28:不穏な動き
「例えば、この城内の偵察、とか?いや、でもなぁ。それはさすがにちょっと」
そう言いながら、一人でブツブツとつぶやくウィル様。
「偵察?」と私が繰り返すと、彼は様は静かに頷く。
「さっきも言っただろう?ルド様には敵が多い。
その筆頭はトレド大臣なわけだが、俺は、彼が何か企んでいるような気がしてならないんだ」
「企んでいる、ですか?」
「あぁ」と言いながら、ウィル様は、ベッドに座る私の横に腰を下ろす。
「ルド様と親しくなった家臣を左遷する。
それはまぁ、小さな嫌がらせレベルのものだ。
が、大臣はそれ以上に、何かを企んでいると思う。
そもそも、大臣は先代王の従兄弟、先々代の王の孫にあたる人物だ。
血筋的には、王になってもおかしくない立場の人間なんだよ。
能力もあるし、政治や民衆を牛耳る術も長けている。
俺は正直、彼が先代王の遺言通り、陛下の後見人なんて立場にずっと甘んじているはずはない、
と思っている」
「でも、先代王が亡くなられる間際、
血判書のような重い誓いを交わされた、とメイドさん達がおっしゃってました。
それは、ただの遺言書よりずっと重いものなのでしょう?」
「ねこすけはまだまだ甘ちゃんだなぁ。
そんなもん、大義名分さえつければ、いくらでも破棄できるよ。
死人に口なし。反故にされても、先代王はどうすることもできないだろう」
私は口ごもる。確かにそれはそうだ。
「おまえが来た日は確か、メアリ夫人の処刑の日だったって言ってたよな?
彼女は、元々ルド様とクラウス王の乳母をやっていた人で、家庭教師として代々城に使える貴族の令嬢だったんだ。
二人との関係だって、悪くなかったはずだ。
そんな彼女が、突然、陛下を階段から突き落とそうとした。
結果、彼女は反逆罪で死刑となった。裏になにかあると、考えるのが普通だろ?
実際、事件の数ヶ月前から、トレド大臣とメアリ夫人が接触する姿が複数回目撃されている。
つまり、トレド大臣がなんらかの方法で彼女をけしかけた、と考えるのが自然だ」
そう言って彼は、窓の外に視線を向ける。
「俺は、彼女の処刑に立ち会った。
最後まで、粘ってはみたんだよ。なぜクラウス王を殺めようとしたのか?
トレドに何か言われたのか?黒幕は彼ではないのか?
しかし、メアリ夫人は口を割らなかった。
最後まで無罪を訴え続けた。結果は……まぁ、おまえさんも知るところだ」
ウィル様は、ここで一端言葉を切った。
苦い記憶なのだろう。彼の表情は険しい。
私が何も言えずにいると、彼は再び口を開いた。
「俺は、ルド様のためにも、トレド大臣の尻尾を掴みたい。
そのために、今までも行動してきたんだ。しかし、彼は本当に隙を見せない。
結果、世間では彼が『いいもの』、ルド様が『わるもの』として通ってしまっているだろう?
ルド様は、王国に反逆する者を処罰しているだけなのに。だから、だ、ねこすけ」
呼ばれた私は、ウィル様を見上げる。
「もし、おまえさえ構わないのであれば、協力してほしいと思ったんだ。
トレド大臣の野望を暴くための『協力』を」
「協力、ですか」
「あぁ。こっそり城内を偵察して、情報を渡してくれないかなって。
使用人達の噂とか、家臣の怪しい動向とか。どんな些細なことでもいい。
それが何か、糸口になるかもしれない、なんて考えたわけだが……」
私は、ウィル様の言葉を遮って、「やります」と即答した。
「私、ルドルフ様のお役に立ちたいのです。
もう怪我もすっかり治ったので、高く跳べるし、早く走ることもできます。
どんなところにだって、潜入してみせます!」
おのずと声が大きくなる。
しかしウィル様は、「待て、話を最後まで聞けって!」と遮った。
「そうは思ったんだが、やっぱり、なんつーか、ちょっと躊躇う部分があってな。
つーのも、最近、『猫狩り』ってのが噂になっていてな」
――猫狩り
そういえば、私がウィル様の前で言葉を発した時、
彼は最初「猫狩りと関係が?」などと口走っていた気がした。
「猫狩りって、繁華街に住む猫達が城に連れ去られるっていう噂のことですか?」
するとウィル様は、目を見開き「知ってんのか?」と尋ねる。
「街の野良猫たちから聞いたのです。捕まった猫たちは、二度と、街には戻らない、と」
「おまえ、猫と話せるのな」
ウィル様は少し驚いた風ながらも「それなら、言いたいことはわかるだろ?」と続けた。
「最近、城の敷地内で猫の死骸が発見されることが増えたんだ。
この城は広く、森も近いから、別に猫の死骸が特段珍しいってわけじゃない。
が、近頃その数が急増してな。今までは一年に二匹ってところだったのが、今はその四倍ほど。
しかも、その死骸すべてが、どうも不自然というか、他の動物にやられた、とか、病死、という感じじゃないんだよ。
毛がごっそり脱けていたり、不可解な傷があったり、な。
まさに猟奇的。
動物虐待は、矛先が人に向かう事例も多くあるから、少し警戒しているんだ。
だから、おまえが城内を気ままにうろちょろするのは、正直あまり良くない。
偵察をお願いしたいはしたけど、あくまでもおまえの身が一番だからな」
ウィル様の言葉に、野良猫たちが言っていたことは本当だったのだと、私は目を丸くする。
猫たちはその犯人をルドルフ様だと決めつけていた。
しかし実際のところ、ルドルフ様はとても親切で優しいお方だ。
だからてっきり、ただの噂だと思い込んでいたのだけれど。
(そういえば……)
私は瞬間、思い出す。私が城に帰ってきた時に出会った、やつれた猫のことを。
いつも読んでいただきありがとうございます。麦野です。
今回のエピソードは、サスペンス要素多め、糖度0といった内容でした。
皆さまは、こんなおどろおどろしい話より、もっと恋愛要素強めの話が読みたいのかも、などとも思います。
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