が来るなんて、思ってもいませんでした」
少しの間の後、ルドルフ様が話し始める。
「私も、です。ルドルフ様」
すると彼は、ふっと息を吐き、空を眺めながら、言った。
「というか……あなたをポラリスと呼ぶのは、失礼ですね。すいません。慣れておらず……。コレット・アルハイム嬢、ですよね?」
「い、いえ、ポラリスでかまいません。私、その名前、とても気に入っているのです」
するとルドルフ様は、「本当に?」と言いながらこちらを見る。
月明かりが、彼を横からぼんやりと照らし、浮き上がらせる。
つややかなコバルト色の髪に白い肌。
青碧の瞳はエメラルドのような深い輝きを秘めている。
あぁ、これだ。この顔だ。
私の愛する人の、顔。
この人が傍にいるだけで、心が落ち着く。
とても安心できる。張り詰めている何かが、解けていく心地がする。
「よかった。名を気に入っていただけて。実は私も、ぴったりの名だと思っているのです。名付けした時は、単にあなたとの出会いを回想して思いついただけなのですが、今、振り返ってみて、本当にあなたは、私のポラリスだなと感じているのです」
彼はそこで一旦言葉を切ると、眉尻を下げながら続けた。
「死刑宣告がされて、処刑をただ待つだけの日々を送っていた頃、私の瞼の裏側には、いつだってあなたがいました。絶望と恐怖で気が狂いそうな時もありましたが、それを持ちこたえられたのは、あなたのおかげなんです。あなたはまさに、暗闇の日々で唯一輝く、私の北極星でした。あなたがいたから、私は……」
そう言って彼は、目を細め、優しい眼差しで私を見る。
「本当に、ありがとうございます」
頭を下げるルドルフ様に、私は思わず首を振る。
「いえ、わ、私の方こそ、拾っていただき、可愛がっていただいて。ルドルフ様には、返しきれないくらいの恩があるのです。だから、お礼を言われる筋合いなどなくて」
「死の淵から助けていただいたのは私の方です。恩を返さねばならないのは、私のほうだ」
静かに微笑むルドルフ様。その美しいお顔に、私は一瞬、引き込まれる。
何秒か見つめ合う形になった後、ルドルフ様は「ところで」と、語気を強めた。
「これからは、どうされるおつもりなのですか?エドガー氏からの話を聞いた限りだと、あなたは、アルハイム家には戻りづらいのではありませんか?」
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
物語ももうすぐおしまいです。
ここまで投稿できたのは、読んでくださるあなたのおかげです。
本当に感謝しております。
リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、
お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。
今回もありがとうございました。




