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57:口を開いたのは

私は、少女の言葉の意味が一瞬分からなかった。


「……ポラリス?」


彼女はコクリと頷くと、魔術で手枷の鎖を焼き切り、私の手を取る。


「あなたを助けに参りました。が、時間がありません。私に続いて」


彼女がそうつぶやいた、その時だ。


「あいつを逃がすな!!!捕まえろ!!!!」


薄い煙の向こうで、必死に叫ぶ者がいる。

トレド大臣だ。


しかし、周りの兵は全員気絶しているのか、彼の命に従う者はいない。

しびれを切らした彼は、自ら大きなお腹を揺らしこちらに近づいてきた。

少女は鋭い目で彼を睨むと同時に、「こちらへ」と私の手を引く。


しかし彼女が向かった先は、城内へ続く扉ではなく、バルコニーの中央部。

まさか彼女は、ここから飛び降りようというのだろうか?

民衆のど真ん中を突っ切って、逃げようというのか?

混乱したまま、私は彼女と、バルコニーの中央へと移動する。


「逃がすか!!」


大臣がこちらに駆けよってくる。と、その時、少女は掌を掲げる。

その先には閃光が灯っていた。

魔術が自分に向けられると思ったのか、トレド大臣は「ひっ」と声を上げ、尻餅をつく。


しかしそれは、あろうことか、バルコニーの下の民衆に向けて放たれた。


辺りにいた人々は、被雷を避けるべく、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れる。

群衆の中に、ぽっかり空いた円ができる。


しかし一人、その中心に留まったままの者がいた。


危ないと思ったが、結局、彼女の放った閃光は、彼の真上で小さな爆発を起こしただけだった。

火花こそ散ったが、その男はローブのフードをかぶっており、全く無傷のようだ。


彼がフードを脱ぐ。藤色の髪に丸眼鏡を掛けたその男は、その瞬間、皆の視線を集めた。


彼は顔を上げると、バルコニー上のトレド大臣の方を見た瞬間、ニヤリと微笑んだ。

なんの笑みだ?と思った刹那、次に口を開いたのは以外な人物だった。


「わ、わたし、トレド・モノモラは」


後ろから声がして、咄嗟に目を向ける。

その声の主は、あろうことか、トレド大臣だった。


彼はまるで、演説するかのようにバルコニーの中央で、民衆に向かって大声で語り出した。


「私、トレド・モノモラは、ここに、ルドルフ・フォード公爵の無罪を証言します。

と、同時に、我が深き罪を告白します。

というのも、今回の事件、影で糸を引いていたのは、すべて、この私なのです。

税金を自らの懐に入れ、その一部を反逆者達に流していたのは、何を隠そう、私です。

罪の意識に耐えかねて、このような場で告白する愚行をお許しください」


静まりかえる民衆。その独白に一瞬、耳を疑った。


彼は一体、何を言っているのだろう。

大臣は元来、決して自らの罪を自分から認めるような人間ではない。

なのに、そんな彼が今、突然大声で、しかも公衆の面前で、「自らの罪」を語り出したのだ。


信じられない、という気持ちで大臣を見つめると、彼は憎々しげにこちらを睨んできた。

しかし、自省の弁は止まらない。

彼は滝のように油汗を流しながら、パクパクと口を動かし、語り続けた。

手で口を覆おうとしているが、それでも唇は止まらない。

足も床に張り付いたかのように、棒立ちになっている。

まるで口が、自分の意に反して勝手に動いているかのようだ。


民衆は、騒然となりながらも、黙ってその告白を聞いている。


「おい、トレド、何を言っているんだ?!」


慌てたクラウス陛下が、バルコニー前方まで走り出て、トレド大臣の肩を揺らした。

大臣は彼を見ながら「あなたにも謝らなければならないことが」と続けた。


「ストレス発散にと、クラウス陛下に猫狩りを薦めたのも私です」


瞬間、陛下の顔が青ざめる。

私は状況が飲み込めず、唖然としながらその場に立ち尽くしていた。

が、その時、少女が私の手を引く。


「逃げましょう、今のうちに」


彼女はそう囁くと、バルコニーの奥まで下がり、出入り口の鉄扉を開けた。


群衆からの野次が飛ぶかと思いきや、彼らは大臣の告白に釘付けで、誰もこちらを見てはいなかった。




今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。


物語も佳境です。

継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。


本当に感謝しております。

リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、

お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。


今回もありがとうございました。

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