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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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6/11

開花する才覚、闇に研がれる二つの牙

私は、少しでも妹の恐怖を和らげたい、助けになりたいという一心で、エリシアの勉強を自主的に見るようになった。彼女が苦手な部分を何度も辛抱強く噛み砕いて教え、ペンを握る手が止まれば、優しく励ますように声をかけた。


だが、私の差し伸べた純粋な救いの手は、エリシアの荒んだ心をさらに激しく逆撫でするだけだった。


「余計なことしないでよッ!? 私がバカだからって、自分が頭がいいのをひけらかしに来たの!?」


「そ、そんなつもりじゃないわ……! でも、このままじゃエリシアの立場が……お父様たちにまたあの地下室へ入れられてしまうと思って……っ」


「あー、はいはい! そういうのを世間じゃ『嫌味』って言うのよ! 天才のアリア様からの哀れみなんて冗談じゃないわ、私のことは放っておいて!」


インク瓶をひっくり返さんばかりに怒鳴り散らし、テキストを私に投げつけてくるエリシア。恐怖から卑屈になった彼女は、私の言葉に全く耳を貸さなくなっていった。


妹に拒絶された私は、逃げ込むように、一人夢中で医学の知識を取り入れていった。

夜を徹してペンを握る時間は、恐ろしい両親の顔を忘れられる唯一の救いであり、私はいつしか医学の底知れない魅力の虜になっていた。ヴァルツァー侯爵家から送られてくる課題はおろか、大人でも音を上げる難解な医学書を読み解くことも、私にとっては最高の娯楽だった。


(よし……、今回も納得のいく論文が書けた。お父様とお母様、喜んでくださるといいな……)


そしてある日のこと。私の提出した一冊の論文が、ついにヴァルツァー侯爵の目に留まる。

子供ならではの常識に囚われない自由な発想が、型破りで絶大な発見を生んだのだ。それは、我が伯爵領で実験的にある「一つの薬草」を栽培し、新たな解熱特効薬を精製するという、領地の未来をも変えうる画期的な医療ビジネスへと繋がった。

人々の傷や病を癒す効果が見込まれるその薬草は、侯爵家による臨床試験を経て、正式に新薬として王国内に流通することが決定した。


その功績は、ヴァルツァー侯爵家から「これほどの医療の才覚、歴史上類を見ない」と最大級のお墨付きをいただけるほどだった。


「アリア、よくやってくれた……! 素晴らしい、素晴らしい成果だ! これでようやく、あの時の御恩を侯爵様に最高の形で返すことができる。お前は、我がグレインフィール家が誇る自慢の娘だ!」


「ありがとうございます、お父様。でも、私はただ、勉強が楽しくて……」


父・ロベルトに涙を浮かべて強く肩を抱かれ、私は胸を熱くした。これで私も、家族の役に立てたのだと。

こうして我が家は、侯爵家に必要な薬草の一大生産地としての役目を担うこととなり、領地はかつてない富と活気に湧いた。それと同時に、社交界の貴族たちの間では「グレインフィール家に、稀代の天才令嬢あり」とその噂が瞬く間に囁かれるようになっていく。




自分の知識が人を救い、家族を笑顔にしている。その極上の幸福感に包まれていた私は、知る由もなかった。




私の真横で、じっと私の手元を見つめ、私の筆跡を、私の知識を、私の手柄を根こそぎ奪い去るためのチャンスを、虎視眈々と狙っている二つの影の存在を。


一人は、姉への劣等感と恐怖で心を狂わせ、「アリアさえいなければ私が愛されるのに」と呪詛を吐く妹、エリシア。


そしてもう一人は――私を誰よりも賞賛し、私の論文をヴァルツァー侯爵家へと提出する仲介役を担っていた家庭教師、グレイス・マクシミル。

彼女は、子供である私の驚異的な才能を目の当たりにし、教育者としてのプライドを完全にへし折られ、どす黒い嫉妬に身を焦がしていたのだ。


(これほどの才能が公になれば、家庭教師である私の立場はどうなる? この子供の踏み台にされるだけではないか――)


歪んだ嫉妬で結託したエリシアとグレイス。

その魔の手が、すでに無邪気な私の首元にまで迫っていることなど露知らず、私は己の本領を、ただ純粋に発揮し続けてしまっていたのだった。

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