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追放された死神ですが人間が汚すぎて魔王になりました  作者: 雪だるま


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 女王ネフェルセトの死後。


 メセトラ王国は、静かに喪に包まれていた。


 巨大河イシュアには白い花が流され、

 神殿では祈りが捧げられ、

 王都中が静かだった。


 だが。


 もっと異常だったのは。


 ――魔王レイである。


     ◆


「…………」


 静かだった。


 本当に。


 信じられないほど。


 王都民たちは困惑していた。


「……最近、叫ばないな」

「掃除してても静かだぞ」

「怖いんだけど」


 市場。


 レイは黙々と床を洗浄していた。


 いつもの。


『臭いのだぁぁぁ!!!』

『誰なのだぁ!!』

『洗えなのだぁぁぁ!!』


 がない。


 無言。


 ただ静かに掃除している。


 それが逆に怖かった。


 魚屋が震えながら言う。


「……魔王様?」


「…………」


「今日は怒らないんですか」


 レイは少しだけ顔を上げた。


「のだぁ……」


 声が死んでいた。


 魚屋が青ざめる。


「ひっ」


 だがレイは怒鳴らない。


 ただ。


 ぼんやり川の方を見る。


「……魚、ちゃんと冷やすのだぁ」


 小さい声。


 魚屋は固まった。


 優しい。


 怖い。


 意味がわからない。


     ◆


 王城でも異常事態だった。


「……また庭で座ってます」


 侍女長が報告する。


 新女王――ネフェルセトの姪である若い王女は困惑した。


「掃除は?」


「しています」


「では問題ないのでは」


「ですが……」


 侍女長は微妙な顔になる。


「静かなんです」


「……」


 それは確かに異常だった。


 レイは掃除中に最低でも三回は発狂する。


 それが普通。


 なのに最近。


 静か。


 ただ河を見ている。


 時々。


 ボーッとしている。


 王城中が不安になっていた。


     ◆


 一方。


 冥界。


「……は?」


 監察官イリゼアは報告書を見て固まっていた。


「レイが……静か?」


 下級死神が頷く。


「はい……」


「失神回数は?」


「減りました」


「掃除発狂は?」


「激減」


「…………」


 冥界がざわついた。


「えっ」

「どうしたあいつ」

「ついに壊れた?」

「反省したのか?」


 そして。


 最悪な勘違いが始まった。


     ◆


 中央裁定院。


 上級死神たちが会議していた。


「……つまり」


「はい」


「被追放者レイは現在、深く沈んでいると」


「そのようです」


 長老死神が顎を撫でる。


「ふむ……」


「やはり」

「冥界追放は効いたか」


 別の死神が頷く。


「人間界で苦しみ、ようやく己の罪を理解したのでしょう」


 全員、深刻な顔。


 だが。


 完全に勘違いだった。


 レイは別に。


 冥界でのやらかしを反省していない。


 ただ。


 女王が死んで落ち込んでいるだけである。


     ◆


 冥界では勝手に美談化が進んでいた。


「レイ先輩……」

「ようやく更生したんだな……」


「やっぱり人間界で苦しんだのが……」


「成長ってやつか……」


 感動してる死神までいた。


 なお。


 真実。


     ◆


 その頃レイ。


 河辺。


「のだぁ……」


 死んだ目。


 石投げてる。


 ポチャン。


「……お主だけ帰れてずるいのだぁ……」


 完全に未練タラタラだった。


 しかも。


 最近さらに悪化していた。


 理由。


 王城へ行くと。


 女王がいない。


「…………」


 静か。


 綺麗。


 整っている。


 でも。


 いない。


 レイはそのたび。


「のだぁ……」


 元気がなくなる。


 侍女たちが困惑するレベルで。


     ◆


 さらに問題なのは。


 レイが最近、人間をあまり怒鳴らなくなったことだった。


 兵士がビクビクしながら聞く。


「……魔王様?」


「のだ?」


「俺、ちょっと臭います?」


「…………」


 昔なら。


『臭いのだぁぁぁ!!!』


 だった。


 だが今。


 レイは少し考えて。


「……ちゃんと洗えば平気なのだぁ」


 兵士、硬直。


「優しい!?」


 周囲もザワつく。


「どうした魔王」

「怖い」

「逆に怖い」


 レイはボソッと呟く。


「人間、どうせすぐ死ぬのだぁ……」


 兵士たちが静かになる。


 レイは河を見たまま続ける。


「ちょっとくらい臭くてもぉ……

 そのうち魂になるのだぁ……」


 遠い目。


 完全に湿っぽい。


 兵士たちは困惑した。


 なんか急に哲学的になってる。


     ◆


 一方冥界。


「素晴らしい……」


 上級死神が感動していた。


「ついにレイが命の儚さを理解したのだ……!」


「成長したんですね……!」


 イリゼアだけが真顔だった。


「……違う気がする」


 だが誰も聞いてない。


 皆、勝手に感動していた。


「人間界で心を学んだんだ……」

「泣ける話だ……」


 その時。


 霊力映像が映る。


 そこには。


『のだぁ……

 冥界帰りたいのだぁ……』


 河辺で死んだ目してるレイ。


『魂河行きたいのだぁ……』

『静かな場所で寝たいのだぁ……』


 冥界側、感動。


「うぉぉぉ……」

「故郷を想って……」


 だが次の瞬間。


『人間界臭いのだぁ……』


 全員ズッコケた。


「やっぱ駄目だこいつ!!!」


 イリゼアは頭を抱えた。


「……だから言っただろうが」


 レイは何も成長していない。


 ただ。


 初めて。


 “人間がいなくなる寂しさ”を知ってしまっただけだった。

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