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32:残虐王子

「俺自身、猫狩りの話を初めて聞いた時、兵士や使用人を疑ったんだ。

身分の低い者の方がストレスも多いだろうし、城の内外も気軽に行き来できるからな。

ヤバい誰かが、自身の憂さ晴らしのために、こっそり夜中に城を出て、猫を掻っ攫って虐待してるんだろうと思ってたんだよ。しかし、だ」


そう言ってウィル様は、膝に手をつき身を乗り出す。


「それなら、猫狩りの正体は城内の者になるはずだが、違った。

猫狩りは全く見ず知らずの者だった。ということは、城外に易々と出歩けない誰かが、そいつに依頼して猫を捕まえ、持ってこさせていた、ということになる。

つまり、依頼主は、猫狩りを雇えるほどの金があり、かつ、普段、気軽に外に出歩けない人物。

犯人を絞り込めただけ、一歩前進できた、とも言える」


ウィル様は一人頷く。

そこまで聞いた時に、私は一つ、思い出したことがあった。


以前、倉庫に閉じ込められていた猫が発した言葉だ。


――うかうかしていると、またあの残虐王子に捕まっちまうぞ。


あの時は、「残虐王子」という言葉が誰を指しているのかよく分からなかった。

というのも、元々、巷の猫界隈では、ルドルフ様が猫狩りをしているとの噂が流れていた。

なので、てっきりあの野良猫も、自分に虐待を加えている人物はルドルフ様なのだと誤認しているのだろう、と思っていた。


だから、猫狩りが本当に存在するとしても、それはルドルフ様くらいの年齢の兵士や使用人、と私は勝手に予想していた。野良猫がルドルフ様だと勘違いするくらいの年齢や容貌の人物なのだろう、と。


でも、今のウィル様の発言を聞くと、話は違ってくる。

猫狩りは単なる実行犯。彼の依頼主が、実際に猫を虐待している人物。

そしてそれは、城内でも地位の高い人物であり、かつ、城への自由な出入りが制限されている人物。

加えて野良猫が、「残虐王子」と形容するような人物。つまりは、若年者。


瞬間、あの不気味な笑みが蘇る。

全身の血液が凍り付きそうなくらいの、邪気の籠もった、あの笑顔が。


「残虐王子、という言葉を聞いたら、ウィル様はどなたを想像なさいますか?」


思わず尋ねる。


「残虐……王子?」と彼は眉を寄せ、同時に腕を組む。


「うーん。厳密に言えば、王子ってのはこの城にはいねーよな。

なんせ、今の王はまだ十歳なわけだから、クラウス王に子はいない。だから王子もいない。

だが、見た目や地位のことを考えれば、王子といえばクラウス王かルド様を指すんじゃね?

現に、つい最近まで王子って立場だったわけだし。

ただ、残虐って言葉が前に付くなら、ルド様を示している気もするわなぁ」


「その言葉が何だ?」と尋ねられたので、私は素直に答えた。

以前、倉庫に捕まっていた猫が、自分を虐待した人物を「残虐王子」と呼んでいたことを。


瞬間、ウィル様の顔が青ざめる。


「待てよ。そうなってくると、年配者達が一気に容疑者から外れることになる。

ルド様がそんなことするはずもねーし、ということは」


ウィル様はそこで一旦、唇を閉じる。だが私は、あえてその先を聞いた。


「ウィル様。クラウス陛下って、どのようなお方なのですか?」


彼は瞬間、目を見開き息を止める。が、しばらくの沈黙の後、そっと口を開いた。


「クラウス陛下は……、先代王とお妃様、つまりは、正妻との間にできたお子様だ。

パッと見は、子どもらしい、天真爛漫な子というか……、どこにでもいそうな普通の子どもだ。

容姿も前お妃様に似てイケメンだし。ねこすけもそう思わないか?」


そう問われ、私は頷く。ウィル様は「だがなぁ」と言いながら、陛下について語り始めた。


クラウス陛下は、先代王と正妻との間にできた、二人にとっての初めての子どもだった。

愛くるしい容姿を兼ね備えていた彼は、城の皆から、蝶よ花よと可愛がられていたらしい。


しかし、彼が五歳の頃に、雲行きが変わる。

腹違いの兄である、ルドルフ様が城に来られたのだ。

ルドルフ様は当時十四歳。先代王が、王妃との婚約前にもうけた、踊り子との子だった。


ルドルフ様は当時、実母と共に下町でひっそりと暮らしていた。

しかし、突如実母が亡くなり、頼る人間がいなくなった。


普通であれば、身よりのない庶子は教会に入れられるところだ。

が、王は、かつての恋人によく似たルドルフ様を見捨てることができなかった。

悩む王の後押しをしたのは、王妃だったらしい。最終的に王は、ルドルフ様を引き取る決断をされた。


人格者として有名だった王妃は、愛人の子であるルドルフ様を、実の子のように可愛がった。

一見すると、理想的な家族。しかし、事はそう単純ではない。


家臣の中には、踊り子の子という低い身分のルドルフ様を、良く思わない者がいたようだ。

彼らは、王と王妃を直接糾弾できない代わりに、影でルドルフ様に冷たくあたった。

そんな家臣たちの態度が、クラウス様の心に徐々に影を落とし始めたようだ。


「ルド様とクラウス様との関係は、正直、あまりよくない。

クラウス様は、ルド様が来るまでは、城内全ての人々から一身に愛を注がれていたからな。

それが、ルド様の登場で、王と王妃の視線は、兄に分散された。

突然のことで、幼いクラウス様は戸惑われたことだろう。

そこに、トレドを含む家臣どもがこう吹き込んだんだ。


『ルドルフ公は、人畜無害の振りをしながら、あなたを追いやり、その座を奪おうとしているのですよ』と」


今回も、ここまでお読みくださりありがとうございました。

継続してお読みくださるあなたがいるから、書き続けていられます。

本当に感謝しております。


リアクション、ブクマ、☆評価などを頂けると、今後の参考になりますので、

お時間ございましたらクリックしていただけると幸いです。


今回もありがとうございました。

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