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50:絶望の淵で

「あぁ。そうに違いない。でもな。証拠がないんだ。やつらの証言を覆す証拠が」


「やつらの証言ってなんだ?」


エドガーは緊張感の欠ける声で尋ねる。

ウィル様は顔をしかめつつも、答えた。


「1ヶ月ほど前、街に潜伏していた反乱を企てる輩……反乱因子のアジトが見つかった。

軍は彼らを捉え尋問した。その中で、彼らの資金源の話が出たんだ。奴らは最初、頑なに口を割らなかった。しかしある時から、反乱因子のメンバー全員が、口をそろえて『ルド様の指示でクーデターを企てた』と証言しはじめたんだ。ルド様から金をもらいそれを資金にしていた、と」


「でも、そんなのでっち上げでしょう?!証拠はあるのですか?」


私は思わず叫ぶ。ウィル様は難しい顔をして、一端黙り込む。が、すぐに口を開いた。


「証拠はない。だけど、別々の牢に入れられていた連中が、一斉に同じ事を言い始めたんだ。やつらに示し合わせる時間がなかった以上、この証言は信憑性が高いと言わざるをえない」


「た、確かに、示し合わせて証言を揃えることは、できなかったかもしれません。ですが、城内の誰かが皆に指示を送ることで、証言を揃えることはできるではありませんか!!」


ウィル様の目を見つめる。彼は、険しい表情を浮かべながら「そのとおりだ」とつぶやいた。


「俺個人としては、今回もトレドの主導だと考えている。

しかし、その証拠がない。それに、現政権にとっては、ルド様が悪者でいる方が好都合なんだ。民衆の不満の矛先を、そちらに向けられるだろう?だから、誰も異議を唱えない。俺一人の力ではもう、どうすることもできなかったんだよ」


「そんな……」と呟き、私は床にへたり込む。


国家にとって好都合、そんな安直な理由で、一人の人間に死刑を言い渡すなんて。そんなひどいことがあるだろうか。


「でも、その判決を、残虐公は黙って受け入れたのかい?俺がもし無実の罪で裁かれたら、それこそ大暴れだけどな。裁判に関わった人間を、末代まで呪うくらいに」


「それがなぁ」


ウィル様は大きなため息を吐く。


「ルド様は、受け入れちまったんだ。その罪を。反論することなく」


「マジで?!」

「どうしてっ!!」


私とエドガーの声は、重なった。ウィル様は静かに眉をしかめる。


「あいつはなんだかもう、全てを諦めちまってる風なんだよ。自分が今更無実を訴えたところで、誰も信じてくれないだろうって、そう思い込んでいる感じだった」


ウィル様はそこで一旦言葉を切る。

そして、ふーっと長いため息を吐いた後、続けた。


「判決後、一度だけ、ルド様と面会する機会があったんだ。俺はあいつに、なんで罪を認めたのかと迫った。そして、『仕方がないでしょう』なんて言うルド様の頬を思わず、引っぱたいたんだ。なんで、こんなにも簡単に諦めちまうんだって。ごねれば時間も稼げるし、その間に俺が無実の証拠を見つければ、風向きも変えられたのに、って。でも、その声は、すでにあいつには聞こえていない風だった」


ウィル様は俯くと、自嘲気味に口角を上げた。


「んで、その時のセリフも行動も、バッチリ、トレド派の幹部に見られていてな。俺はしばらく謹慎の身ってわけさ。マジで情けないよ。友人の一人も救えないなんて……」


哀しげに、目を細めるウィル様。しかし、つと、彼は顔を上げる。


「でもな、そんな時に手紙が来た。それがねこすけ、おまえからの手紙だったんだ」


私は小さく肩をすくませた。

ウィル様はフッと微笑を浮かべると、続ける。


「差出人の住所は書いていなかった。が、おまえさんが、おかみのパブから逃げ出したことは聞いていた。んでもって、こんな手紙をよこしてきたということは、おそらくすでに、人間の姿に戻ったんだろうと思ってな。現在の居場所を考えた時、可能性があるのは、ねこすけの協力者となりうる人物、沼地の呪術師だけだろうと思い、今回ここまで出向いてみたんだ」


「なるほどね。さすがは騎士団長さん。勘が鋭いっ!」


ぽんと膝を打つエドガーを横目に、私は今までの話を頭の中で整理し、事の重大さを再認識した。


ルドルフ様は、すでに罪を認めてしまった。

つまり彼は、ただ処刑の日を待つのみの身体であるということだ。


(本人が、諦めてしまっただなんて……)


悔しい。言葉に尽くせないくらいに。

でも、その気持ちも正直、分かってしまう。


ルドルフ様は、かつての私と同じく、抗うことに疲れてしまったのだ。


(だけど、そんなことあっていいはずがない。だってルドルフ様は、優しくて、思いやりがあって、みんなのことを第一に考えていて。そんな人が、このまま死刑にされていいはずがない!)


私は唇を噛み締め、ぎゅっと拳を握りしめる。

その時、手のひら全体が今まで以上に、驚くくらいに熱を持っていた。


おそるおそる、手を広げてみる。


手のひらからは、小さな火花がすでに、パチッ、パチッとひらめいていた。




今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。


物語も佳境です。

継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。


本当に感謝しております。

リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、

お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。


今回もありがとうございました。

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