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ダウナーやさぐれ酒カスヤニカス面白メイドと同棲する大学生が喋るだけ(酔メイド短編集)  作者: 雨谷夏木


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バンド組もうぜ

「バンド組もうぜ、公太郎(こうたろう)」

「……」


 家での夕食時、急に榊(さかき)さんがそう言い放った。

 垂れ流しているテレビの中では、新進気鋭のバンドマンが生演奏をしている。絶対これ見て言いたくなっただけだろ。


「まず訊きますけど、榊さん、楽器弾けるんですか?」

「弾けねぇ」


 ……だろうとは思ったけどさ。

 ちなみに、勿論僕も弾けない。


「それに、人数はどうするんです? 二人じゃバンドじゃなく、デュオですよ」

「知らん。ガトさんとか舞姫(まいひめ)とか適当に呼んどきゃいいだろ」

 ホント適当だなこの人は。


「あの二人、楽器弾けるんですか?」

「さあ? でも、なんか弾けそうじゃね? ガトさんはベースで、舞姫はキーボードだな」

「……」

 なんか分かるの、腹立つな。なにその解像度。


「じゃあ……僕と榊さんがギターかドラムのどっちかですか? あ、ボーカルもいるのか」

「あたしは……。ギターって感じじゃねぇな、あんま目立ちたくねぇし。ドラムもらうわ。お前、ギターな。あと、ボーカルもやる。ギタボ。よろ」

「えぇ……」


 ギターとボーカルって、一番難しんじゃないのか? 勝手なイメージだけど。

 まあ、華はあるけど……一番華のない僕がそんないい役をもらってしまっていいのだろうか。


「なんか勝手に話進めてますけど、我藤(がとう)さんと舞姫さん手伝ってくれますかね?」

「ん? もう声かけたけど、二人とも面白そうだからやってくれるってさ」

「綿菓子並みの軽さしてんな、あの二人のフットワーク」


 というわけで、各々適当に練習しつつ、一か月後にスタジオで緩く合わせをすることになったのだった。


 課題曲は、ブルーハーツのリンダリンダだ。


 僕は中古でやっすいエレキギターを購入し、練習を始めた。


 榊さんはドラムの練習と称し、ずっとゲーセンで『太鼓の達人』に興じていた。

 ふざけてるのかこの人、と初めは思っていたのだが、榊さんはリズム感がいいらしく、バチクソに上手かった。なんなんだよこの人。



 ──一か月後。



 僕たちは、錦糸町のとある音楽スタジオの部屋に結集していたのだった。


「よっ。お二方。お久しゅう」

 なんと我藤さんはベース経験者ということで、自前のベースを背負ってやってきた。楽器に合わせたのか、今回の彼女は黒を基調としたパンクファッション。ゴツゴツの高そうなブーツが最高にイカしている。


「あ、ふふ……。よ、よろしく」

 今日も今日とてゴシック衣装に身を包んだ舞姫さんも、小さい頃にピアノを習っていたのだとか。


 なんと、四人の内二人も楽器経験者がいたとは驚きだ。


 そして、ドラムセットの前にメイド服姿でどっしりと構えた榊さんは。

「──おらよっと」

 ドラムスティックを華麗に一閃、二閃、三閃──。


 ドっドっ、ドパパパッ、タっ、シャシャーーーーーーンッ。


 美しいリズムと莫大な音圧が僕を殴り飛ばす。


 そして、彼女はクルクルとドラムスティックをペン回しの要領で回してみせる。


「ん。覚えた。もういけそうだわ」

「……」

 そして、天才ショタキャラみたいなことを言っていた。


「ほぼ『たいたつ』だな」

 んなわけあるか。


 ……あ、あれ……? もしかして、僕以外の全員上手いのか?

 なんか、急激に自信がなくなってきた。もっとお遊び的な雰囲気かと思っていたのに。


 ギターケースから、安い中古のギターを取り出しながら、改めて三人のことを一瞥する。


 綺麗な衣装に身を包んだ、綺麗な三人の成人女性。その内一人はメイド服というその異物感が、逆にバンドの魅力を引き上げているような気がする。


 これ、僕お邪魔じゃないか?


 三人でバンド組んだ方が、いい気が──。


「公太郎」


 聞き慣れた榊さんの声に、ハッとする。


 ギターを抱えたままに顔を上げると。


「ほら、はよ準備しろ。主役のお前がいねぇと、始まんねぇだろ」


 既に準備を終えた様子の三人が、僕を待ってくれている。


 そうか……主役……。


 バンドは、ギターとボーカルがいないと始まらないよな。


 僕は気合を入れ直し、ギターをアンプに繋げたのであった。



 ……結果から言うと、かなりボロボロの出来ではあった。

 主に僕が。


 しかし、リズム隊である榊さんと我藤さんが僕をリードしてくれたし、コードが難しくて僕が上手く鳴らせないところは、舞姫さんがカバーしてくれた。


 ということで、初めてにしてはそこそこ聞ける演奏だったのではないだろうかと思う。

 ……歌はまあ、それはそれはお粗末だったのだが。ギターに集中していたから、と言い訳させてもらうことにしよう。


 ギターの片づけをしていると、榊さんが声をかけてきた。

「なかなかオモロかったな」

「はい。僕の出来は散々でしたが」

「ま、これからだろ」

「ですね」


 確かに、やりがいはあった。ギターと歌が上手くなれば、もっともっと楽しくなるのだろう。


「榊~。今後も続けんのなら、なんかバンド名とか決めんのかー?」

「あー。そっすねぇ。んー……」

 我藤さんの問いに、榊さんは数秒思考した後。


「『毒の犬達、毒s(ドッグズ)』」

「……」


 ネタツイじゃねえか。


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