31:猫狩り
リネットの叙任式から、数週間が経った。
私は、猫の死骸の一件があって以降、ルドルフ様と裏庭に行く以外は、この部屋を一歩も出ていない。
元々、怪我のせいでずっと部屋にいる生活に慣れていたため、特段不自由をしているわけではない。
相変わらずルドルフ様は優しくて、朝と夜に食事を運んでくれるし、
仕事の合間を見ては、私に構ってくださる。
が、やはり、あの無数の死骸を見て以降、
部屋からルドルフ様がいなくなると、どこか心細い気持ちを抱いていた。
自分の思いもよらぬところから、魔の手がひたひたと忍び寄ってきている気がして、
昼寝中も不意に起きてしまうことがしばしばある。
そんな私を気遣ってなのか、ウィル様は時折、この部屋に立ち寄ってくれていた。
そして、ルドルフ様がいない時には、誰にも気付かれぬ程度の小声で、ことの進捗を報告してくれた。
とは言っても、然したる進展はないのだけれど。
「うぉーい。ねこすけ、いるか?」
ウィル様が扉をノックする。
私は「ニャア」と声を張り、返事をした。
「おっ、今日はおまえ一人なんだな?そうか、今ルドルフ様は会議中だもんな」
扉がしっかり閉じられたことを確認してから、私は人の言葉に切り替える。
「最近、ルドルフ様は特にお忙しいように感じます。顔色も、いつもより優れない気もいたします。
何かあったのですか?」
ウィル様は、デスク脇の椅子にドカッと腰を下ろすと、「うーん」と唸る。
「実は先日、軍の公安部隊が、反乱因子のアジトを摘発してな。
奴らの取り調べやらで忙しいんだ。このまま行けば、近々処刑が行われるかもしれん」
「また処刑……ですか」
思わず、眉間に皺をよせる。私が来てからの処刑は、メアリ夫人以来初めてだ。
ルドルフ様はきっと、気持ちが沈んでおられるに違いない。
彼の心中もだが、世間の評判も気になる。
「そうなれば、街中ではまた、ルドルフ様のことが、『処刑好きの残虐公』として触れ回られるのでしょうね」
「あぁ。ったく、ホントに噂ってのはやっかいだ。
真実を、物の見事に喰いつくしていく。民が欲しているのは『つまらない真実』より『スキャンダラスな嘘』だ。皆、信じたいものだけを信じるんだよ」
私は瞬間、ルドルフ様の寂しげな瞳を思い出し、心がキリリと痛んだ。
「あ、そうそう、ルド様の件もだが、ねこすけにはもっと伝えるべきことがあったんだ」
「伝えるべき、こと?」
私はピンと耳を立てる。
「あぁ。おまえさんも気にしていた『猫狩り』のことだ」
ウィル様は真剣な顔で私に視線を向けた。
彼は、猫の死骸を見つけて以降、猫狩りについての調査をこっそり進めてくれていた。
城の誰が関わっているか分からないため、
箱詰めにされた死骸が城内から見つかった件については、未だに公表していないらしい。
余計な心配をさせまいと、ルドルフ様にも、この件を知らせてはいないようだ。
「先日、夜道で兵士が、怪しい男を見つけたんだ。
そいつは大きな麻袋を背負っていて、兵が声をかけると一目散に逃げ出したんだってさ」
「それで、どうなったんですか?」
「それが……」とウィル様は言いづらそうに下を向く。
「取り逃がした、というか、逃げ切られた。そいつは、この寒い中、近くの川に身投げしたんだ。
翌日、死体があがったよ。奴は、何も語らずに冥土まで逃げ切ったんだ。
そして、麻袋の中からは猫が数匹発見された。そいつが『猫狩り』であったことはほぼ確定だな」
「では、彼がそのようなことをしていた動機は、今となってはわからない、ということですね」
「あぁ、死人に口なしだからな。だが」
ウィル様は人差し指を立てると、軽く振って見せた。
「わかったこともある。
まず、猫狩りは俺たちの見知らぬ人間だった。
つまり、城内の者ではなかったってことだ。
しかし、奴は城をこっそり出入りして、猫を城内の誰かに供給していた。
ということはつまり、誰かが手引きをして、奴を城にいれていた。
すなわち、誰かが彼に、猫を持ってくるよう依頼していた、ということになる」
「誰かの依頼?」
私が目を瞬かせていると、ウィル様は「最初から説明しなきゃな」と語り出した。
*9月6日の投稿で、31話を投稿するつもりが37話を投稿してしまいました。申し訳ございません。
今回もありがとうございました。




