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13/18

13:思いがけない言葉

エドガー・ロウ。父の「自称」ライバルであり、私を猫の姿に変えた呪術師。

緊張感に欠ける発言が多かったものの、こちらに向けた憎悪と、その呪術の腕は本物だった。


そんな彼が、再びリネットを狙う可能性がある。

そう考えただけで、心の底が寒くなる。


しかし、一方で思う。

私は、アルハイム家では虐げられていた存在だった。

食事も皆とは別だったし、使用人のような扱いだった。

父は、私が猫にされたと知っていながら、これ幸いとでもいった形で、私を屋敷から追い出した。

つまり私は、アルハイム家に見捨てられた存在だ。

そんな私が、アルハイム家の危機について、責を負う必要があるだろうか。


アルハイム家と私は、今やもう、関係ない。

だから、どうなろうと、知ったことではない。

そう考え、すっぱり忘れることだってできた。


……だけど。


私は、父に対しては思うところがある。

しかし、リネットのことを、特段恨んだことはない。


もちろん、父の愛を一身に受け、蝶よ花よと育てられた彼女に嫉妬心を抱いたことはあった。

けれど、私はリネットとあまり接点がなかったこともあり、彼女を嫌っていたということはない。

むしろ、期待を勝手に背負わされ、不自由な毎日を送る彼女を、哀れと思う時もあった。


今回、叙任式の話を聞いて、エドガーはどう動くだろう。


おそらく、その牙は父にではなく、リネットに向くはずだ。

彼は、父の一番大切な者を呪うことで、父にダメージを与えたいのだ。


(リネットはなにも悪くないのに、彼女が犠牲になるかもしれない……)


――猫さん、お願い。また、ここに来てくれる?私、友達がいなくて寂しいの。お父様やメイドさんは優しくしてくれるけれど、みんなが好きなのは、私の魔術の才能だけ。


屋敷を出る日の、リネットの言葉が蘇る。

彼女の声には、憂いが含まれていた。すがるような目で、私を見つめていた。


(……リネットに、危害がおよんではいけない。たった一人の姉として、私は彼女を守りたい)


そう強く思った瞬間、熱い何かが血潮と共に、身体に駆け巡る心地がした。


私が今、できることはなんだろう。私はベッドの上で姿勢を正したまま、ただ、考えを巡らせる。

しかし、良いアイデアというのは、早々すぐには思い浮かぶものではない。


そうこうしているうちに、掃除の時間になったようで、いつものメイドさんたちが部屋の中へと入ってきた。


「あら、あんた、おはよう。今日はベッドの上にいるのね」


「あれ、包帯取ったの?」


箒やぞうきん片手に話しかけてくるメイドさん。

そんな彼女に、私は俯きつつも、いつものように「おはようございます」と告げた。

告げたといっても、いつも通り「ニャー」と変換されると考えていた。


そう、そのつもりだった。のだけれど。


「おはようございます」


「えっ?」っと、メイドさんの一人が立ち止まる。

私はふと顔を上げた。


「ねぇ、今、おはようございますって、声しなかった?」


「えっ?あんたが猫に声かけたんでしょ?」


「違う違う、私、猫に『ございます』なんて話しかけないわよ。それに声は、ベッドの上からしたじゃない」


「え、じゃあ今の声って」


三人の視線がこちらに注がれる。

私は、今の状況が飲み込めず、ただ唖然としていた。


数秒の沈黙の後、メイドさんの一人が口を開く。


「そんな、猫が言葉を話すわけないじゃないの!聞き間違い、聞き間違い。

ほら、私たち最近色々あったでしょ?だから疲れてんのよ。さ、掃除掃除っ!!」


その他二人のメイドさんは「それもそうよね」と言いながら、各々の持ち場へと着いた。



皆が掃除を進める中、私は驚きのあまり、その場で呆然としていた。


(……今、言葉が、出た?)


そう、先程の「おはようございます」の声は、明らかに、人間の頃の私の声だったのだ。


でも私は、その現実をすぐには受け入れることができない。


(どういうこと?なんで今になって言葉が?

聞き間違い?気のせい?

でも、他のメイドさんも、ベッドから声がしたって言ってたし、つまり)


訳が分からず混乱している間に、いつの間にか掃除は終わったようだ。

メイドさんたちが退散した後、私は部屋にあった全身鏡の前に、おそるおそる立ってみた。


(姿は変わってないな……)


そこには、グレーの毛を持つ小さな猫がたたずんでいる。


私は息を深く吸い、吐いた後、もう一度言葉を発してみた。


「おはようございます」


その声は「ニャア」とは変換されず、人間の言葉として宙に溶ける。


(嘘……え、なぜ?なんで今更?)


鼓動が速まる。他の言葉を発してみても、その声は人の言葉として、口から出てきた。

いつも読んでいただきありがとうございます!麦野です。

毎度毎度で申し訳ございませんが、☆の評価や感想等いただけると非常に励みになります。

いきなり話せるようになったコレットの行く先を、見守っていただければと思います!

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