表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された死神ですが人間が汚すぎて魔王になりました  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/23

23 女王の霊

 深夜。


 巨大河イシュア。


 月明かりだけが水面を照らしていた。


 王都は静かだった。


 遠くで犬が鳴く。

 風が葦を揺らす。


 そして。


「のだぁ……」


 河辺にはいつもの銀髪男。


 レイ。


 相変わらず変わらない姿。


 数百年経とうが、

 何も変わらない死神。


 だが。


 最近のレイは本当に静かだった。


 掃除はする。

 発狂もする。


 だが。


 時々こうして河辺へ来て、

 ボーッとしている。


 王都民はそれを。


『魔王様の黄昏モード』


 と呼んでいた。


     ◆


「……帰りたいのだぁ」


 レイは河を見ながら呟いた。


 最近ずっと同じだった。


 冥界。


 魂河。


 静かな場所。


 女王。


 考えるたび。


 胸が変な感じになる。


 嫌だった。


 死神なのに。


 死をこんなふうに感じるなんて。


「のだぁ……」


 その時だった。


 ――サァァァ……


 風が変わった。


 レイがピクリと動く。


「……のだ?」


 静かな霊力。


 懐かしい匂い。


 清潔な魂の気配。


 レイはゆっくり振り返った。


 そして。


 止まった。


「…………」


 河辺。


 白い衣。


 長い黒髪。


 透き通るような魂の姿。


 女王ネフェルセトが立っていた。


「…………」


 レイの瞳から光が消えた。


「…………」


「…………」


「のだぁ?」


 女王は少し困ったように笑った。


「久しいな」


 レイ、硬直。


 数秒後。


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 河が揺れた。


 魚が跳ねた。


 王都民が飛び起きた。


「また魔王だァ!!」


 レイはものすごい勢いで転がりながら女王へ突撃した。


「うわぁぁぁぁぁぁん!!!!

 のだぁぁぁぁぁ!!!!

 お主ぅぅぅぅぅ!!!!」


 そして。


 途中で止まった。


「…………」


「?」


 レイが震えている。


「……のだぁ」


「何だ」


「幽霊なのだぁ?」


「そうだ」


「…………」


 次の瞬間。


 レイの顔が輝いた。


「清潔なのだぁぁぁぁぁ!!!!」


 第一声がそれだった。


 女王が吹き出した。


「お前、本当に変わらんな……」


「だってぇぇぇ!!!

 魂なのだぁ!!

 腐らないのだぁ!!

 汗かかないのだぁ!!」


 レイは感動していた。


 本気で。


「綺麗なのだぁぁぁ!!!

 最高なのだぁぁぁ!!」


 女王は笑いながらため息をつく。


「再会の第一声がそれか」


「重要なのだぁ!!」


 レイはもう泣きながら笑っていた。


 ボロボロだった。


「お主ぅ……

 会えないと思ってたのだぁ……」


「余も来るのに苦労した」


 女王は河を見る。


「幽霊が人間界へ戻るのは大変らしい」


「のだぁ?」


「何十年もかかった」


 レイが止まる。


「…………」


「…………」


「のだぁぁぁぁぁ!!!!」


 また泣いた。


「ごめんなのだぁぁぁ!!!

 吾輩、永久追放なのだぁぁぁ!!!」


「知っている」


「帰れないのだぁぁぁ!!」


「知っている」


 女王は静かに笑った。


「だから来た」


 レイの顔がぐしゃぐしゃになる。


「うぇぇぇぇぇぇん!!!」


 そして。


 レイは恐る恐る女王へ近づいた。


「……触っていいのだぁ?」


「今さらか」


「お主、昔は肉体だったのだぁ……」


「今は魂だ」


「のだぁ……」


 レイはゆっくり手を伸ばした。


 魂の手。


 冷たくない。


 臭くない。


 汚くない。


 静かな霊の感触。


 レイはまた泣いた。


「綺麗なのだぁ……」


 女王は困ったように笑う。


「お前、本当にそればかりだな」


「だってぇぇぇ……」


 レイは女王の手を握ったまま座り込む。


「吾輩、人間界もう嫌なのだぁ……

 ずっと臭いのだぁ……

 ずっと掃除なのだぁ……」


「ちゃんとやっているではないか」


「嫌々なのだぁ!!」


「知っている」


 女王は河を眺めた。


 昔より王都は美しい。


 静かで、

 清潔で、

 病も少ない。


 全部。


 この死神のせいだった。


「……余の国は」


「のだ?」


「まだ続いているぞ」


 レイは少しだけ嬉しそうな顔をした。


「のだぁ……」


「お前が残したものもな」


「吾輩、別に残したくてやったわけじゃないのだぁ」


「それも知っている」


 しばらく二人で河を見る。


 静かだった。


 昔みたいに。


     ◆


 その時。


 レイが急に真顔になる。


「のだっ」


「何だ」


「歯見せるのだぁ」


 女王、吹き出した。


「死んでも確認するのか」


「重要なのだぁ!!」


 女王は笑いながら少し口を開けた。


 魂だから完璧だった。


 レイが感動する。


「綺麗なのだぁぁぁぁ!!!!」


「本当にお前は……」


 女王は笑い続ける。


 死んでから初めて。


 こんなに笑った気がした。


     ◆


 夜が更ける。


 幽霊は長く留まれない。


 女王の姿が少しずつ薄くなり始めた。


 レイが気づく。


「のだぁ?」


「時間らしい」


「嫌なのだぁ!!」


「また来る」


「本当なのだぁ!?」


「努力する」


 レイは涙目だった。


「絶対なのだぁ!!」


「……善処する」


「のだぁぁぁぁ!!!」


 女王は最後に。


 昔みたいに。


 そっとレイの銀髪を撫でた。


「……お前は、少し人間を嫌いすぎだ」


「だって臭いのだぁ」


「ふふっ」


 女王は笑った。


 そして。


 ゆっくり消えていく。


「のだぁぁぁぁ!!!

 また来るのだぁぁぁ!!」


「……ああ」


 最後に残ったのは。


 静かな魂の気配と。


 河の音だけだった。


 レイはしばらくその場に座っていた。


 そして。


 数百年ぶりに。


 本当に嬉しそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ