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15/18

15:再開

次の日の朝、私はルドルフ様が午前の仕事を出る際に、一緒に部屋を出た。

もちろん、彼に気がつかれないように、だ。


部屋の扉は一度開きさえすれば、後は重みで自動的に閉まる。

それを知っていたので、私は彼が扉を開き、それが完全に閉じきる瞬間に、身体をその隙間に滑り込ませた。

そして、物陰に隠れながら、誰にも見つからないようにソロソロと城内を進み、外に出た。


お城を後にする際に、最後に一度振り返り、その威厳ある構えを仰ぎ見る。


つかの間の生活ではあったけれど、お城での暮らしは楽しかった。


でも、私の身体が人間に戻ろうとしている以上、もう、ここにはいられない。

ルドルフ様が愛しているのは、あくまで「子猫のポラリス」であって、私ではない。


そこを勘違いしてはいけないのだ。


――できればずっと、一緒にいたいものですね。ポラリス。


名前を付けてもらった日の、ルドルフ様の笑顔が蘇る。


この数日間で、彼の孤独や城での状況は、輪郭だけではあるが、理解しているつもりだ。

そんな彼を置いて、恩も返さないまま城を出ることに、後ろめたさを感じないわけではない。


心が締め付けられる心地がしたが、私は気持ちを振り切るように、城に背を向け、駆けた。


私が突然姿を消せば、ルドルフ様は悲しむかもしれない。

でもそれはきっと、一時のことだ。

新しい猫でも迎えれば、彼は多分、私のことなど忘れる。

街に行けば代わりの猫など、いくらでもいるのだ。

自分の存在を過大評価してはいけない。そう思いながら、私は走り抜けた。


足は完治していないものの、昨日よりは強く地面を蹴ることができる。

目指すは、エドガーが住む「混沌の沼地」。


私の身体は小さいので、すぐにバテる。

野犬等に狙われたらひとたまりもない。その辺りも考慮しつつ、私は走った。

他人の敷地を横切り、時に休み。


それらを繰り返すこと数時間。

匂いで段々と、大気の湿度が高くなっていくのがわかる。

沼地が近づいてきたのだ。


沼地は、当たり前だが地盤が緩い。

建物を建てても、雨が降ればすぐに水に浸かり駄目になるため、誰も住みたがらない。

だから家のようなものは、ほとんどなかった。


そっと、水面の方に目線を送る。沼には芦が生い茂り、泥は深く、底が見えない。

よって、様々な不要品がこっそり、この沼地に捨てられる。だからいつしか『混沌の沼地』などと呼ばれているのだ。


湿り気を含んだ独特の匂いを嗅ぎつつ、進むこと数分。

長く伸びるススキの葉をかき分けながらたどり着いたのは、船着き場の付いた一軒の小屋だった。


それは、まるで船屋のように、沼の上に建てられていた。

木で組まれた足場が、沼地から生えるように顔を覗かせている。


草の間から顔を覗かせていた私は、おそるおそる、その小屋に近づいていく。


小屋は、古いログハウスのようだった。

落ち着いた外観を持つそれは沼地の景観に馴染んでいた。

窓はすべて磨りガラスなので中は見えないが、汚れている風ではない。

船着き場には、釣り竿が仕掛けられたままだ。これで魚を取っているのだろうか。


私は唾をゴクリと飲み込んで、木製の足場にその一歩を踏み出した。


ギィ、と床板が小さくきしむ。

木は、しっとり水分を含んでおり、私の肉球を湿らせる。

柔らかな床板に私の爪が食い込む。


私はそのまま、ギィ、ギィと音を鳴らしながら、そろりそろりと小屋の正面を目指した。

そして入口と思われる大きめのドアの前に立つと、私はゆっくりと深呼吸した後、声をかけた。


「エドガー・ロウ様、いらっしゃいますか?」


久々に人間の言葉で大声を出した。が、それは思いのほか通った。


小屋の中からコツコツと足音が聞こえてくると、その直後、ドアがギィと音を立てて開いた。


「なに~?郵便屋さん?俺、今まで寝てたんですけどぉ」


ポンポン付きの可愛らしい三角帽子をかぶった男性が、目をこすりながら出てくる。


薄紫のくせ毛が日光に透けている。

服はパジャマ。ピンク色のそれとナイトキャップの色は同じだった。

時間的にはすでに正午を過ぎていると思うのだが、彼は依然として眠そうだ。


前回会った時も思ったことだけれど、やはり彼は、どこか緊張感に欠けている。

私は、宿敵と表してもよい相手と再び対面しているにも関わらず、その姿を見て、少し気が脱けた。


「あれ、誰もいないじゃん」


エドガーは不機嫌そうに周囲を見回しながら、眉をしかめる。


私はすかさず、

「こ、ここです!」

と叫んだ。


「ん……?猫?えっ」


エドガーはしゃがみ込むと、私の鼻先まで顔を近づけながら、こちらをまじまじと見つめる。

そして、「えぇぇぇぇぇ!!!猫がしゃべったぁ?!?!」

と、大げさに後ろ向けに倒れ込んだ。


いつも読んでいただきありがとうございます!麦野です。

毎度毎度で申し訳ございませんが、☆の評価や感想等いただけると非常に励みになります。


行動を起こしたコレットの行く先を、見守っていただければと思います!

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