39:外出
その後、ウィル様は午後の仕事のため、部屋を出て行った。
「ここには、誰も入れないようにしておくから安心しろ。昼寝でもしておけよ」
そう言ってウィル様は、しっかりと窓と扉を施錠してくれた。
しかし、「安心しろ」とは言われたものの、私は一睡もすることができなかった。
(ルドルフ様は、大丈夫だろうか……)
ウィル様は、案じることはないと言っていたけれど、本当だろうか。
私が陛下に怪我を負わせたことで、大臣や幹部から、責められたりしていないだろうか。
そんなことを考え出すと、ますます不安が募る。
私はベッド上のブランケットにうずくまりながら、悶々とただ、思いを巡らせていた。
そうこうしているうちに、いつの間にか窓ガラスからは西日が差し込み、気がつくと、日はとっぷりと暮れていた。
(もう、夜になっちゃった……)
ウィル様は未だに、戻ってこない。落ち着かない気持ちを持て余していたその時だった。
扉の方から、カチャカチャと鍵穴を回す音が聞こえる。
ウィル様ならそれでいい。が、もし別の人物だったら。
私は慌てて、ブランケットの中に身を隠した。
しかし、扉を開ける音と共に聞こえたのは。
「いるのですか?ポラリス」
(――ルドルフ様っ!!!)
私は跳ねるように、ベッドから飛び降りた。
ルドルフ様は扉に鍵をかけた後、すぐにしゃがみこみ、手を広げた。
私はその腕の中へ勢いよく飛び込む。
「ウィルから、あなたの居場所を聞きましてね。よかった。元気そうで」
青碧色の瞳を細めるルドルフ様。私は思わず、彼の指に頬ずりをする。
「どうしたのです?私を心配してくれていたのですか?」
ふわりと笑みを溢すルドルフ様。そのまま私を優しく抱き上げると、彼は言った。
「……今夜は星が綺麗です。少し、散歩をしませんか?気分転換に」
いきなりの提案に、私は目を見開く。
しかし彼は、そんな私を気にする風でもなく、肩にかけていたローブを羽織り、私をその内側に入れた。
「外を散歩する」と言われたので、私はてっきり、裏庭に行くのだろうと思っていた。
しかし、予想に反してルドルフ様は、いつもより長い距離を歩いた。
私はローブに顔を埋めながら耳を澄ませる。どうやら彼は、城の外を歩いているようだ。
「もういいですよ」と声がかかり、私はそっと、ローブの胸元から顔を出す。
そこは、膝丈ほどの草が茂る、小さな丘の上だった。
見覚えのない場所にキョトンとする私。そんな私にルドルフ様は語りかける。
「今日の門番が、ウィルと懇意の者でしてね。
こっそり城外に出してもらえたのです。今日はここで、晩ご飯を食べましょう」
ルドルフ様は草むらの上に腰を下ろすと、私を胸元から取り出し、その横に置いた。
そして、ローブの大きな外ポケットから、油紙に包まれたサンドイッチを取り出した。
「あなたの分はこちらです。どうぞ」
そう言いながら、ルドルフ様は小さめのジャム瓶を取り出す。
蓋が開いた瞬間、私は匂いで、中身が白身魚のほぐした物だとわかる。
彼はそれをナイフで掬うと、地面に油紙を敷き、その上に置いた。私は本能的に、飛びつく。
「よかった。あなたはいつだって食欲旺盛ですね。ポラリス」
ルドルフ様が笑みを溢す。
私は我に返ると、そっと彼の顔を見上げた。
風になびく、美しいコバルト色の髪。そ
の向こうには、どこまでも続く、透き通った濃紺の夜空がある。
星々は、一瞬一瞬の輝きにすべてを込めるかのように、瞬き、きらめいている。
私の目線に気がついたのか、ルドルフ様も空を見上げる。
「今夜も、満天の星空ですね。あなたと出会った時と、同じ。星降る夜、です」
そしてルドルフ様は、ふーっと、柔らかな息を吐いた。
空気は少々冷たく、彼の息が、白い気体となって宙を舞う。
「……今日は、驚きました。
陛下に殴られそうになった直前、あなたが、私の懐から飛び出てきたのですから。
怪我はなかったとウィルから聞いていますが、あなたの身体はまだ小さい。
大丈夫でしたか?痛くは、ありませんでしたか?」
私は「ニャー」と答え、そっと彼に身を寄せる。
「陛下の火傷の原因じゃ現在調査中ですが、傷自体は、大したことはありませんでした。
一週間もすれば治るほどの軽いもの、という診断でした。
その結果を受けてか、私にもおとがめはなし。何も、問題はありませんよ」
そう言いながら、私を優しく撫でるルドルフ様。彼の温もりが、私の心を柔くする。
ルドルフ様は、膝の上に置いていたサンドイッチを一かじりする。
そして、軽く息を吸った後、「ですが」と続けた。
「……陛下のお怒りは、未だ覚めやらぬままです。
彼は、その矛先を私だけでなく、あろうことか、あなたにまで向けています」
私は瞬間、息を止める。ルドルフ様は、眉尻を下げ、哀しそうに笑みを浮かべた
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