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24:叙任式

外から、ファンファーレの音が聞こえる。

それは晴れ渡る空に、高らかと響いている。


私はそれを窓辺に上がり、ガラス越しにぼんやりと聞いていた。


今日は、私の妹、リネットの魔術騎士叙任式。

彼女が正式に、騎士団に入団する日だ。


最年少、十四歳での入団。

これからもし、戦争等が起これば、彼女は戦場に送り込まれることとなる。


ルドルフ様は、リネットの入団を「早すぎる」と嘆いていた。

私もそう思う。


――君も妹も、ただの駒だったってわけだろ


先日のエドガーの言葉が頭をかすめる。

実際、彼の言う通りだと思う。


父は、娘が「最年少の魔術騎士」の称号を賜ることで、他の家々との格の差を見せつけたいのだ。

目的はただ、それだけ。リネットの思いも、彼女の身に及ぶ危険も、関係ない。


(エドガーの襲撃は避けられたけれど、騎士叙任については結局、何もできなかったな……)


遠くで響く皆の拍手を聞きながら、私はため息をついた。


私がエドガーの元に出向いたことで、リネットが彼のターゲットとなることだけは避けられた。

が、それはほぼエドガーの恩情によるもので、私の功績とは言いがたい。


リネットの公開魔術騎士叙任式は、こうしてつつがなく開かれてしまった。

父の駒として使われ続ける彼女に対して、私は特に、何もできなかったのだ。


私はもう一度ため息を付くと、窓枠から飛び降りる。


時は流れ、状況は日々変わる。

私はそれに抗う心を思い出したのに、実際に抗う力がない。


エドガーは、私の魔力が「自身を守るため」に全て使われているのではと予測した。

もしそれが本当ならば、もっと守れる範囲を広げたい。

自分の身だけを守るのではなく、周囲の人々も守れるような。

大切な人を、理不尽な運命から救い出せるくらいの、そんな力があったなら。


そんな夢想を抱いても仕方がない。私は天井を見上げ、口を結ぶ、その時だった。


コンコンと、誰かが扉をノックする。

いつものお掃除メイドさん三人組だろうと察した私は、挨拶をするために扉の前に立った。


しかし、ガチャリと扉が開き、入ってきたのは、全く見たことのないメイドさん、二人組だった。

驚き口をあんぐり開ける私を一瞥した後、そのメイドさん達はバケツを床に置き雑巾を絞り、テキパキと掃除をしていく。


(いつもの人たちは、どうしたんだろう)


単純な疑問が湧いた。ここに来てから、掃除はいつも例のメイドさん三人組だったのに。


(たまたま、今日はお休みなだけかな?)


そう思いながら、掃除する二人の背を見つめる。


二人は、以前の三人組とは違い、お互い話すこともなく、

また、私を気にする様子もなく、黙々と掃除をしていた。

まるで、決まったことしかすることを許されていない、ゼンマイ仕掛けの人形のように。


そんな二人を眺めていると、不意に、再び扉が開いた。

いつものメイドさんだろうかと、少し期待して振り向いたその時。


「おーい。ねこすけ、いるか~?」


そこに現れたのは、ルドルフ様の腹心の部下、ウィル様だった。

彼は、いつものラフな格好とは違い、バッジの付いた赤い軍服に身を包んでいる。

おそらく正装なのだろう。


「よかった、逃げてなくて。ここじゃ落ち着かないだろう。一緒に散歩でもしようぜ」


彼は私をひょいと抱き上げると、そのまま部屋を出た。


「今日から掃除係のメンツが変わることを、おまえさんのご主人が、ひどく心配していてな。

ねこすけが驚いて、逃げてしまっていたらどうしようと気を揉んでいたんだよ。

でも、ルド様は今日、式典でこっちに中々顔出せないだろ?

だから、俺が代わりに様子を見に来たってわけ」


そう説明しながら彼は、私を裏庭へと連れ出した。

壁と建物の間に位置するこの場所は、相変わらず陰っている。


が、木漏れ日がところどころ射しているため、暗くはない。

優しい風に、枝葉がサワサワと揺れている。


ウィル様は、私を抱いたままドカッと木陰に腰を下ろすと、長い息を吐いた。


「ルド様は、昔からここが好きなんだよ。俺も実は、結構好きだ。なんだか落ち着くんだよな」


そう言いながらウィル様は私を持ち上げ、面を向かい合わせる。


「最近のルド様は、少し柔らかくなられた。おまえさんのおかげだ。本当にありがとう」


そう言って、眉をハの字にしながら微笑みかけるウィル様

。彼はしばらく私をじっと見つめた後、大事なことを打ち明けるかのように、語り始めた。


「……ルド様はな。針のムシロのようなこの城で、たった一人で生きてきたんだ。

彼は王家の長男、ではあるが、妾の子。

実母が亡くなり、ここに引き取られたのが十四歳の頃だった。

先代の王は、ルド様を可愛がった。そしてクラウス陛下の実母であるお妃様も」


お妃様。そう聞いて、私はふと、記憶の底から一人の人物を思い浮かべた。

いつも読んでいただきありがとうございます。麦野です。

毎度毎度で申し訳ございませんが、☆の評価や感想等いただけると非常に励みになります。


引き続き、お楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
リネットの叙任式をきっかけに、ルドルフの過去や王家の事情へと物語が広がっていく展開が印象的でした。特に、掃除係の交代という何気ない出来事に不穏さを感じさせる演出が上手いです。猫の姿の主人公が少しずつ周…
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