↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/63

47:今こそ魔術を

目を開くと、そこには見慣れない天井があった。シミがいくつも着いた、やや薄汚れた天井。


「……ここは?」


そっと首を傾ける。ここはどうやら、ベッドの上のようだ。


私は身体を起こそうと、いつもどおり前足の爪でシーツを引っかける。

が、布は引っかからず、するりと手を抜ける。


おかしいと思い、ふと、手先を見る。


と、いつもあったはずの鋭い巻き爪もグレーの毛も、すでになかった。


かわりにあるのは、細く白い、指先。目線を下げていくと、その先には手の甲が。

そして手首には、八芒星のチャーム付きリボンが巻かれている。


(どうしてこんなところにリボンが……。これは確か、首に巻いてもらったはずなのに)


そこで初めて、気がつく。


「私、人に戻ったの……?!」


思わず、ブランケットを飛びのけ、身体を起こす。

瞬間「目ぇ覚めたか!!!!」という叫びが起こる。

同時にエドガーは、床につまずきながらもこちらに駆け寄ってきた。


「いーやぁ、コレット嬢。よかったぁ~、無事目覚めて!おまえさん、この一週間ずっと眠り続けててたんだぜ!もう俺、このままおまえが目を開けなかったらどうしようかと心配で……」


エドガーは、ベッド脇のスツールに腰掛けると、腕に顔を埋め、泣くような素振りを見せた。


「あ、その、すいません……。ご心配をおかけしました」


私が頭を下げると、エドガーは首を振った。


「いやー。しっかしびっくりしたよ。いきなりやってきたかと思えば、そのまま家の前で倒れ込んでさぁ。ベッドに運び込んで寝かせてみれば、もうその数秒後には人の姿に戻ってたんだぜ!!!

それにしても、戻った瞬間は全裸状態かと思いきや、そうではないんだねー。

ちゃんと服を着てた。ほら、俺が君に呪術をかけた時の、あの日のグレーの服。

つまり、君の服は、君の身体と一体化して猫の形を作っていたというわけだなぁ。一つ勉強になったよ。うん。あ、ちなみに、君の首に巻かれていたリボンは、人に戻った時にちぎれたみたいで、床に落ちていたんだ。だから手首に巻いてみた。どうだい?気が利くだろう?」


ペラペラと語る彼の話をぼんやり聞きながら、私は、ここに来てからすでに一週間経っているという言葉を、ようやく飲み込んだ。

と同時に、叫ぶ。


「一週間?!では、ルドルフ様はどうなったのですか?!」


「ルドルフ?」と驚くエドガーをよそに、私は立ち上がった。

が、まだ二足歩行に慣れておらず、よろめく。


エドガーは私を抱き留め、そのままベッドに座らせると、すぐに新聞を持ってきてくれた。


その一面を見て、私は言葉を失う。


――残虐公、ルドルフ・フォード公爵に死刑判決。執行は三週間後に


見る見る血の気が引いていく。エドガーはつぶやいた。


「……これは、昨日の新聞だ。一応、裁判は行われたらしいが、結審は早かったな」


「早かったって……早すぎじゃありませんか?だって、一週間でしょう?」


私は叫ぶ。エドガーは頷いた。


「ここまで早いのは、俺も知る限り初めてだ。残虐公、城内で嫌われてるんだろうなぁ」


「そんな!嫌われているからって、そんな……裁判は正当に行われたのでしょうか?!」


「さぁ……。俺たち一般市民が、それを知る手立てはないよ。それに、一度下った判決は、もう元には戻らない。ルドルフ公は、それを受け入れるしか」


そこまで彼が言ったところで、私は床に膝と手を付き、エドガーに向かって頭を下げた。


「え、エドガー、いや、エドガーさん!お願いです。私に魔術を教えてください。私、なんとしてでも、ルドルフ様を助けたいんです!」


突然の私の懇願に、エドガーは手を揺らし慌てふためく。


「え、あ、ちょ、なんで急に土下座してんの!!!頭、頭上げて!!!」


「上げません。私は、あの方から受けた恩を、何がなんでも返さねばならないのです。だから」


「待って待って、ちょっと落ち着けよ。まずは顔上げろ、顔!!」


彼は無理矢理私の腕を持ち上げると、そのままベッドの方へ放り込んだ。

私は柔らかいマットレスに尻餅をつく。顔を上げると、エドガーは腕を組み、私を見下ろしていた。


「いいか、コレット嬢。俺は呪術師だ。恨んだ相手をじっとり、ねっとり心理的に攻撃するのが俺のやり方だ。火を出したり、稲妻を起こしたり、そういう直接的な攻撃は不得手なんだよ」


「で、でも、あなたは父と魔術学校の同期生だったのでしょう?魔術学校を出ているなら、それなりに魔術もできるのでは?」


「確かに魔術は学んだよ?でも俺は生まれつき魔力の総量が少なかった。そのせいで、どんなに努力しても、魔術の分野ではゼストの足下にも及ばなかった。だからこそ魔術師から呪術師に転身したんだよ。そんな俺から魔術を学んだところで、得られるものは少ないんじゃないか?」


眉間に皺を寄せるエドガー。しかし、私は引けなかった。


「だからこそ、です。私はだからこそ、あなたから魔術を教わりたいのです。

あなたは、できない者の気持ちを知っています。言ってくれたじゃないですか?俺とおまえは同志だって。お願いします。できる範囲内でいいので、魔術を教えてください。私に、魔術の才能がないことは分かっています。今更特訓したって、できない可能性の方が高いことも分かっています。それでも私には、今、力が必要なのです。大切な人を守るための力を、私に与えてくださいっ」


私は必死でエドガーの瞳を見つめた。相対する私たちは、しばらく無言のままにらみ合った。


「……ったく」


エドガーは、頭を乱暴にかきむしりながら目をそらす。


「俺は魔術を捨てた身だ。どこまでできるか、保証できないよ?」




今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。


物語も佳境です。

継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。

本当に感謝しております。


リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、

お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。


今回もありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。