41:星降る夜の別れ
瞬間、私は、思わず、言葉を発しそうになる。
伝えたい。私の気持ちを。
私もあなたと、ずっと一緒にいたいということを。
これほどまでに、あなたに感謝をしているということを。
私も、あなたのことが愛しい、ということを。
でも、と私は強く口を閉じる。
私は今、その思いを伝えることはできない。
言葉を発することは可能だが、それを決して、してはならない。
ルドルフ様が好いてくれているのは、あくまで「子猫」である「ポラリス」だ。
「アルハイム家の令嬢、コレット」ではない。
もし今、私の正体を打ち明ければどうなるだろう。
ルドルフ様は、驚愕するだろう。
そして、ウィル様に打ち明けた時同様、私を拒絶するだろう。
特にルドルフ様は、今まで私と部屋を共にしてきた。
ただの猫だと思っていたのに、それが人間だったなんて、まるでオカルト話だ。
だから、私の思いは、決して伝えられないのだ。
ルドルフ様は、そっと私を膝の上に置くと、「そうそう、あなたに渡すがあるのです」と、ズボンのポケットに手をやった。
「これです。ほら」
その手に下げられていたのは、夜空のような、深い藍色のリボンだった。
真ん中には、金色に輝く、小さな八芒星のモチーフが付けられている。
「首を上げてください」
そう言いながらルドルフ様は、私の首に、そのリボンを巻き付けた。
リボンは、同じ藍色の糸で細かな刺繍が施されている。
真ん中に掛かってている八芒星のモチーフは、本物の金でできているようにも見える。
「あなたに首輪をつけるのは、少し抵抗がありまして。これなら、首の違和感も少ないのではありませんか?」
そう言いながらルドルフ様は、もう一度私を、自らの真正面の高さに掲げた。
「うん、よく似合っています。薄いグレーの毛にも、良く映える。
これであなたが、野良猫ではないことがわかるでしょう」
満足げに微笑むルドルフ様。
「あなたにふさわしいものを、と、これでも時間をかけて選んだのです。
女性にプレゼントだなんて、初めてのことですからね。気に入ってもらえるといいのですが」
透き通る彼の瞳には、首から星くずを下げる、小さな猫が映っていた。
思わず胸が熱くなる。
「ポラリス、あなたに会えて、私は心から幸せでした。
短い間でしたが、本当に、本当にありがとう。あなたは私の、たった一人の、愛しいパートナーです」
そして、私を身体ごと、ぎゅっと抱きしめた。
「あなたを今から、信頼できる者のところへ預けに行きます。
もう、二度と、会うことはないでしょう。
ですがポラリス、覚えておいてください。
私は、あなたのことを、本当に愛していて、大切で、大好きだったということを。
この数ヶ月は、私の人生の中で、これからも、闇夜の中の北極星のようにずっと、輝き続けることでしょう。
今までありがとう。ポラリス。本当に、ありがとう」
震える声でそう言い終わると、ルドルフ様はそっと、立ち上がった。
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
物語も佳境に入りつつあります。
継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。
本当に感謝しております。
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