49:待ち人
こうして、私は魔術の特訓を開始した。
練習を重ねることで、もっと威力の強い魔術を使えるようになれば、と思っていた。
しかし、事はそう単純ではなかった。
「熱っ」っと声を上げ、私は思わず地面にへたり込む。火花が頬をかすったのだ。
「今、ちょっと集中力が途切れたんじゃない?シャボン玉を膨らますように、少しずつ大きく、大きくしてから、一気に魔力を放出するんだよ」
エドガーの声に頷く。
が、それは私もわかっていた。わかっているのに上手くいかないのだ。
「練習のし過ぎで、少し疲れているんじゃないか?焦っても良い結果はでないよ」
それも、分かっている。だけれど、だ。
(ルドルフ様の処刑日まで、あと二週間しかない。このままじゃ駄目だ……)
私は足に力を入れ、再びヨロヨロと立ち上がった。
ルドルフ様の死刑判決が公表されてから、七日が経過した。
私は食事も睡眠もそこそこに、ひたすらここ、沼地のほとりで一日中、魔術の練習をしていた。
しかし、事は思うようには運ばない。
というのも、あの日から今日まで、私の魔術は然したる成長を遂げていなかった。
依然として、小さな火花を起こせるくらいなのだ。
もう一度、目を閉じ、神経を指先に集中させる。
身体がふらつく気がするが、そんなもの、きっと気のせいだ。
私には、時間がない。後から後悔しても遅いのだ。
自らを奮い立たせ、私は大きく息を吸う。
そして、血管を巡る熱が全て、この爪先一点に集まっていくイメージを巡らせていた、その時だった。
「エドガー・ロウさ~ん。郵便で~す」
突然飛び込んできたその声に、私はハッと目を開ける。
エドガーはすぐさま、小屋の入り口の方へ駆けていった。慌てて後を追う。私がそこにたどり着いた時、エドガーは、帽子を深くかぶった郵便局員と相対していた。
「コレット嬢、お待ちかねのものが来たようだよ」
エドガーはニヤリと微笑む。
しかし、「来た」と言った割に、彼が荷物を受け取った様子はない。
不思議に思いながら、私が近づいたその瞬間、局員さんは帽子のつばに手をかけ、そっと上げた。
見覚えのある、日に焼けた肌。ニッと歯を見せ笑う、その姿。
「おまえが、ねこすけだな?久しぶり」
瞬間、私は口を手で覆う。
「う、ウィル様っ?!」
叫ぶ私に、「いや、声でけーよ!!!」と、彼も大きく声を張った。
「ねこすけ、手紙、ありがとう。おかげでここに来られたよ」
小屋に入ったウィル様は、椅子にドカッと腰を下ろした。
彼のハキハキとした声も、その引き締まった身体も相変わらずで、私は少し、ほっとする。
私は、ルドルフ様の身に起きた事の経過を調べるべく、丁度五日前、ウィル様宛に、手紙を出していた。
本当はルドルフ様本人に聞くのが一番手っ取り早い。
しかし、投獄されているであろう彼に手紙は届かないだろうし、届いたとしても、彼自ら返事を書くことは許されないだろう。
そう思い、ウィル様に手紙を出した。
内容は至ってシンプルに「ねこすけは、げんきです。いろいろはなしを、ききたいです」とだけ書いて出した。
「おまえが機転を利かせてくれてよかったよ。今は、俺宛の手紙にも検閲が入っているからな。
たわいもない、子どもの手紙のフリして送ってくれたんだろ?」
「あ、それは俺の提案」
テーブルにグラスを置いたエドガーが、自慢げに微笑む。
ウィル様は、ちらりと彼に視線を置いた後に、「あんたが、例の『呪術師』か」とつぶやき、ぺこりと頭を下げた。
「それにしても、ウィル様自身が直接お見えになるとは思ってもみませんでした」
「色々書くより、実際に会って話した方が早いと思ってな。ほら、手紙だと、配達途中で誰に見られるかわかんねーだろ」
「でも、よく城から抜け出てこれたな。おまえ、ルドルフ派だと思われてんだろ?変なことしないように、見張られているんじゃないのか?」
エドガーが、ウィル様の隣の椅子に腰かけ尋ねる。
「確かに見張られてはいるが、俺は誰かとは違い、兵からの人望はあるんだよ。だから見逃してもらえた」
なるほど、と私は心の中でつぶやく。
人を遠ざけてきたルドルフ様とは違い、騎士団長であるウィル様は、兵との交流も多く、城内での人望も厚い。彼だからこそできた芸当なのだろう。
「で、本題なんだが、正直、非常にまずい事態だ」
急に現実に引き戻され、私は身体を固くする。
「そ、その、ルドルフ様は……」
「……報道の通りだよ」
「で、でもっ」
私は思わず立ち上がる。
「反逆罪っていうのは、嘘でしょう?誰かに罪を着せられているだけなのでしょう?」
私の問いかけに、ウィル様は深刻な表情で頷く。
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
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