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ダウナーやさぐれ酒カスヤニカス面白メイドと同棲する大学生が喋るだけ(酔メイド短編集)  作者: 雨谷夏木


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オタクに優しいギャルの練習でもしとくか

「オタクに優しいギャルの練習でもしとくか」

「は?」


 いつもの通り、僕の家で談笑していると榊(さかき)さんが急にそう言い放った。


 彼女は床に横になりながら、せんべいをバリバリといって日本酒を飲んでいる。メイド服を着ている以外の要素がおっさんすぎる。


「あの、意味がわからないです」

「だからさ、練習だよ。オタクに優しいギャルの」

「オタクに優しいギャルの練習ってなに?」


 榊さんはやれやれといった風に上体を起こし、ローテーブルで頬杖をついた。


「あたし、オタクに優しいギャルに興味あんだよな」

 なに言ってんだこの人。


「なんでです?」

「なんか、面白くねー?」

「オタクに優しいギャルのことを面白さで見てる人初めて見たな」

 普通は、「好き」とか、「そんなのは存在しない」とか、その辺の感情を抱くものなんじゃないのか?


 練習したいってことは、なりたいのだろうか。オタクに優しいギャルに。


 榊さんは、全くギャルって感じではないけどな。


 それに、優しい人なのは知ってるけど、別にオタクには優しくないよな。メイド喫茶にくる榊さん目当てのお客さんには基本、超塩対応だし。


 まあ、榊さんを指名するお客さんはそれを望んでいるだろうし、その要望に応える榊さんはオタクに優しいギャルといえるのかも……?

 ……なんか、榊さんのお客さんをナチュラルにオタク扱いしてしまったけど、まあいいか。


「まあ、じゃあやってみますか。僕がオタク君役するんで、榊さんはギャル役お願いします」

「ノリよすぎてシームレスにコントの導入に入りやがったこいつ」


 にしても、オタク、か。

 僕は別になんのオタクでもない、つまらない人間だ。


 しいていうならお笑い? ……だけど、飛野(ひの)さんほどでもないしなぁ。


 そこでふと、視界にとある漫画雑誌が映り込んだ。僕が買ったジャンプだ。


 漫画の話で盛り上がるとか、オタクとギャルのラブコメあるあるだし、今回はジャンプでいくか。これなら、榊さんも読んでるし。というか、僕が買ったジャンプを勝手にこの人が読んでるだけだけど。


 僕は、すっと姿勢を正してローテーブルで無言でジャンプを読み始めた。

 それで、僕の意図を察したのだろう。


 榊さんは、ぐいっと首をこちらに伸ばし。


「おー、ジャンプじゃん。オタク君、どの漫画が好きなん?」


 ──その瞬間、この空間は教室の昼休みと化したのだった。


 僕はよれよれのシャツ姿だし、榊さんに至ってはメイド服を着ている。なんなら机の上には缶ビールと吸い殻の残った灰皿まであるが、まあそんなことはどうでもよく、僕らの中ではここは高校時代の教室の中なのだ。


 榊さんの顔は、いつも通りの無表情。

 ──そう。なにもギャルは、元気な子ばかりでないのだ。

 こういうダウナー系のギャルもいいよなぁ……。

 ……うっ、癖(へき)が一つ増える音がするっ。


「あ、さ、榊さんッ? ぼ、僕は、ですね……」

 演技に慣れな過ぎて、声が裏返りまくる。


 それでも僕は、オタク君役に徹する。


 今のジャンプの連載陣で、僕の好きな漫画か……。


 これ、僕の好みを言えばいいのか、僕演じるオタク君が好きそうな作品を言えばいいのか、どっちだ?


 迷った挙句、僕が好きかつ僕演じるオタク君も好きそうな漫画をチョイスすることにした。


「あっ、『鵺(ぬえ)の陰陽師(おんみょうじ)』ですかね……。デュフ」

 うわ、素でデュフって言っちゃった。キモ、僕。


『鵺の陰陽師』とは、アニメ化してほしい漫画ランキングで一位にもなったことがある人気対魔ハーレム漫画だ。


 しかし、言った後に僕は少しだけ後悔した。


 そう、この漫画は少し──。


「ふーん」

 そこで、ギャル榊さんはほんの少しだけ涙袋を上げ、僕の耳元でこう囁いた。


「……えっちまんじゃん」


 ──そう、少しえっちなのだ。


 ゾクゾクとした快感が僕の背中を駆け抜けていく。


 ギャル榊さんのリアルASMRの破壊力にやられたのは勿論のこと、今の『えっちまん』というセリフは『鵺の陰陽師』に登場する名セリフなのだ。


 たった一言の中にギャル榊さんは、『私も鵺の陰陽師知ってるよ、えっちなオタク君』という意味を込めたのだ。僕は、その威力にやられてしまった。


「──がふっ!?」

 限界を迎えた僕は、ジャンプを手に持ったまま、ローテーブルに頭から突っ伏してしまった。


「オ、オタク君? 大丈夫?」

 あまり心配していなさそうなギャル榊さんの声が耳に届く。

 数秒後、少しだけ回復した僕は、ふらふらと上体を起こし。


「……必要ないです」

「は?」


「オタクに優しいギャルの練習、必要ないです。榊さんは、正真正銘オタクに優しいギャルです」

「なんでお前の裁量であたしはギャルになれるんだよ」


 真顔で突っ込まれてしまった。


 まあ、とにもかくにも。

 榊さんにはオタクに優しいギャルの才能があるとわかっただけでも今日は大収穫であった。


 ちなみにその後は、普通にコントを忘れてジャンプのトークで盛り上がった。


 僕のイチオシは、『ロクのおかしな家』。


 榊さんは、『さむわんへるつ』、らしい。


 ……なんか、めっちゃぽいなぁ……。


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― 新着の感想 ―
私もジャンプ好きです。特に好きなのはしのびごとです。 いつも連載ありがとうございます。
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