43:突然の凶報
店での私の定位置は、ここ、おかみさんの自室だった。
ここを訪れるのは、おかみさんと親しい人だけで、流れる空気も、とてもゆったりしている。
おかみさんは、六十代くらいの身体の大きな人だ。
旦那さんに先立たれてから、一人でパブを切り盛りしているらしい。
気さくな人で、踊り子さん達からの信頼も厚い。
彼女は、昼頃から店の準備を始める。だから午前中は比較的のんびりとしていた。
私にご飯を食べさせる傍らで、ロッキングチェアに座り新聞を読むのが、彼女の朝の日課だった。
「セス商会が過去最高益……。金持ちはどんどん豊かになっていくねぇ。一方で、またも強盗事件の発生、反乱因子の取り締まり強化。なんだか、国がどんどん分断されている気がするよ」
そう言いながら今日も、おかみさんはコーヒーを片手に新聞に目を落としていた。
私は皿に出されたミルクを飲み終えると、自分の定位置である窓の縁に腰を下ろした。
反乱因子……。そういえば、ウィル様が以前言っていた気がする。
公安部隊が、反乱因子のアジトを見つけた、とか。
クラウス陛下が王位に着かれて、おおよそ一年。
最初は、「皆で団結して若き王を支えよう」なんて雰囲気が国中に漂っていたけれど、格差の広がりが速度を増す中、段々とみんな、王国に不信感を抱き始めている。
屋敷に居た時は、国内情勢より自らの生活、というような毎日だったので、世の中に目を向けている暇はなかった。
だけれど、こうして一度お城に入り、そしてまた一般社会に戻ると、貴族と平民との生活の差を痛感せざるをえない。
人々の会話や新聞の報道からも、徐々に国民の心が、王国から離れつつあることが、よくわかる。
(ルドルフ様は、大丈夫なのかな)
私は不安を抱きながら、窓越しに空を見上げる。ルドルフ様は、元々国民から「残虐公」と認識され、嫌悪の対象になっていることが多かった。
ルドルフ様の味方は、世界中探しても、ウィル様と、おかみさんと、数人の踊り子さんくらいしかいないのではないか、とさえ思う。
汚れ役をやらされ、人に疎まれ、それでも、黙って、自らの責務をこなしている。
彼は孤独だ。本当に。
こんな状態が続いた先で、彼が、行き着く場所はどこなのだろう。
おかみさんの言っていたような「彼が心から笑える日」というのは、いつか、来るのだろうか。
そんな時、バンと突如、客間のドアが音を立てて開く。
「なんだい急に。ノックくらいしな!びっくりするだろう?」
おかみさんが怒鳴るも、踊り子さんは慌てた様子で、彼女の元へ駆け寄った。
「大変なのよ、おかみ!!!ルドが、ルドが、反逆罪で捕まったんだって!今、城の門の前には、人だかりができてるよ!!!」
その急な知らせに、私は瞬間、息を止める。
「何だって!!!!」
おかみさんが立ち上がり、足をもつれさせながらも、開いたままのドアから出て行く。
私もすぐさま、後を追う。
「ちょ、あんたら、待って!!」
後ろから、踊り子さんの声が響いた。
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
物語も佳境に入りつつあります。
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