↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/33

30:彼の瞳の奥に

その人物は入って来て早々、軽くため息をつく。

私は思わず、ニャッ!と声を上げた。


ルドルフ様が帰ってこられたのだ。


彼は私に視線を向けると、ゆるく目を細めた。


「よかった、ポラリス。ちゃんと待っていてくれたのですね。

掃除のメイドが変わったので、怯えて逃げ出していないか心配していたのです」


そう言いながらルドルフ様は、床から私を拾い上げ、ぎゅっと抱きしめる。


「あ、おい、ちょ、それ……」


ウィル様はすぐさま上半身を起こすと、何か言いたげに片腕をこちらに伸ばす。

そうだ。ウィル様は私が人間であることを知っている。

そう思った瞬間、急に抱きしめられていることが気恥ずかしくなった。


「なんですか?ウィル」


「いや、人前でそんなにイチャつくのは、なんつーか、なぁ?」


そう言いながら、ウィル様は私にチラリと視線を合わせる。

彼も、さっきまで私を懐に入れていたわけだけれど、それとは少し事情が異なるようだ。


私は、ウィル様がルドルフ様に私の正体を明かしはしないかと、内心ヒヤヒヤした。


「い、イチャつくだなんて……。彼女は猫ですよ、猫」


ルドルフ様は少しだけ私の身体を離すと、頬を染め、軽く眉をしかめた。


「えぇ、あぁ、まぁ、そうなんですが……。

れより、なんでこんなところにいるんです?

今はリネット嬢の騎士就任パーティの時間じゃないんですか?昼食会の最中でしょう?」


ウィル様はさりげなく話題を変える。


「少し隙を見て、脱けてきました。この子が心配だったものでね。

思いのほか、落ち着いていて、安心しました。あなたのおかげです。ウィル。ありがとう」


その言葉を受けウィル様は「全く、世話のかかる主です」と呆れたような笑みを返した。


「それじゃあ俺も、そろそろ昼飯に有り付こうかねぇ~」


そう言いながらウィル様は勢いよく立ち上がる。


おそらく、ここから一旦離れて気持ちを整理したいのだろう。


「昼食会は立食形式でしたね。今から俺が行っても大丈夫っすよね?」


「えぇ。そう思います。だからこそ、私も脱けてこられた」


その言葉に頷いたウィル様は、「では、また。何か分かれば報告します」と言って、視線を私の瞳に合わせた。

そして、私が小さく頷くのを確認した後、扉を開けて、出て行った。


「何か分かれば報告って……一体なんの報告でしょう」


閉じた扉を見つめながら、ルドルフ様が首をかしげる。


私は彼の気をそらそうと「ニャア、ニャア」とことさら鳴いてみる。


「それにしても、ウィルと仲良くなってくれてよかったですよ。ポラリス。

あなたは人なつっこい猫なので、顔見知りである彼がいれば、パニックになることもないだろうと踏んだのです」


ルドルフ様は微笑する。そ

して、窓越しに、晴れ渡る空に目をやりながら、小さくつぶやく。


「今まで掃除をしにきてくれていたメイド達とは、もう会うことはないでしょう。

あなたも懐いていたのに……。申し訳ありません」


その声は、明らかに憂いを帯びていた。

私は口を閉じ、そっと彼の表情を伺う。


「彼女らは、別の場所へと異動になりました。

こういうことはね、今に始まったことではないのです。

私と良好な関係を築いたものは、この城から追い出される。

昔からあったことではありますが、父が亡くなってからは、それがもう、当たり前となってしまいました。

だからね、ポラリス。私は、誰とも親しくなってはいけないのですよ」


静かに、淡々とした口調で語るルドルフ様。

私はなんとか励ましたくて「ニャオー」と小さく声をかけてみる。


「あぁ、あなたは大丈夫ですよ、ポラリス。

あなたは、私の所有物、ということになっています。

城から雇われている訳ではないため、人事権は及ばない。

個人的所有物ですから、勝手に処分すれば、むしろ罪になる。

あなたを『物』と見るのは、少し抵抗がありますが、ね」


そう言って、ルドルフ様は微笑んだ。


その笑みがなんとも哀しくて、私はきゅっと口を結ぶ。


いつか、あなたが、こんな哀しい笑みではなく、心から笑える日が来ますように。


彼のメノウのような瞳を見つめながら、私は静かに祈った。

いつも読んでいただきありがとうございます。麦野です。

ルドルフが登場したことで、少し空気感が和らいでいれば嬉しいです。


また、毎度毎度で申し訳ございませんが、☆の評価や感想等いただけると非常に励みになりますので、

よろしければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。