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湖面をすべる月 07

二か月更新してなくてすみません。そして、今回はちょっとぷぎゃーはお休み。ほのぼの編です。このお話は一応恋愛ものなのですよ、ってことで(笑)

 さて、どうしたものかと紫は頭を悩ませていた。

 そろそろ愛しい愛しい彩月の誕生日なのである。できれば彼女には喜んでもらいたいし、思い出に残るような一日にしたい。なにせ、結婚して初めての誕生日なのだ。結婚した経緯が事務的なものである以上、これから恋愛感情を抱いてもらわねばならないのだ。順番がいろいろおかしいが致し方ない。

 それに彼女のことだ。

 こちらが誠実であれば、彼女も誠実さを返してくれる。ならば浮気の心配などしなくていいし、誰かに盗られる虞もない。ならば紫は彼女に愛しいと思ってもらえるように頑張るだけだ。とはいえ、それが最も難しいような気もするが。






 彼女が好きな料理はすでに知っているから、料理の心配はない。本当はどこかホテルでお祝いをするというのも考えたのだが、彼女はあまりそういうのは好まないらしい。外だとどうしても誰かと会う可能性があって煩わしいのだと以前言っていた。確かに、それはそうだ。

 それに、外食するのも好きだが、やはり家で食べる手料理も好きだと言っていたから彼女の好きなものを手作りするつもりだ。それなりに料理はできるものの、やはり普段から作っているわけではないので、もたつくのは大目に見てほしいところだ。

 料理を作っている間は弟妹たちに彩月を譲ることになっている。一日ずっと彼女を独占していたいのが本音だが、彼女が弟妹たちを可愛がっているのも知っているし、紫と結婚したことで堂々と仕事することになり、弟妹たちと会う時間がなかなか取れずに落ち込んでいたのも知っているから、そこはぐっと我慢した。だって、紫は包容力もある素敵な旦那だもの。でも奥さんをいちばん愛しているのは自分だとそこは譲らないが。



 なので、何を悩んでいるのかといえば、それは当然のことながらプレゼントだ。

 これからずっと一緒にお祝いしていけるのは当たり前だけれども、でもやっぱり初めてのプレゼントなので何か特別なものを贈りたいというのは自然なことではないだろうか。

 紫はこの時になって自分がいかにへたれなのかを実感せざるを得なかった。今まで、カノジョと呼べる相手がいなかったわけでもないが、そういった存在に対するプレゼントでここまで悩むことはなかった。本命ではなかったのだから当然といえば当然だが、今度は本命に何を贈れば喜んでもらえるのかさっぱりわからないというわけだ。


 ネットサーフィンをしながら、紫はああでもない、こうでもないと散々悩み倒し、秘書に生温い目で見つめられてしまったのは秘密だ。








 そうして迎えた誕生日当日。

 いつものように二人で朝食をとっていると彼女の弟妹たちが彩月を迎えにきた。夜は独占させてもらうのだからこれくらいしょうがない、と内心がっかりしながらも気持ちよく彼女を送り出す。弟妹たちには必ず彩月を夜6時までには返すようにこっそり釘を刺しておいたが。でないと彩月大好きな彼らが夜になって彩月を返してくれなかったら困る。大人げないという勿れ。恋する男はいつだって必至なのだから。




 食材は既に手配し、冷蔵庫の中に眠っているからあとは準備するだけ。

 レシピをもう一度確かめ、紫は料理に取り掛かった。







「ただいま」

「おかえり、食事はできているよ。今日は楽しかったかい?」

「ええ。久しぶりに美月たちに会えて楽しかったわ。わがままを聞いてくれてありがとう」

「むしろ仕事をいろいろ押し付けてしまって自由な時間をあげられなくてごめんね。もうちょっとしたら落ち着くはずだよ」

「そう?でも私よりずっと紫のほうが忙しいでしょ?無理はしないでね」


 最初は名前を呼ぶのすら躊躇っていた彼女に根気よく名前を呼んでほしいと告げたおかげで今ではすんなりと名前で呼んでくれる。そんなことで元気になれるのだから我ながら安いものだと苦笑する。


 着替えてくる、という彼女を見送って、作った料理をテーブルに並べる。

 彼女の好きなじっくり煮込んだビーフシチューに、ポテトサラダ、サーモンと鯛のマリネにポタージュスープ。メインはオムライスだ。ちょっとちぐはぐな感じもするが、彼女の好きなものだし、ビーフシチューとの相性もいいので問題ない。

 テーブルには花も飾ってあるし、この日のために口当たりのいいシャンパンも用意してしっかり冷やしてある。フルートグラスも同じく準備万端だ。



「わぁ」


 着替えてきた彩月がテーブルを見て、歓声を上げる。どうやら喜んでもらえているらしい。よかった。第一関門は突破だ。


「これ、どうしたの?」

「作ったんだ。だからちょっと失敗したところとかもあるけどそこはまあ目をつぶっていてほしいな」

「ふふ、そこがまたいいとこだけれどもね。でもありがとう。手間暇かかったでしょう?」

「慣れてないからちょっとはね。でもいい気分転換にはなったよ。料理を趣味にするっていうのもありかもしれない。さ、それより乾杯しよう」


 シャンパンを注いで二人だけで乾杯する。

 この日を迎えられた日を本当に感謝する。あとは喜んでもらえればいい。

 

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