48:開花
そのセリフは、承諾を意味するのだと分かった時、私は思わずエドガーの手を取った。
「あ、ありがとうございます!!!!」
その瞬間、彼は目を見開く。突然手なんて握ったものだから、彼が驚いたのかと思った。が。
「おい、コレット嬢。君の手。異常に熱くないか?」
私はふと気がつき、慌てて手を離す。
「あ、すいません。つい必死になりすぎて……」
「違うよ。そうじゃなくて。ここまでの発熱、これって、魔力に起因するものじゃないのか?」
えっ、と、今度は私が瞼を上げる。
「なぁ、この感じで。この熱がすべて、右手人差し指の先に集まるイメージをもってごらん」
私は予想外のことに驚きながらも、そっと目を閉じた。
そして、ほてった身体の熱が、血液に乗って指先に集まるのを想像した。
「呼吸は止めるなよ。一定のリズムで。うん、良い感じだ。ほら、目ぇ開けてみなよ!」
私は、そっと瞼を持ち上げる。
と、私の人差し指には、オレンジ色の小さな光が宿っていた。
「こ、これ。私……」
「だ、だめだめ!そのまま!そのままこの光が大きくなるのを想像して。シャボン玉を膨らませるように、そっと、そっと」
私は言われた通りに、指先に神経を集中させる。
「そう……そう!今だっ!!熱を放って!!!」
ぐっと、力を押し出すように、指先に力を込めた。
その瞬間、バチッと小さな火花のようなものが、宙にはじける。
私は「うわっ」と声を上げ、床に尻餅をついた。
「こ、これって」
唖然とする私に、エドガーは興奮気味に話しかける。
「なんだよ、コレット嬢!!君、魔術ができるじゃないか!!!!」
魔術?私が?
私はその言葉が未だに信じられず、口をパクパクさせる。
確かに、魔術を教えてほしいと言ったのは私だが、この十数年、どれだけ頑張っても全くできなかった。
それなのに、今、この短時間で突然できただなんて。
「そんな、都合の良いことって、ありますか?」
思わず本音を溢す私の肩を、エドガーはバンバンと叩く。
「わからないけれど、君が本気になったからじゃない?」
「本気って……、私は屋敷にいるときからずっと、本気でしたよ」
そう告げた時、ふと気がつく。
先程見た火花は、クラウス陛下に叩かれた時のそれと同じではないか、と。
まるで閃光のような、高温のきらめく光。
(あの時も私は、無我夢中だった。そう、感情が振り切れるくらいに)
刹那、バラバラのピースが一斉にはまるような、そんな感覚が脳裏をよぎる。
そうだ、私は屋敷にいた時、感情を失っていた。
どうせ私には無理、とか、何をしても未来は変えられない、と、ずっと心のどこかで感じていた。
まるで、決して出られない深い穴の奥にたたずんでいるような、そんな絶望感が常に私の中にあった。
しかしお城に入って、私は少しずつ感情を取り戻した。
ルドルフ様と接することで、恐怖、疑念、安堵、幸福などといった、心の動きが少しずつ顕著になっていった。
最初に気持ちが大きく動いたのは、リネットの魔術騎士入団が決まった時だった。
エドガーの呪いの矛先が、リネットに向かってはいけない。
そう強く思った時、身体の奥からマグマのように熱い何かが湧いてきた。
その瞬間、私は人の声が出せるようになった。
そう、変化の呪いが解け始めたのだ。
今回、再び変化の呪いが解けたのも、きっかけはルドルフ様が逮捕されたというニュースだった。
(つまり、私の魔力は、私自身の感情の起伏に大きく左右されるということ?私が、感情を大きく高ぶらせた時、初めて私の魔力は「魔術」に変換され、呪いに抗ったり、火花を散らしたりできるということ?)
私は鼓動の高鳴りを感じたまま、じっと、自らの掌を見つめる。
感情を取り戻したことで、力が目覚め始めた。ルドルフ様の処刑まで三週間。
時間は限られている。
けれど。
(このまま行けば、私は、彼を助け出すくらいの力を、手にできるかも……)
そう思うと目頭が熱くなる。
(いや、できるかも、じゃない。手にするんだ。この、八芒星のリボンに誓って)
私は、強く手を握りしめた。
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
物語も佳境です。
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