37:火傷の原因
陛下の鋭い声に、ルドルフ様はピタリと足を止める。
「なんだよ、この猫……。おい、ルドルフ!!おまえ、僕に何をした?!」
「何って、なにも……」
「はぁっ?!んなわけねーだろ!!火花が飛んだのを見なかったとでも?」
(……火花が?)
一瞬のことで、私の見間違いかと思っていた。
が、やはり、陛下が私に触れた瞬間、閃光が走り、火花が飛んだのだ。
(でも、なぜ?)
そうこうしているうちに、救護班が現れた。
彼らは陛下の患部を確認すると、すぐさま鞄から瓶を取り出し、中の水をかける。瞬間、陛下の叫び声と共に水蒸気が上がった。
(この症状……魔術で攻撃を受けた時と同じ……?)
それはまさしく、魔術による炎や雷で傷を負った時の症状。
皮膚が赤くただれ、熱を持つ、火傷のような症状だ。
普通の火傷と違うのは、患部に水をかけた際に、派手に水蒸気が上がること。
水により急速に冷やされた魔力の成分が、揮発することによって起こるのだ。
(でも、ルドルフ様は魔術師ではないし……)
そう考えながら、私はルドルフ様の顔を見上げる。
彼は目を見開きながら、青白い顔で陛下を見ていた。が、すぐに口を開く。
「陛下を救護室に運んでくださいっ。
軍医長は今日は非番のはずです。至急、彼の家へ馬を走らせてください。それから」
「黙れっ!!!!」
クラウス陛下が、ルドルフ様の言葉を打ち落とすかのように叫ぶ。
「そんなことより、早くルドルフを捕まえろ。あいつは、王である僕に怪我を負わせたんだぞ?!なぜ皆、ボサッと突っ立っているんだ!!!」
その指示を受けても、教官や騎士達は、困惑したかの表情で、ルドルフ様と陛下の顔を見る。
「何をしている!王の命が聞けないのか!!!!」
瞬間、何者かが、ルドルフ様の腕から私の身体を掴み上げる。
「この猫は私が調べます。おまえ達は、ルドルフ様を取調室までお連れしろ」
そう発したのはウィル様だった。と同時に騎士の二人が、即座にルドルフ様の肩を持つ。
「ウィル」
ルドルフ様が、こわばった表情でこちらに視線を投げる。
ウィル様は、隠れて合図をするかのように小さく頷くと、私を連れ、早足で演習場を出た。
私が連れてこられたのは、独房でも取調室でもなく、ウィル様の自室だった。
ウィル様は部屋に着くやいなや、扉に鍵をかけた。
そして私をベッドに下ろした後、大きなため息を付いた。
「いや~。えらいことになっちまったな」
「あの、ルドルフ様はどうなるのでしょうか?!」
私はすぐさま姿勢を正し、言葉を発する。
「取調室で、簡単な身体検査をすることになるだろう。でも、きっと大丈夫だ。手を出したのは、クラウス陛下の方。それに、ルド様が何もしていないことは、皆が見ていたしな」
彼はそう言いながら、「それにしても」と、私に鋭い視線を向けた。
「さっきは一体、何が起こったんだよ?
おまえが引っ掻いたくらいでは、あんな火傷はできないだろう。
陛下に……何をした?」
「……それが、私にもわからないのです。
陛下が、ルドルフ様を殴りかかろうとしたので、庇おうと咄嗟に飛び出ました。
そして陛下の指が私に触れた瞬間、火花のようなものが散って」
「あの外傷は、明らかに攻撃魔術を受けた時のそれだ。でも確か、おまえは魔術が使えないと言っていたよな」
私は頷く。が、瞬間に脳裏をよぎったのは、以前エドガーが話していた、「魔法樹」の伝承だ。
――魔法樹は、自身の魔力を己を守るために使っていた。
その樹は倒れることがなく、誰かが斧を入れれば、樹から流れた雷が、斧を伝ってその者を焼いた。
エドガーは、私の魔力が「防御に全振り」されているのではないかと推測していた。
私にその実感はないけれど、もしそうなのだとしたら、今回のことは説明が付く。
「……なるほど。ねこすけはやはり、腐ってもアルハイム家の娘ってことなんだな」
私の予想を話すと、ウィル様は深く頷いた。
「となれば、少々まずいな」
「まずい?」
私は首をかしげる。
「今回の火傷の原因がねこすけにあると知れれば、おまえはおそらく、殺処分の対象となる。野犬が人を噛めば、理由如何を問わず殺されるだろ?それと同じだ」
私は瞬間、息を止める。
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