ほう、和装メイドてすか
「ほう、和装メイドですか」
「急にどうした」
家で二人でごろごろしながら僕が呟くと、榊さんがにゅっと首を伸ばして僕のスマホを覗き見してきた。
僕の検索画面には、『メイド服 種類』と入力がされており、今は画像欄を開いてそれを眺めていたのだ。
「なんでお前、『メイド服 種類』で調べてんの?」
「メイド服の種類を知りたかったので」
「なんか、コワ……」
普通に引かれちゃった。
榊さんが現在持っているメイド服は、二着。
シンプルなクラシカルメイド服と、水色のジャージメイドだ。
ちなみに今、榊さんはジャージメイドを着用している。ジャージとメイド服を混ぜた、なぜか皆知っている謎のアレである。
動きやすくてなかなかいいらしい。榊さんのジャージメイド服姿、かわいくて好きなんだよな……。
「かわいくないですか? 和装メイド」
「ん~?」
スワイプ、スワイプ。
スマホの中を、和装メイド服姿の女性が次々行き来する。
和装メイドというのは、その名の通り和服っぽいメイド服のことである。
着物っぽい服にエプロンを合わせたり、袴っぽい服にエプロンを合わせたものが多い。
いわゆる、和洋折衷というやつか?
個人的にメイド服というのは、派手ではなく落ち着きを感じて好きな恰好なのだが、和装メイドは普通の黒白のメイド服とはまた別軸の奥ゆかしさが漂っており、これはこれでとても好きだ。
僕は、画面の中の和装メイドと榊さんを交互に見比べる。
「なんか、榊さんってめちゃくちゃ和装メイド似合いそう」
「は?」
「榊さんって、大和撫子感あるじゃないですか」
「そうか?」
きりっとした目、肩の上辺りで切りそろえられた黒髪。すらっとした肢体。落ち着いた雰囲気。
どこをどう見ても大和撫子だ。
ローテーブルの上の灰皿に捨てられた大量の吸い殻と、その隣に散乱するビールの空き缶からは目を逸らす。
「……見た目だけは」
「確かに」
確かに、なんだ。
「というわけで、購入しておきますね」
「おお。あたしの意思はもう関係ねぇんだな」
「何色がいいか選んでいいですよ」
「そりゃ、緑だろ」
なんで結構ノリノリなんだよ。
〇
次の日。
最速で届いた和装メイド服を、さっそく榊さんに着てもらった。
「着たけど。……どうだ?」
「お、おお……」
薄緑の和装メイド服を着た榊さんが、スカートの端を持ってくるりと一回転してくれた。
今回は、袴と白のフリルが一体化しているタイプの和装メイド服を購入した。
袴には所々にツタや花の刺繍が施されており、結構豪華な仕様だ。……意外と、お高かったしなぁ。でも、実物を見ると奮発したかいがあったと思う出来の良さだ。
全体的に結構かっちりとした印象だが、袖やフリルの部分はかなりフリフリとしており、静と動のコントラストが目に楽しい。
そして、そんなある種奇抜な恰好に負けないのは、やはり榊さんの美貌があってのことであろう。
榊さんのクールビューティ系のお顔の上に鎮座する、造花があしらわれたヘッドドレスが非常にグッドである。
美しさとかわいさのマリアージュ。
和と洋のコントラスト。
素晴らしい。これが、和装メイドというものか。
「めちゃくちゃ似合ってますよ!」
「言わなくても、お前の顔見ればわかるよ」
榊さんは、口元に力の抜けた笑みを浮かべた。
僕、そんなわかりやすい顔していただろうか。
「ほいじゃ、もう脱ぐぞ」
「えー、もうちょっとだけ。おぼんにきゅうすで淹れた玉露のお茶を乗せて持ってきてくださいよ~。和菓子付きで」
「おぼんもきゅうすも玉露も和菓子もねぇ。そういう店いけ」
そう言い放ち、せっせと和装メイド服を脱ぎ始めようとする榊さん。
榊さんは半脱ぎの状態でクローゼットを開ける。
その中には、僕の服や、榊さんのメイド服とジャージメイドが詰められ、ハンガーにかけられている。
「メイド服って、意外と色々あんのな」
「ですね」
「こうなってくると、他にも色々欲しくなってくんな。あたしも、メイド服好きだし、集めようかな」
「いいですね! 七種類集めれば、毎日違うメイド服が着られますね」
「いや、さすがにそれは……。いや、ちょっと楽しそうだな?」
珍しく、榊さんがファッションに興味を示している。
これはチャンスかと思い、僕は昨日見つけたけどちょっと過激な恰好のため、言うのを控えていたことを榊さんに提案してみることにした。
「榊さん、ちなみに、メイドビキニというのも──」
「……スケベ野郎」
白けた目で見られてしまった。
お、終わった。
くそぅ。流れでいけなかったか。
「……絶対かわいいのになー」
ぼそりと寂しそうに僕が呟くと、榊さんはじっと僕を見つめ、やがて耳を赤く染めながら小さく言うのだった。
「……ま、ちっとだけ検討しといてやるよ」




