表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

12:少年王 クラウス

突然現れた二人に、私は呆然と立ちすくむ。

そんな私にルドルフ様はすぐさま駆け寄り、慌てた様子で抱き上げる。

そして、隠すかのようにジャケットの内側に入れた。


私は様子を伺うべく、そっと彼の胸元から顔を覗かせる。


「……これが、メイドらが噂をしていた猫、ですか。なんでも拾われた、とか」


恰幅の良い男性は、お腹を揺らしながら一歩ずつ、私たちに近づいてくる。

少年も「やはり、そうなのですね!」と無邪気な声を上げ駆け寄ってきた。


「クラウス陛下に、トレド大臣……」


ルドルフ様は、私を抱く手にぎゅっと力を込めながら、うなるようにつぶやく。


「どうしてこんなところで、二人きりで遊んでおられるのですか?

遊ぶなら、僕も呼んでくださいよ!

場所だって、こんなジメジメした場所じゃなくて、明るい中庭の方がいいのに」


「サボっておられるのを見られたくなくて、こういう場所を選ばれているのですよ、陛下」


トレド大臣と呼ばれた男性は、嫌みっぽい口調で少年に告げる。

ルドルフ様に敵意があることは明白だ。

先程の悪寒は、この男性の気配を感じてのことだったのだろうか。


そして、陛下、と呼ばれている少年。

彼は、さすがの私でも見覚えのある人物だ。

彼こそ若干十歳でフォード王国の頂点に立った「少年王」、クラウス陛下だ。


「サボり、などではありません。スケジュール上、今日の業務はまだ始まっておりませんので」


ルドルフ様の口調は、私に話しかける時とは打って変わり、淡々としたものだった。

しかし、トレド大臣はフッと苦笑する。


「業務はまだでも、ちゃんと城内に居てもらわなければ。何かあったときに困るでしょう」


「自由時間にどこで何をしてようが、私の勝手です。それより、探していた、ということは、何か急用でも?」


すると、大臣より先に、クラウス陛下が「ビッグニュースです!!」と手を広げる。


「お兄様もご存じでしょう?リネット・アルハイムの名を!」


リネット・アルハイム。


私の耳が、自動的にピクリと動く。

それは紛れもなく、私の妹、リネットの名だった。


「……リネット・アルハイム。魔術の名門、アルハイム家の一人娘でしたか。彼女が何か?」


「彼女が、史上最年少でうちの魔術騎士団に入ることが決まったのです!叙任式は一週間後。民衆にも見えるよう、城の大型バルコニーで行う予定です!」


「魔術騎士の、叙任式?」とルドルフ様はいぶかしげに繰り返す。

私も思わず目を見開いた。


自らの魔術を武器に戦う騎士、それが魔法騎士だ。

叙任式とは、騎士の位を賜るための儀式なのだが、通常、騎士になれるのは十八歳以上の者。

明らかにリネットは、若すぎる。


「彼女はまだ、十四歳とか、そのくらいではありませんでしたか?いくら最年少でと言っても、少々早すぎるのでは?」


ルドルフ様も同じことを思ったようだ。

が、トレド大臣は眉一つ動かさない。


「先日行われた魔術軍用協議にて、父親のゼスト・アルハイム氏から打診を受けましてな。

今回の第四次軍事改革においても、ゼスト氏の貢献度は非常に高い。

そんな彼からの要望です。無下に断るわけにもいかんでしょう。

それに、私は実際にリネット氏の魔術を見させてもらいましたが、現役騎士と並ぶ、いや、それ以上のものでした。なので、特に反対する要素もないと判断いたしました」


「しかし、魔術の使用には強い身体的負荷がかかると聞いています。

騎士として戦闘するとなれば、連続使用せざるを得ない状況に直面することもある。

十四歳の身体で、それに耐えられるのでしょうか?また、魔術騎士になるということは、有事の際には兵士と共に駆り出されることを意味します。その年齢で彼女が最前線に出るのは、やはり早い気が」


「大丈夫ですよ、お兄様!僕だって十歳で王様になったんですし」


ルドルフ様の言葉を、クラウス陛下が遮る。トレド大臣は静かにうなずきながら、続ける。


「彼女の父親自らが要望しているのですし、その辺は大丈夫なのでしょう。

それに、ルドルフ様。失礼ながら、あなたがこの件に対して口を挟む余地はございません。

すでに決定された事項なのですから。

ともかく、私があなたにお知らせしたかったのは、一週間後にせまる叙任式の段取りについてです。

少なくとも明日には来賓の方々に招待状を送らねばならない。

誰に送付すべきか、その選出にご協力いただきたい。

あと数時間後には協議を始めますので、こんな場所で油を売っておらず、早く部屋へとお戻りください」


まくし立てる大臣に、ルドルフ様は眉を寄せながらも「わかりました」と返答した。


「楽しみですね!お兄様!!

僕、リネット氏のことを気に入っているのです!小さくてかわいいし!!あぁ、早く城に出入りしてほしいなぁ。沢山魔術を見せてもらおう!!」


陛下は、目を輝かせながらこちらを見つめる。

ルドルフ様は「そうですね」と静かに返した。


要件が終わったのか、大臣が「行きましょう」と陛下に声をかけ、背を向けた時だった。


クラウス陛下は突然こちらの真ん前まで近づくと、ルドルフ様の襟元を掴み、ジャケットを勢いよく開いた。中に隠れていた私の身体は、まるごと顕わになる。


「僕にも近くで見せてください!あっ、まだ子猫なんだなぁ。かわいいなぁ!!!」


まじまじと私を見つめる陛下。


銀色の前髪が、ふわりと風に揺れたその一瞬、彼は口角をぐにゃりと上げ、歯を見せた。

その不気味な笑顔に、悪寒が全身を走る。

私は反射的に目を閉じ、顔を背けた。


ルドルフ様は、何かを感じ取ったのか、サッとジャケットの襟元を引き、私の身体を隠そうとする。

そしてクラウス陛下に「では、のちほど」とと言うと、早足でその場を後にした。



ルドルフ様が石畳の廊下を歩く中、私の鼓動はずっと早いままだった。


先程のクラウス陛下の視線。

一瞬で身体の神経が凍り付くような、禍々しい雰囲気を含んでいた。最初に感じた悪寒の正体は、大臣からではなく、彼からだったのだろうか。


しかし、そんなことよりもっと、懸念すべき事項があった。


自室へとたどり着いたルドルフ様は、はぁとため息を付きながら、私をベッドの上に置く。


「……リネット氏が魔術騎士など、明らかに早すぎます。

おそらく彼女も、政治の駒として利用されているのでしょうね。ですが私は、それを止めることができない」


独り言のようにつぶやきながら、彼は肩を落とし、もう一度重いため息を吐く。


「すいません、少し、部屋から出ますね。今日は包帯を取ったばかりです。

足の自由が効くとはいえ、無理はなさらずに。それでは」


そう言ってルドルフ様は、私の頭をポンポンと叩く。


彼の背を見送った後、私は先の大臣の話を思い返した。

そして事態の深刻さを改めて感じた。


(リネットの、魔術騎士叙任式が開かれる。しかも、民衆に公開で)


私を猫にした呪術師、エドガーは、私をリネットだと勘違いしていた。

だから私に呪いをかけた。そのおかげで、リネットは無事だった。


しかし、彼女の騎士就任のニュースがちまたに出回ればどうなるだろう。

エドガーは、リネットの「無事」を知ることになる。

それに加えて、民衆に公開する形で行われる叙任式。

ここまでお膳立てされていれば、エドガーが再びリネットを狙うのは、自明の理だ。


(どうしよう……)


あの日の、エドガーの不気味な顔を思い浮かべ、私はぎゅっと口を結んだ。


☆の評価等頂けると非常に励みになります。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ