60:正体
「あなたは、その……本当にポラリス、なのですか?」
ルドルフ様に尋ねられ、私は身をこわばらせる。
彼を助けに行った時は、感情の高まりも相まって、自分がポラリスだ、と宣言してしまった。
しかし気持ちが静まってから、思う。
私は自ら、なんてことを告白してしまったのだろうと。
向かいの席に座るウィル様は、黙っている。
私の答えを待っているのだ。
今更逃げ場はなく、ごまかしも、効かない。
私は数秒の後、覚悟を決めて、口を開いた。
「……申し訳ございません、ルドルフ公爵様。そうです。私は、あなたに拾っていただいた、猫の、ポラリスです」
言ってしまった。そう思い、目を強く閉じる。
自分が可愛がっていた愛猫が、実は人間だったなんて、ルドルフ様は一体どんな気分になるだろうか。
次に来る言葉が怖くて、私は思わず目を伏せる。
覚悟はできていたはずなのに、今更になってとても恐ろしい。
今までの関係が壊れる、そう思った瞬間だった。
温かい指先が、私の身体をかすめる。
と同時に、懐かしい匂いと体温が、私をふわりと包み込む。
その信じられない出来事に、私は肩をすくめ、顔を上げる。
「あなたは、やはりポラリスだったのですか」
彼は私の肩を優しく包むと、目を潤ませ、つぶやいた。
「あなたに、会いたかった。ずっと、ずっと……」
そう言いながらルドルフ様は、私を再び抱き寄せる。
彼の、カモミールのような、穏やかで優しい匂いが鼻腔を付く。
思いも寄らない言葉に私は、返事をするのを忘れてしまう。
「あなたのことを考えない日はありませんでした。無事だろうか、毎日、元気で暮らせているだろうか。捨てられたとは思っていないだろうか。独房でも、ただただ、あなたが気がかりでした。だから、よかった。どんな姿であろうと再び、あなたに会うことができて」
「……お怒りに、ならないのですか?」
おそるおそる尋ねると、ルドルフ様は身体を離し、「なぜです?」と問う。
「怒る理由がないではありませんか。あなたは私の大切な人なのですよ?再会できて光栄です」
そう言いながら、ルドルフ様は目を細める。
その瞳には、涙さえ浮かんでいるようにも見えた。私は、思わず口を開く。
「で、でも、私は、あなたを騙していたのです。猫のふりをして、ルドルフ様のお部屋に……」
「ふり?ふりではありませんよ。本当に猫だったではありませんか」
「いや、でも、その、猫の姿でその……ルドルフ様のベッドに寝そべったり、とか……」
私はしどろもどろになりながらも、自らの罪を告白する。
恥ずかしさもあり、顔が熱い。
ふとルドルフ様の方を見ると、彼も過去の私たちの日々を思い出したのか、急に頬が赤らんだ。
「た、確かにそれは……。私も、あなたをなで回したり……その……」
「はいはい~。そこまでそこまで」
パンと手を打つ音が響く。ウィル様は眉を寄せながら、見てられないという表情で口を開く。
「色々恥ずいことはあると思いますが、もう終わっちまったことです。とりあえず今は、アジトに戻りましょう。今後のことも話し合う必要があるんだから」
「……はい」
私とルドルフ様が我に返り、声を揃えると、ウィル様は呆れたようなため息をついた。
ウィル様がアジト、と呼んだのは、エドガーの沼地の小屋のことだ。
私たちが馬車で小屋に到着した直後に、エドガーも無事、帰ってきた。
「見たか、おまえら~。これが俺の呪いの力だ!なっ、すごかっただろう、すごかっただろう?!」
エドガーは、小屋の扉を開けるないなや、開口一番にそう叫んだ。
「声でかっ」と耳を塞ぐウィル様。
エドガーはウィル様を覗き込み、「どうだった?俺の活躍は」とにやけ顔で尋ねた。
「あぁ、すごかった。すごかったからおっさん、ちょっと離れろよ!調子乗りすぎだ!」
「調子乗りすぎって、そりゃ調子に乗りたくもなるよ~。俺の呪術が、あんな大勢の民衆の前で披露できたんだぜぇ。黙って指を咥えて見てたウィル君とは違い、俺は功労者だから!調子にくらいのせてくれよ!」
「バカ、城内の人払いしたのは誰だと思っているんだよ!影で俺が頑張ったから、ねこすけはスムーズに城から脱出できたの!俺だって功労者だっつーの!」
エドガーとウィル様の掛け合いは続く。
この数日で、二人の仲は急速に縮まった。
ウィル様なんて、今ではエドガーのことを「おっさん」呼びだ。
「この方は……」
何かに気がついたのか、ルドルフ様が目を見開く。
声に反応したエドガーは、自ら手を胸に当て、ぺこりとお辞儀をする。
「これはこれは、ルドルフ・フォード残虐公様。私の名はエドガー・ロウ。この国随一の呪術師でございます」
「エドガーは、私の父の同期生であり、私を猫に変えた人でもあります。今回のトレド大臣の演説は、彼のおかげなんです」
私が説明を付け加えるが、ルドルフ様はますます混乱されたようだった。
「ゼスト会長の同期生で、呪術師で、ポラリスを猫に変えて、演説も主導した……?」
「肩書きが多いでしょ?それだけでも、俺の偉大さが分かっていただけると思いますが……、まぁ、順を追って話すと……」
エドガーは椅子にどかっと腰を下ろすと、今までの出来事を得意げに話し始めた。
彼が全てを話し終わった後、ルドルフ様はそっと口を開く。
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
物語も後はエピローグを残すところになっています。
残り3話ほどなので、明日、連続投稿して物語を完結させたいと思っています。
ここまで投稿できたのは、読んでくださるあなたのおかげです。
本当に感謝しております。
残りあと少しなので、最後までお付き合いいただけると、大変嬉しいです。
今回もありがとうございました。




