もしあたしに舌ピ空いてたら、Twitterすぎるか?
「もしあたしに舌ピ空いてたら、Twitterすぎるか?」
「……」
家で晩酌しながらテレビを見ていると、急に榊さんがそんなことを言い出した。
今日も、黒髪のボブカットがよく似合っている。
出た。榊さんの『Twitterすぎるシリーズ』。
好きなんだよな、彼女の無軌道雑談。
ちなみに榊さんは、メイド服を着たまま焼酎のロックをごくごくといっている。豪快だ。好きだ。
「いや、空いてないですよね?」
「空いてねぇ」
「空ける予定でもあるんです?」
「今んところねぇけど、空いてたらエロくね」
「それ、は……」
榊さんが真顔のまま、チロりと舌を出す。
もしあのピンクの美しい柔肉の中央に、妖艶な光を放つピアスが燦然と鎮座していたら──。
「ドエロ、ですね」
「ドエロ、か」
榊さんは頬杖をつきながら、こちらの反応を確認するかのように僕の表情を観察してくる。
「なら、空けようかな」
「なら!?」
この人、今でも十分ドエロなのに、更にドエロになる気か!? そんなの、ドドエロではないか!
「お前、エロい方が好きだろ」
「……いや、えっと、それは」
「いや、今更むっつりぶるなよ、オープンスケベくんがよ」
なにも言い返せねぇ。
「でも、舌ピってちょっと怖ェんだよな」
「してる人の印象が、ですか?」
「んや、舌に穴ぁ開けんのが」
それは確かに。
耳よりもなんだか痛そうな気がするし、空けるときに勇気もいる気がする。……僕はピアスをしたことがないから、全て想像での印象になってしまうが。
「それにさー。なんとなくだけど、かっこいいとかかわいよりも先に、痛そうって印象が勝っちまうんだよな。個人の感想だけど」
「ちょっとわかります。舌って、敏感な部分ですもんね」
「乳首ピアスと一緒だな」
「はい。……はい?」
急になにを言い出すんだこの人。
「乳首ピアスと一緒だな」
「十秒間の間に二度も言う言葉じゃねぇよ」
「どんだけドエロい乳首でもさ、ピアス付いてっと、痛そ~って気持ちが勝って、エロがるどころの気分じゃなくなるんだよな」
「それは同意できますけど……」
「よって、あたしの乳首にはピアスはついてねぇ」
「なんの報告?」
「残念だったな」
「いや、だから、付いてない方が好きなんですって」
なにを言わされてんだよ、僕は。
そして、ちょっと勝ち誇ったような顔すんなよ、榊さんも。どんな感情だよ。
「この辺の話は、『かわいそうなのは抜けるか抜けないか』問題に通じてくると思うんだが、この辺の議題は、また今度に回そう」
「あ、話すのは確定なんですね」
榊さんとは、ひょんなことから同棲することになってもう一年は経っている。
そんな彼女と一緒にいる間は、ほとんどの時間雑談している。だが、彼女は話の流れなど全く関係なく次々新たな話題を振ってくるため、全く話題が尽きないのだ。
「んで、舌にピアス、空けてほしいか?」
榊さんが再び舌先を出し、自身の人差し指で舌をさした。
『舌にピアス』って、純文学のタイトルみたいでいいな。
「どっちでもいいですよ。怖いなら、無理に開けなくてもいいんじゃないですか?」
「でもよー。舌ピでキスしたら、コロコロしてめちゃくちゃ気持ちいいらしいぜ」
「マジですか!?」
「いや、今適当に考えた」
「……」
ローテーブルに身を乗り出すくらい興奮してしまった。恥ずかしい。
頬を染めながら、僕はなにごともなかったかのように座りなおす。
「まー、舌ピはやめとくか。今は勇気がでねぇや」
榊さんは、蛇手のように器用に手首を曲げながら缶ビールを持ち、残りを一気にあおったのだった。
ふぅ、と一息ついてから、黒目だけで僕の方を見る榊さん。
「なあ、公太郎」
「はい」
「もしあたしがスプリットタンだったら──」
「もういいよッ!」
絶対する気ないだろこの人!
……。
数秒後、スプリットタンの榊さんを想像して、僕は一人で悶絶してしまうのだった。
……ちょっと、エッチすぎるかも……。
「はいはい。すけべすけべ」
そんな僕を、にやにや顔で雑にあしらう榊さんなのだった。




