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追放された死神ですが人間が汚すぎて魔王になりました  作者: 雪だるま


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13/23

13 中央裁定院より通達

 メセトラ王国・王城中庭。


 昼下がり。


 噴水の水音。

 白い石畳。

 整えられた花壇。


 そして。


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 いつもの絶叫。


 レイが植木に向かって発狂していた。


「誰なのだぁ!!

 落ち葉放置したやつぅぅぅ!!!

 腐るのだぁぁぁ!!」


 庭師たちは壁際で震えていた。


「もう嫌だこの国……」

「最近、葉っぱ一枚でも怒るぞ……」

「魔王なのに自然に厳しすぎる……」


 その時だった。


 ――ビリビリビリ。


 空間が裂けた。


 真っ黒な裂け目。


 冷気。


 青白い霊火。


 レイがピタッと止まる。


「のだっ?」


 空間から。


 一羽の黒い鳥が出てきた。


 骨だけのカラス。


 冥界伝令鳥である。


 バサバサと飛び、中庭へ降り立つ。


 レイの顔色が変わった。


「のだぁ……」


 嫌そうだった。


 本気で嫌そうだった。


「冥界なのだぁ……」


 侍女たちがざわつく。


「冥界?」

「本当に死神だったの……?」


 カラスは無感情に口を開いた。


「被追放者レイへ」


「のだぁ……」


「中央裁定院より通達」


 レイは露骨に顔をしかめた。


「嫌なのだぁ……

 絶対怒られるのだぁ……」


 カラスは手紙を吐き出した。


 ボトッ。


 真っ黒な封筒。


 レイは嫌そうに摘まみ上げる。


 まるで汚物を見る顔だった。


「のだぁ……

 冥界の紙ってサラサラしてて好きなのだぁ……」


 そこだけ嬉しそうだった。


 ペリッ。


 封を開く。


 読み始める。


「…………」


「…………」


「…………のだぁ?」


 レイが首を傾げた。


 女王ネフェルセトが近づく。


「何と書いてある」


 レイは微妙な顔で答えた。


「“流石に文明に影響を与えるのはやり過ぎ”なのだぁ」


 沈黙。


 庭師たちが固まる。


「……そこなんだ」

「国家滅亡より問題視されてる……」


 レイは続きを読む。


「“せめて人を大量殺害する程度に留めろ”……?」


 中庭が静まり返った。


「…………」


「…………」


「…………」


 女王が真顔になった。


「待て」


「のだ?」


「“大量殺害の方がマシ”という意味か?」


「のだぁ」


 レイは普通に頷いた。


「冥界的にはそっちの方が普通なのだぁ」


 全員ゾッとした。


 レイは手紙を読み上げる。


「“死神による文明進歩への直接介入は禁止”……」

「“特に上下水道改革、歯科概念の普及、衛生革命は観測世界線に大規模変動を起こしている”……」


 女王は頭を抱えた。


「世界線って何だ……」


 レイはさらに読む。


「“お前のせいで周辺国家の死亡率統計が崩壊している”……」


「そんなことまで見てるのか……」


「“特に乳幼児死亡率の異常低下は許容範囲を超えている”……」


 庭師たちがザワつく。


 最近、確かに子供が死ななくなっていた。


 レイが井戸を浄化し、

 排水を整え、

 腐敗を嫌って食料管理を徹底したからだ。


 結果。


 疫病が激減した。


 だが。


 冥界側から見ると。


 それは“魂の流れを変える行為”だった。


 レイは不満そうだった。


「のだぁ……

 だって汚いの嫌なのだぁ……」


 カラスが無感情に喋る。


「追記」


「のだっ?」


「“お前の行動のせいで冥界の死神たちの一部が人間界への嫌悪感を再確認している”」


 レイは即答した。


「当然なのだぁ」


 女王が眉をひそめる。


「……死神は皆、人間を嫌っているのか」


 レイは真顔で頷いた。


「のだぁ」


「そこまでか」


「肉体持ちってぇ……

 基本的に汚いのだぁ……」


 女王が微妙な顔になる。


 レイは指折り数え始めた。


「汗」

「皮脂」

「垢」

「血」

「病気」

「排泄」


「やめろ」


「あと虫」


「やめろと言ってる」


 レイは本気だった。


「死神ってぇ、霊力で常時浄化されてるのだぁ……

 だから何もしなくても綺麗なのだぁ……」


 そこだけ妙に誇らしげだった。


「冥界、最高なのだぁ……

 空気綺麗なのだぁ……

 腐敗しないのだぁ……

 最高なのだぁ……」


 女王はため息をついた。


「では何故お前たちは人間界へ来る」


「仕事なのだぁ」


 即答。


「魂回収なのだぁ……

 本当は皆、さっさと帰りたいのだぁ……」


 空気が微妙になった。


 王城の侍女たちが傷ついている。


「……そんなに嫌なのね、私たち」


「のだぁ」


「即答」


 レイはさらに手紙を読む。


「“なお、今後さらに文明介入を続けた場合、追加封印処置を検討する”……」


 レイが硬直した。


「のだっ?」


「“お前の現在の霊力でも既に人間文明への影響が大きすぎる”」


 レイは青ざめた。


「のだぁぁぁぁぁ!!!

 これ以上弱体化したら掃除効率落ちるのだぁ!!」


 女王が怒鳴る。


「そこか!?」


「重要なのだぁ!!!

 最近スラム掃除で消費激しいのだぁ!!」


 レイはガリガリ頭を掻いた。


「のだぁ……

 でもぉ……

 汚いの放置したくないのだぁ……」


 すると。


 カラスが最後に一言。


「追伸」


「のだ?」


「“お前が最近失神しすぎている件について、冥界では笑い話になっている”」


 レイの顔が引きつった。


「…………」


「…………」


「…………のだぁ?」


「“特に下級死神たちの間で“スラム三十秒失神事件”は大人気である”」


 レイの目から光が消えた。


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 絶叫。


「笑うなのだぁぁぁぁ!!!

 あれは本当に危険だったのだぁぁぁ!!!

 臭かったのだぁぁぁぁ!!!」


 カラスは無慈悲だった。


「“なお冥界では“お前が人間界で恋愛する説”に賭けが発生している”」


 レイが完全停止した。


「…………」


「…………」


「…………は?」


 次の瞬間。


「のだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」


 王城が揺れた。


「あり得ないのだぁぁぁ!!!

 吾輩、生き物無理なのだぁぁぁ!!!

 肉体怖いのだぁぁぁ!!」


 庭師たちが耳を塞ぐ。


 レイは真っ赤になっていた。


「誰なのだぁ!!

 そんな気持ち悪い賭け始めたやつぅぅぅ!!!」


 カラスは淡々と言う。


「監察官イリゼア」


「のだぁぁぁぁぁ!!!!

 あのおババァぁぁぁぁ!!!!」


 その日。


 王城中に、


『魔王が“恋愛”という単語だけで発狂した』


 という噂が広まった。

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