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追放された死神ですが人間が汚すぎて魔王になりました  作者: 雪だるま


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 夜。


 巨大河イシュアの岸辺。


 風だけが静かに流れていた。


 王都の灯りは遠い。


 水面には月が揺れている。


 そして。


「…………」


 銀髪の男が一人、河辺に座っていた。


 レイだった。


 昔と変わらない姿。


 若く、

 美しく、

 異様なまま。


 だが。


 目だけが違った。


 静かだった。


 あまりにも。


     ◆


 女王ネフェルセトが死んでから。


 何十年も経っていた。


 王国は続いている。


 王は代替わりし、

 街は広がり、

 文明も変わった。


 だが。


 レイだけは変わらない。


 永遠に。


 置いていかれる側。


「のだぁ……」


 レイは河へ小石を投げた。


 ポチャン。


「……お主、今どこなのだぁ」


 返事はない。


 当然だった。


 死者は冥界へ行く。


 そして。


 レイは冥界へ戻れない。


     ◆


 それを理解したのは。


 女王が死んでからしばらく後だった。


 最初。


 レイは割と軽く考えていた。


『どうせそのうち会えるのだぁ』


 死神だったから。


 死は終わりではない。


 冥界へ行くだけ。


 だから。


 また会えると思っていた。


 だが。


 ある日。


 河辺で。


「…………」


 レイは止まった。


 気づいてしまった。


「……のだぁ?」


 自分。


 追放されている。


 永久追放。


 冥界出禁。


「…………」


 数秒。


「…………のだ?」


 そして。


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」


 河が震えた。


 魚が跳ねた。


 王都民が悲鳴を上げた。


「う、うるせぇ!!」

「また魔王発狂したぞ!!」


 レイはその場で頭を抱えて転げ回った。


「会えないのだぁぁぁぁ!!!!

 吾輩、冥界帰れないのだぁぁぁ!!!」


 そこでようやく理解した。


 女王はもう。


 自分のいる場所へ戻ってしまった。


 魂河。

 静かな冥界。

 清潔な死者の世界。


 レイが一番帰りたかった場所。


 そして。


 レイだけは帰れない。


     ◆


「のだぁ……」


 レイは河を見つめた。


 流れていく。


 止まらない。


 昔、女王に言った。


『河みたいならよかったのだぁ』


 でも。


 自分だけが流れられない。


 ずっとここに残る。


「……最悪なのだぁ」


 小さく呟く。


「なんで吾輩だけぇ……

 ずっと人間界なのだぁ……」


 風が吹く。


 遠くで犬が鳴く。


 人間界の音。


 レイは昔から嫌いだった。


 臭い。

 汚い。

 湿ってる。


 でも今は。


 少し違った。


「…………」


 ここには。


 女王がいた。


 笑って、

 怒って、

 逃げて。


『また髪を洗うのか!!』


 って叫んでいた。


 レイは少しだけ笑った。


 ほんの少しだけ。


     ◆


 一方。


 冥界。


 中央魂河監視塔。


 監察官イリゼアは、静かに霊力映像を見ていた。


 河辺に座るレイ。


 いつもの絶叫はない。


 ただ静かに水を見ている。


「…………」


 下級死神が小声で聞く。


「……先輩」

「本当に戻さないんですか?」


 イリゼアは答えなかった。


 冥界の規則は絶対。


 永久追放は永久追放。


 だが。


 レイの姿を見ると。


 少しだけ。


 胸が重かった。


 下級死神がボソッと呟く。


「……あいつ」

「多分、初めてなんですよね」


「?」


「“死を悲しい”って思ったの」


 イリゼアは静かに目を閉じた。


 死神にとって。


 死は仕事だ。


 日常だ。


 流れの一部。


 だから。


 レイはずっと軽かった。


 誰が死んでも。


『魂になるだけなのだぁ』


 と言っていた。


 でも。


 今。


 初めて。


 “会えない”を理解してしまった。


     ◆


 人間界。


 河辺。


 レイは寝転がって空を見ていた。


「のだぁ……」


 星が見える。


 静か。


 少しだけ。


 冥界の魂河に似ていた。


 レイはポツリと呟く。


「……お主、ちゃんと歯磨いてるのだぁ?」


 返事はない。


 でも。


 レイは少し安心した。


 女王はちゃんと磨く。


 最後まで。


 ちゃんと。


「……綺麗にしてるならいいのだぁ」


 小さく笑う。


 そして。


 また静かになる。


 永遠の命。


 昔は別にどうでもよかった。


 ただ、

 掃除して、

 サボって、

 冥界で寝ていたかった。


 でも今は。


 永遠が長すぎた。


「のだぁ……」


 レイは目を閉じる。


「……帰りたいのだぁ」


 誰にも届かない声。


 河だけが静かに流れていた。

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