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追放された死神ですが人間が汚すぎて魔王になりました  作者: 雪だるま


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16 死神たちの爆笑

 冥界。


 中央魂魄管理局・第七休憩ホール。


 そこは本来、死神たちが静かに業務疲れを癒やす場所である。


 青白い霊灯。

 静かな魂河の音。

 無味無臭の冥界茶。


 いつもなら陰気な空気が漂っている。


 だが今日。


「ぶはっ!!!!」


 大爆笑が響いていた。


「だ、駄目だ……っ!!」

「また倒れたぞあいつ!!」

「病人見て失神してる!!」

「布団で二回目いったァーーーーーッ!!!」


 死神たちが腹を抱えて転げ回っていた。


 壁面には巨大な霊力映像。


 そこには。


『のだぁぁぁぁぁ!!!

 飛ばすななのだぁぁぁ!!!』


 と絶叫しながら病院で発狂するレイの姿。


 そして。


『のだぁ……』


 失神。


 ドサッ。


 映像終了。


「ギャハハハハハ!!!」

「弱すぎるだろあいつ!!!」

「スラム三十秒記録更新できそうだな!!」


 下級死神たちは笑いすぎて涙を流していた。


 だが。


 笑っている彼らも。


 もし同じ状況になれば多分倒れる。


 冥界の死神は基本的に清潔だ。


 霊力による自動浄化。


 汗をかかない。

 腐敗しない。

 病気にならない。


 だから。


 人間界の“生物臭さ”に耐性がない。


 特に。


 高位死神ほど無理だった。


「いやでも……」


 若い死神が映像を見ながら真顔になる。


「正直あれは臭そう」


「わかる」

「病院映像の湿気ヤバかったな」

「布団の色がもう無理」


 全員頷く。


 別の死神が身震いした。


「俺、前に魂回収で人間界の戦場行ったけど三日寝込んだぞ」


「お前まだマシだろ。

 俺なんか下水近くでゲロ吐いた」


「うわっ、最悪」


 すると。


 奥で腕を組んでいた女死神がボソッと呟く。


「……人間ってよくあれで平気よね」


「ほんとそれ」


「肉体ある時点で結構怖い」

「わかる」

「血とか普通に出るし」


 死神たちは妙な顔で頷き合った。


 価値観が違うのである。


 死神からすると。


 人間界は、


 湿っていて、

 臭くて、

 腐敗する世界。


 しかも住民は平気な顔で生きている。


 わりとホラーだった。


 その時。


 再び映像。


『のだぁぁぁ!!

 その包帯ちゃんと洗うのだぁぁぁ!!!』


『げほっ』


『のだぁぁぁぁぁ!?!?』


 レイ、失神。


「ギャハハハハハ!!!」

「咳だけで落ちたぞ!!」

「弱っ!!」


 そこへ。


 黒炎を纏った女死神が入ってきた。


 監察官イリゼア。


 全員が少し静かになる。


「……何を騒いでいる」


「イリゼア様!

 レイ先輩です!」


 映像を指差す。


 ちょうどレイが。


『のだぁ……

 臭いのだぁ……』


 と言いながら床を這っていた。


 イリゼアは数秒沈黙した。


「…………」


「…………」


「……くだらん」


 そう言いながら。


 口元が微妙に緩んでいた。


「笑ってる!!」

「イリゼア様笑ってる!!」


「黙れ」


 だが。


 イリゼアも理解していた。


 あの環境はキツい。


 実際。


 死神は長時間人間界に滞在したがらない。


 魂回収が終われば即帰る。


 理由。


 臭いから。


「しかし……」


 古株死神が映像を見ながら言う。


「よくあいつ、まだ正気保ってるな」


「まあ毎日失神してるけどな」


「普通ならとっくに人類滅ぼしてるだろ」


 そこは皆同意だった。


 死神は基本的に人間へ情が薄い。


 仕事だから刈る。


 それだけ。


 だから。


 もし追放されたら。


「……俺なら山奥に引きこもる」


「わかる」

「人類圏無理」

「スラムとか絶対嫌」


 全員頷く。


 その時。


 映像が切り替わる。


 河辺でボーッとしているレイ。


『河って最高なのだぁ……』


 死神たちが少し静かになる。


「……あいつ」

「最近、河好きだよな」


「冥界の魂河思い出してんじゃね?」


 イリゼアは腕を組んだまま映像を見る。


 レイは河を眺めていた。


 珍しく静かだった。


 そして。


『人間も河みたいならよかったのだぁ』


 冥界側が静まる。


 下級死神が小声で言う。


「……なんかちょっと可哀想じゃね?」


「追放罰、わりと重いよな」


「だってあいつにとって人間界って“臭い地獄”だろ」


 その時。


 映像のレイが突然立ち上がる。


『全国水洗化計画なのだぁあああ!!!』


「ギャハハハハハ!!!」

「やっぱ駄目だこいつ!!」

「文明改造すんな!!!」


 空気が一気に崩壊した。


 イリゼアもとうとう吹き出した。


「……っ、ふ……」


「笑った!!」

「イリゼア様が!!」


「黙れと言っている」


 だが。


 しばらくして。


 古株死神がボソッと呟く。


「……まあ」


「?」


「あいつ、なんだかんだで人間滅ぼしてないんだよな」


 静かになる。


 確かに。


 レイならできる。


 本気を出せば国家程度すぐ消える。


 なのに。


 実際やってることは。


 掃除。

 下水。

 歯磨き。

 布団洗浄。


 意味不明だった。


 イリゼアは静かに言う。


「……あいつは」


「?」


「汚いのが嫌なだけだ」


「それだけで文明変えるなよ……」


 その瞬間。


 映像内のレイが病人を見て。


『のだぁ……』


 再び失神。


 冥界中に爆笑が響いた。

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