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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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剥がされる仮面、そして奈落へのカウントダウン

エリシアは血走った目で真っ直ぐにレオンハルト様を見上げ、狂ったように訴えかけていた。


「騙されないで、レオンハルト様! 社交界で最高の評価を得ているのも、ヴァルツァー家に相応しい『才女』としての名声を誇っているのも、このわたくし・エリシアなんですよ! そんな身なりだけが取り柄の無能なアリアを選ぶなんて、貴方の頭がどうかして──」


「まず……私の名前をその汚らわしい口で呼ぶのをやめてもらおうか。私は貴方に、名前を呼ぶ許可など一度も与えた覚えはない。いくら我が家の温情で婚約者候補の一人に数えられていた身とはいえ、分不相応な無礼を働くな」


「っ……!!」


レオンハルト様の放った声は、大広間の空気を一瞬で凍りつかせるほど冷酷だった。その琥珀色の瞳に宿る、絶対的な強者特有の、身の毛もよだつような殺気──。エリシアは蛇に睨まれた蛙のように、息を詰まらせて口を閉ざした。

ヴァルツァー侯爵家を始め、周囲の来賓である王公貴族たちも、冷ややかな、あるいは哀れみすら含んだ軽蔑の目でエリシアを見つめている。


この異様な空気と、予定されていたはずの「エリシアの勝利」が完全に覆りつつある事態を前に、グレインフィール伯爵夫妻が慌てて立ち上がった。必死に醜い野心を隠し、我が子を庇うように声を震わせる。


「も、申し訳ございません、小侯爵様……っ! ヴァルツァー家がお決めになった高貴なご決断に、我らごときが異議を唱えるなど、決してあってはならないことです。し、しかし……恐れ入りますが、何かの『お間違い』ではございませんか? なぜ、我が家の誇る才女エリシアではなく、あの不出来なアリアなのですか!?」


父親の必死の訴えを、レオンハルト様は冷徹に、ゴミ屑でも見るかのような視線で一蹴した。


「なるほど。では、お集まりの皆様も、どうして私が『才女』としてあの画期的な薬草事業を発案し、社交界に多大な名声を残しているエリシア嬢ではなく……男を侍らせ、悪女と名高いアリアとの結婚を選んだのか。混乱し、ヴァルツァーの将来を不安に思った方々もいらっしゃるでしょう。皆様、誤解なきよう。本日私が皆様をお招きしたのは、その『お間違い』の真実を公表するためです」


私は思わず俯いた。侯爵家の、そしてレオンハルト様の名声が、私のせいで今まさに社交界の泥に落ちようとしている。私の心臓は恐怖で張り裂けそうだった。

しかし、私のそんな不安をあざ笑うかのように、レオンハルト様は私の腰をさらに強く抱き寄せ、会場の隅々まで響き渡る明晰な声で、残酷な真実を告げた。


「──最初に、ここに明言しておきます」


「あの画期的な薬草事業を発案し、論文を書き、我が家の医療実習で完璧な成果を上げた『グレインフィール家の才女』として名声をあげるべき本物の主は、ここにいる私(・)の(・)妻(・)、アリアです。そして、逆に社交界の品位をかき乱し、数々の醜悪な失態を犯してそのすべての罪を姉に着せ、彼女を貶めてきた無能なる大罪人こそが──そこにいるエリシア嬢だ」


「なっ……!?」


会場全体が激しい蜂の巣をつついたような騒然とした空気に包まれる。

グレインフィール伯爵夫妻は、我が耳を疑うような驚愕の目で、隣で顔を真っ青にさせているエリシアを見つめた。


「エリシア……どういうことなの、これは……っ!?」

「エリシア……! 説明しろ、これは一体何の冗談だ!!」


実の親から問い詰められても、当の本人はガタガタと唇を震わせるだけで、何一つ答えることができない。なぜなら、彼女自身が「自分が一文字も論文を書いていないこと」を一番よく知っているからだ。


「彼女は実家であるグレインフィール伯爵家から、前々から酷い虐待と実績の搾取を受けてきた。アリアは本日、私と婚姻を結び、ヴァルツァーの人間となります。したがって、我が侯爵家はグレインフィール家と『完全なる絶縁』を選択する」


レオンハルト様の言葉は、まだ終わらない。それは、伯爵家にとって文字通りの死刑宣告だった。


「本日を以て、彼らとのすべての取引・融資を白紙に戻す。さらに、金輪際、我がヴァルツァー侯爵家と少しでも提携・交友のあるすべての貴族、商会に対し、グレインフィール伯爵家との接触および取引の一切を禁ずる。──これに背く者は、我が家への敵対とみなす」


「なん……ですと……っ!? そんな、そんなことをされたら、我が家は……っ!!」


父は目を見開き、その場にガタガタと崩れ落ちた。母の目からは絶望の涙が溢れ落ちる。

侯爵家との婚姻による、栄華の極みを見届けるはずだった両親は、一瞬にして路頭に迷う破滅の奈落へと叩き落とされたのだ。

この日のために最高級のドレスで着飾ってきたエリシアだけが、崩れ落ちる両親の横で、激しい怒りと嫉妬に顔を歪め、呪い殺さんばかりの視線で私を睨みつけていた。


だが、レオンハルト様の『狂気の包囲網』は、まだ始まったばかりだ。

これから、彼女たちが私から奪ってきた実績の全て、そして隠されてきた醜悪な悪事の数々が、社交界の重鎮たちの前で一枚一枚、生皮を剥がされるように暴かれていく──。

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