36:急展開
「大丈夫だよ!僕にとっては、仕事よりリネットの方が大事だから!!
僕ね、小さくてかわいいモノが大好きなんだ。見ていると、なんだか元気をもらえるから!」
「リネットだって、僕と一緒にいれて嬉しいだろう?」と陛下はニコッと笑みをこぼす。
リネットは小さく頷きつつも、視線を真下に落とす。その時だった。
「陛下、恐れながら、今は職務の時間では。先日の会議資料には、お目通しいただけましたか?」
ルドルフ様が、そっと口を開く。
「あっ、お兄様もいらっしゃったのですね!実は、まだ見ていません。その最中に、抜け出してきたんですから!」
「あれには緊急の用件が書かれています。トレド大臣もそう言っておられたと思いますが」
ルドルフ様は、淡々と陛下に告げた。
「でも、お兄様だって、こうして試合の見学に来られているではありませんか」
「私は、午前の職務をすでに終えて来ています。陛下も早く終えてしまわれないと、承認を待つ家臣達に迷惑をかけますよ」
ルドルフ様は、あくまで静かに、諭すようにクラウス陛下に話していた。
それにしても、ルドルフ様が他人の会話に割って入るなんて、らしくない。
なぜだろうと思いつつ視線を巡らせる。と、私はその意図を瞬時に悟った。
先程まで人形のように無表情だったリネットが、気まずそうに俯いている。
小刻みに震えているようにも見える。
そういえば、彼女が城に来る前から陛下は、リネットが騎士になることを喜んでいた。
先ほどの会話から推測するに、陛下はリネットに、つきまとっているのかもしれない。
(リネットは、陛下が苦手なんだ。
だからルドルフ様は、彼女を庇うためにあえて、陛下に意見しているんだ。
だけどこれでは、ルドルフ様が陛下の怒りを買ってしまうのでは?)
そう思いながら、そっとクラウス陛下の方を伺い見る。
案の定、彼はあからさまにムッとした表情を見せる。
陛下は口を尖らせると、リネットを一層強く抱き寄せた。
「だって最近、仕事ばかりで、ちっとも彼女と遊べてないんですよ。
いいですね。お兄様は。王様の僕とは違って一介の家臣でしかないのだから、さぞかし楽でしょう」
私は思わず眉間を寄せる。ルドルフ様の仕事が楽そうだなんて感じたことは一度もない。
「……陛下、お言葉ですがルド様は」
ウィル様も思うところがあったのだろう。
何かを発しようと口を開く。
が、ルドルフ様はそれを遮るように、すっと腕をウィル様の口元に伸ばした。
そして言った。
「陛下が王位を継承されてから、すでに一年以上が過ぎました。
王子の頃が懐かしいかと存じますが、今まで通り、という訳にはいきません。
自由活動が徐々に制限されるのは、致し方ないことでしょう。
特に今は、軍体制の見直しも含め、城内全体が騒がしい時期です。
どうか、自らの責務を、ご自覚ください」
そこまで彼が言った時だった。
クラウス陛下は急にリネットから腕を振り放すと、そのまま足音を鳴らし、険しい表情でこちらに向かってきた。
その瞳には明らかに憎悪の念が宿っていて、瞬間、私の毛が一斉に逆立つ。
「トレドがいないのを良いことに、僕に説教ですか?お兄様」
陛下は、ルドルフ様の真正面に立つと、語気を荒げた。
しかし、ルドルフ様は冷静だ。
「トレド大臣の存在は、関係ありません。陛下。私は、ただ事実を申し上げております」
「関係ありますよ!だって、トレドがいる時は絶対に、僕に対してそんな説教たれないじゃないですか!!お兄様は僕のことを、内心では子どもだと思って舐めているんでしょう?」
「そんな、滅相もない。私はあなたの家臣。自らの立場は自覚しています」
淡々とした返事。それがますます陛下の神経に触ったらしい。
「なんだよ、それ。いっつもいっつも澄ました顔しやがって。
おまえも、僕のことを、本当は馬鹿にしてるんだろ……。下級民の分際でっ……!」
その瞬間、陛下はギッと歯を食いしばると、同時に右手を振りかぶった。
それは明らかに人を殴る体制で、私は思わず目を見開く。
(ルドルフ様が、危ないっ)
刹那、熱い何かが全身をすごい早さで駆け巡る。私は、咄嗟にルドルフ様の胸を蹴り、外へと飛び出た。
――バチッ
陛下の掌が、私の身体を強く打つ。と同時に、稲妻のような閃光が私の毛と彼の手に走った。
「うわっ!!!」
陛下が叫び声をあげる。私は、叩かれた拍子に、そのまま地面へと転がり落ちた。
「ポラリスっ!!!」
ルドルフ様は、咄嗟にこちらに駆け寄り、私を抱き上げる。
私は痛む身体を丸めながらも、すぐさまクラウス陛下の方に目をやる。
何が起こったのか確認したかったのだ。
(今の、何?何かがはじけたような……)
クラウス陛下は、私が転がった方向とは逆側の地面にうずくまっている。
「いたい……痛いっ!!!」
「大丈夫ですか?!クラウス陛下?!」
陛下が叫ぶ直ぐ横で、教官は膝をつき、彼の肩を抱いている。
「手が……手がっ、イタいっ!熱いっ!!」
教官は、そっと陛下の右手を持ち上げる。
「……これは。おい、救護班!!」
教官が叫ぶ。陛下の白い手は真っ赤に腫れ上がっていた。
(これは一体……?)
「火傷、ですか?!」
ルドルフ様も、すぐさま陛下に寄ろうとする。しかし。
「近づくな!!!!下卑の分際で!!!」
今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。
継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。
本当に感謝しております。
リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、
お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。
今回もありがとうございました。




