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55:クラウスの笑み

鉄の手枷をはめられた私は、二人の兵士の後に続く。

コツン、コツンと乾いた足音が響く。


薄暗い廊下を抜け、石階段をこうして上がりながら、私はふと、ポラリスのことを思い出す。


確か、ポラリスを拾ったあの日も、私は彼女を抱え、こうして足音を響かせて石階段を歩いた。

あの日の私も、今日と同じく、死と対面していた。

あの日は元家庭教師、メアリの死。

今は自身の死という違いはあるが。


そういえば、ポラリスはどうなっただろう。

ウィルによれば、彼女はあの酒場で、おかみさん達に可愛がられながら幸せに過ごしているらしい。

しかしそれが真実かどうかは分からない。


彼はああ見えて気遣いのできる人物だ。

例え、ポラリスに何かあったとしても、それを死刑寸前の友に正直に話すことはしないだろう。

だから本当のところはどうか分からない。


が、私はその言葉を信じ、ゆっくりと、彼女との日々を回想する。


ポラリスと共に居た数ヶ月、私は本当に、本当に幸福だった。


彼女は人の言葉を理解する力があるのかと思うくらい、不思議で、優しい猫だった。

人を処刑することしかできなかったこの手が、命を愛でることもできる、ということを教えてくれた。


彼女が徐々に回復し、立ち上がり、駆けて、跳ね、元気に鳴く。

その過程を見ながら私は、生命の愛おしさを改めて感じることができた。


今思えば、彼女は、天が私に与えてくれた、最後のギフトだったのかもしれない。

あの幸福な数ヶ月があるからこそ、私は今日、自らの死を受け入れることができる。


階段を上った先にある、鉄製の扉。それが開いた瞬間、私はまぶしさに思わず目を閉じる。

耳に飛び込んできたのは群衆の怒号や野次。私はなんとか瞼を持ち上げ、その光景を見る。


「出てきたぞぉ!!!残虐公だ!!!!」


「あなたが、この国の諸悪の根源だったのね!!!!!」


バルコニーの下には、群を成した人々が、こちらに罵声を浴びせていた。

私はその景色を、どこか他人事のような気持ちでぼんやりと見つめていた。

手枷を引っ張られ、歩かなければならないことを思い出す。



顔を上げると、進行方向の先には、ギロチン台が堂々とした面持ちで立てられていた。

白日の光を受けきらめくその刃は、どのような罪をも成敗するという、正義の輝きを放っている。


(あぁ、そうか。これは、私への罰なのだ。今まで処刑した者達からの、私への、罰)


そう思うと、なぜか妙に腑に落ちた。


理由はどうあれ、今まで私の指示で処刑された者達は、皆、私を憎んでいただろう。

彼ら、彼女らの中には、家族がいる者もいた。

恋人がいるものもいた。

私が死刑の判断を下すことで、私はそれらの人々の幸福を奪ってきた。

その罪は巡り、今度は私が罰せられる番となった。ただ、それだけのことなのだ。


一歩ずつ、死刑台へと歩み寄る。

バルコニーの奥には、トレド大臣とクラウス陛下の姿が見えた。

トレド大臣は、眉尻を下げ、一応は悲しげな表情を浮かべている。

そしてクラウス陛下は、と思いながら視線をやると、ふと、彼と目が合った。


その瞬間、クラウス陛下は、にやりと歯を見せた。


そう、彼は微笑んだのだ。


私は今まで幾人のも処刑を言い渡してきたが、その場に立ち会ったことはない。

その残酷な場面をどうしても、直視することができなかったのだ。


一方で陛下は、私が処刑されるこの場面で、笑みを浮かべている。


そこでふと、猫狩り事件のことを思い出した。

猫を虐待していた彼であれば、私の処刑におののくどころか、嬉々として眼中に焼き付けるかもしれない。




今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。


物語も佳境です。

継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。


本当に感謝しております。

リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、

お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。


今回もありがとうございました。

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