52:ルドルフの回想
夢を見た。遠い日の夢。
自分自身が初めて、城に足を踏み入れた時の夢。
自分が「踊り子の息子ルドルフ」ではなく「第一王子ルドルフ」になった時の夢。
当時、私は緊張していた。
周囲の視線から、自分が招かれざる客であることは理解していた。
踏み慣れない厚い絨毯を進み、たどり着いたのは「謁見の間」の扉。
両側に立っていた兵士が、その両開き扉の持ち手を、同時に押す。
そこは、シャンデリアが輝く豪勢な空間だった。
そのまぶしさに、思わず瞼を閉じる。再び目を開けたその時、視界に飛び込んできたのは、私の実父である国王。そして、彼の正妻であるお妃様だった。
私は、身体をこわばらせながら一歩ずつ進む。そして、二人の前で跪いた。
「本日は、お招きいただき誠にありがとうございます。私が、ルイーザ・ウォーカーが息子、ルドルフ・ウォーカーです。国王陛下、および王妃殿下におかれましては……」
そこまで言いかけた時だった。急に、私の鼻腔を優しい香りがかすめる。
何かと思ったと同時に、お妃様の腕が、私の背を抱きしめた。
「会いたかったわ。ルドルフ。あなたが、クラウスのお兄ちゃんなのね」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。しかし、その柔らかい体温が伝わってくると同時に、我に返る。
お妃様が、私を抱きしめたのだ。
彼女は一旦腕を放すと、笑みを浮かべて言った。
「これからは、ここがあなたの家なのよ。最初は慣れないでしょうが、分からないことがあればいつでも言ってね。国王陛下も、クラウスも、そして私も、あなたを心より歓迎します」
思いも寄らないセリフに、正直、戸惑った。
私は、国王が王妃と婚約する前にできた庶子。
普通正妻であれば、そんな私を疎ましく思うだろう。
しかし、お妃様の表情から、嫌悪の感情は一切読み取れない。
ふと、国王陛下に視線をやる。陛下もまた、目尻を下げ、微笑んでいた。
実の母から、自分が国王陛下の子であることは聞かされていた。
なんでも、母と父は昔から交友があり、一時は結婚も考えていたようだ。
しかし、その身分の差から王族の皆が大反対。
結局、二人の仲は引き裂かれたが、その時母は、すでに私を身ごもっていたらしい。
私が生まれて以降、父である陛下から特に便り等はなかった。
しかし、母が亡くなった半年後、突如、城から使いがやってきた。
なんでも、陛下が私に会いたがっているという。
こうして私は城に入ることになった訳だが、気持ちは憂鬱だった。
特に気にしていたのは、王妃様についてだった。
国王陛下は、母と別れた後、しばらく妃を取らなかった。
おそらく、母に未練があったのだろう。
しかし、数年後、陛下は妻を娶られる。それがお妃様だった。
彼女は隣国の第三王女で、才色兼備として有名だった。
慈悲深く、心優しい性格で、国民からも指示されていた。
しかし、そんな女性でも、やはり、夫の愛人の子を、手放しで歓迎できるはずがない。
だから、今の王妃の微笑みも、抱擁も、偽りのものである可能性が高い。
そう、私はあくまで婚外子。
自らが王家の一員であるというようなな思い上がりを抱いてはいけない。
そう自分に言い聞かせながら、城での生活を始めた。
しかし、状況は自らが予想していた方向とは異なる方向に転がり始める。
お妃様が、毎日のように私の元を訪問するようになったのだ。
自室はもちろんのこと、自分だけの秘密の場所ととらえていた裏庭にも、彼女は顔を見せた。
そして、たわいもない話を私にしてくれた。
その行為が、王家で立場の弱い私への気遣いであることを、私は理解していた。
そんな時間を過ごすうちに、私はポツリポツリと、彼女と雑談を交わすようになった。
徐々に近づく心の距離。
しかしそんな状況を良く思わない人物がいた。
クラウス王子だ。
彼は「私がお母様を奪おうとしている」という噂を鵜呑みにしていた。
特にトレド大臣は、ことあるごとに私とお妃様の関係を持ち出し、「まるで実の子以上の間柄ですね」などと、陛下の嫉妬心を煽るような言動をしていた。
その理由は一つ、私の存在自体が疎ましいからだ。
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
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