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19/22

19:本音は心の奥底に

「ちょっ、どうした?急に固まって。黙っててもわからないよ。どうした?」


エドガーが私をのぞき込む。私の肩が小さく跳ねた。


「す、すいません、少し考えこんでしまって。

あ、は、はい。そうですね。私はやっぱり、元々人間で、人間でいるべき、なんですよね。

ごめんなさい。急に人に戻れるって思ったら、嬉しいは嬉しいのですが、なんだか少し……」


まとまらない言葉を連ねた後、私は口ごもる。


「……少し、何?」


エドガーは、こちらをじっと見ながら問いかける。

そのうちに、目をそらしてくれるかと思ったが、彼は一向に視線を移さない。


「……少し、寂しい、な、なんて」


そう口に出した瞬間、私は咄嗟に「違うんです!」と続けた。


「す、すいません、急に変なことを言ってしまって。

やっぱり、今のなしです。早く、人間の姿に戻りた」


「コレット嬢」


エドガーが私のセリフを遮る。

と、同時に私は瞬時に身体を硬直させる。怒られるかもしれない。

咄嗟にそう思った。


しかし、次に続いた言葉は、予想外のものだった。


「言っただろ?俺とキミは、もう味方同士なんだって。

ここには、性悪な父親も、キミを虐げる人もいないんだから、自分の意見を言っていいんだよ。

話の流れに合わせる必要も、俺の意向を探る必要もない。

だからさ、言ってごらんよ。キミの本当の気持ちを」


彼の発言に思わず、息を止める。


私は、自分の意見を持つことを、いつの頃からか諦めていた。

私の意向など、どうせ叶うことはない。抗っても、傷つくだけだ。


だから常に、力の流れに逆らわず身を委ねてきた。

そうすることが私の処世術だった。


私が今回、ここに来られたのは「リネットを助ける」という大きな使命があったからだ。

エドガーに対して堂々と意見が言えたのも、すべては「誰かのため」だったからだ。


だけれど、今、求められているのは誰のためでもない、自分のための、自分の意見。

心の奥に閉じ込めておくことが普通だった、「私の本音」だ。


私の本当の気持ち。


「我儘だ」と切り捨てられ、口にすることが許されなかった自分の本音。


「本当の気持ち」と言われた瞬間、反射的に頭に浮かんだのは、やっぱりあの、コバルト色の髪と、優しい眼差しだった。


「私……」


言葉を発そうと試みる。が、唇は震えている。

しかしそれでも私は、意を決して声を出す。


「私、本当は、人間に戻りたくないのです。ずっと一緒にいたいと思える人に、出会えたから」


エドガーは、頷きながら床にしゃがみ込む。

ベッドの上の私と、目線を合わそうとしてくれているかのようだ。

私はたどたどしくも、続ける。


「実は、猫になった後、とあるお方に拾っていただいたんです。

そのお方は、とても素敵な方で……。いつも私のことを気にかけてくださるのです。

もし、願いが叶うのであれば、私は今後も、その方の傍にいたいのです」


探るように話す私に、エドガーは「なるほど」と返事をする。


「猫好きの年寄りにでも拾われたの?」


「いえ、年寄りではありません。あの……クラウス陛下のお兄様。ルドルフ公をご存じですか?」


「もちろん。あの処刑好きで有名な、『残虐公』だろ?」


「そう、そのルドルフ様に、拾っていただいて……」


私はおのずと、自分の頬が熱を帯びていくのがわかった。

が、その瞬間、ガラガラドン!という大きな音が部屋に響いた。

エドガーが椅子から転げ落ちたのだ。


「え、ちょ、待っ、ルドルフ公って、えっ、いや、えええええええええ!!!!!」


エドガーが再び大声で叫ぶ。そして私に駆け寄ると、肩を掴んで揺らした。


「ちょ、君!大丈夫?分かってる?あいつのこと。

彼が刑罰を取り仕切るようになってから、もう三十人以上は処刑されてるよ?

処刑大好き、『残虐公ルドルフ』だよ?」


私は思わず言い返す。


「さ、三十人は言い過ぎです!もっと少ないはずです!

それに、残虐公なんていうのは、完全なデマです。

ルドルフ様は、本当に心優しい、素晴らしいお方です!!!」


急に声を張った私に驚いたのか、エドガーは肩から手を離した。


「なんだよ、急にムキになって。まさか君、彼のことが好きなのかい?」


「そ、そんな、滅相もない」


瞬間、頬が熱くなる。


いきなりの問いかけに否定しようとするも、エドガーはこちらの話など全く聞いてはいない。


「いやまぁ、確かに、君とルドルフ公は似たような年っぽいし、彼、ルックスは良いし、分からんでもないけど……。さすがにやめといた方が良くない?いつ処刑されるか分からんよ?」


ポリポリと頭を掻くエドガー。私は「処刑好きというのは誤解です」と言い返す。


「ルドルフ様は、処刑の後、大層気落ちされていました。

本当は、繊細な方なんだと思います。

友人の方の話からしても、それらの行為には何か、複雑な事情が絡んでいるようなのです」


「うーん。まぁ、ゼストのことも含めると、世間の噂なんて全く当てにならないはならないもんだけどねぇ」


そうだ。私の父だって、世間の評判はもっぱら良いが、実際はあのような人だ。

評判なんて当てにならない。


「だからキミは、猫のまま、今後も残虐公に飼われていたいと、そう思っているわけだな」


私が恐る恐る頷くと、彼はう~ん、と頭をボリボリ掻いた。


「でも、知ってのとおり、キミの呪いは解けかけているからなぁ。

キミの希望を叶えようとすれば、もう一度呪いをかけるしか方法はないわけだけれど。

今すぐにって言われると、ちょっと自信ないかも。色々あって、体力も消耗しちゃったし」


エドガーは、自らの右手をグー、パー、グー、パーと握ったり離したりしながらつぶやく。


「そう、ですよね……」


私の声は、自分でも想像以上に落胆の色が混じっていた。


しかし、これは仕方ない。

エドガーはおそらく、綿密な準備を重ねた上で、私に呪術を放ったのだ。

そんな大呪術を、簡単にかけられるはずはない。


「あ、でも、一晩くらい休めば、多分いけると思う。

今日はうちに泊まることになるけど、それでもいいかい?コレット嬢?」


「えっ?!」


私は目を丸くした。

いつも読んでいただきありがとうございます。麦野です。

毎度毎度で申し訳ございませんが、☆の評価や感想等いただけると非常に励みになります。


引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


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