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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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断頭台の顔合わせ、狂い出す歯車

待ち焦がれていた、我が婚約者との正式な顔合わせの日――。

グレインフィール伯爵一家は、本邸での騒がしさを避けるために用意されたヴァルツァー侯爵家の別館へ、予定通り先に到着していた。


昨夜も遅くまで国境付近の防疫に関する緊急の仕事が重なり、僕たち一家は彼らを少し待たせる形で遅れて別館へと到着することになってしまった。だが、この数ヶ月の殺人的な忙しさのせいで、あの夜会以来たった一度しか彼女の声を聴けなかったことを思えば、こうして同じ屋敷の空気を吸えているだけで、僕にとっては劇的な進歩と言えた。


父が今回、本邸ではなくこの別館を顔合わせの場に選んだのは、僕の仕事の利便性を考慮してのことでもある。もともとこの別館は、王都を訪れる賓客を退屈させないために贅を尽くして建てられたもので、客室の設えから庭園の設備に至るまで、最高峰の調度品が揃っている。どれほど長く待たされようとも、もてなしにおいて不満が出るはずのない、完璧な空間だ。


僕たちは馬車を降りるなり、身なりを早急に整え、足早に彼らが待つ最上階の応接間へと向かうことになった。


「レオン、準備は良いか? 心に決めた令嬢を、必ずこの手で救い出すのだろう?」


「はい、お父様。元より覚悟の上です」


「今日の貴方も本当に素敵よ、レオン。でも、貴方が認めたと言え、この母の診察は甘くはないわよ。しっかり検査して、あの子の心を蝕む病魔が重症だった場合は、我が家で責任を持って治療(愛)を施さなくてはね」


「大丈夫ですよ。それなら自信がありますから」


僕は扉の前に立ち、深く息を吸い込んだ。キースから聞いたあの凄惨な実態を思い出すだけで、今すぐにでも部屋へ押し入り、彼女の手を引いて我が家へ連れ去りたい衝動に駆られる。今日、この場で彼女に改めて僕のすべてを賭けた気持ちを伝え、正式に婚約を成立させる。そのためにも、まずは彼女と大人の貴族として、毅然とした対話を果たさなくてはならない。


父と母の力強い言葉に背中を押され、従者が重厚な扉を開け放つ。

僕は静かに、彼女たちの待つ応接間へと足を踏み入れ――そして、完璧な貴族の礼を執った。


「おお、ヴァルツァー侯爵閣下! 本日は我が娘のためにこのような素晴らしいお席を用意していただき、光栄の至りに存じます!」

「ロベルト、マルティナ夫人。よくぞお越しくださいました」


そこには、王城の夜会で見せたような剥き出しの狂気とは打って変わり、おぞましいほど穏やかでへつらうような笑みを浮かべたグレインフィール伯爵夫妻の姿があった。

そして、その後ろに。月明かりの下ではなく、昼の豪奢な光を浴びてなお、まばゆく可憐に光り輝く一人の少女が佇んでいた。背筋を美しく伸ばし、指先一つにまで至高の気品を宿したその立ち居振る舞いを見ただけで、どちらが僕の愛した彼女アリアなのかは一目瞭然だった。


(――アリア……!)


僕たちの視線が、空間を越えて真っ直ぐに交わった。

やっと会えた。あの夜の約束通り、君を迎えに来た――僕は胸の内で叫び、再会の喜びに目を細めた、まさにその一瞬のことだった。



――彼女の顔から、一瞬にして、血の気が完全に引き剥がされた。



真っ白に、それこそ死人のように青ざめていく彼女。

見開かれたその瞳は、まるで今まさに断頭台の刃を見上げているかのように、絶望に凍りついていた。


(……え? どうしたのだろう……?)


その唇は形ばかりの微笑の形に歪んでいるのに、新緑のようだった美しい瞳が、恐怖と、何か決定的な破滅を迎えたかのように激しく震え動いている。彼女の華奢な肩がかすかに戦慄き、喉の奥で悲鳴を必死に押し殺しているのが、遠目からでも痛いほど伝わってきた。あまりの異変に、僕の胸がどくん、と嫌な高鳴りをあげる。


3カ月も待たせてしまったから、迎えに来るのが遅すぎたと僕を恨んでいるのだろうか?

それとも、僕の知らないところで、またあの悪辣な家族から凄惨な折檻でも受けていたのだろうか。だったら、今日、今この瞬間を持ってその地獄はすべて終わりだ。僕が必ず貴女の盾になる。だからどうか安心して、僕のこの手を取ってほしいのに……。


なぜだろう。僕の野生が、心臓を冷たい氷の手で鷲掴みにされたような、不吉な嫌な予感を背筋に這い上がらせていく。何かが、絶対的におかしい。


そんな僕の内心の動休など知る由もない両親は、伯爵夫妻との和やかな挨拶を交わし、こうして運命の顔合わせが静かに開始された。


両家の親たちが過去の思い出話や社交的な規準に則った世間話で場を和ませる中、僕の耳にはその会話の内容が一切入ってこなかった。言葉は右から左へとただ通り過ぎていく。

僕は会話に機械的な相槌を打ちながらも、恐る恐る、正面の椅子に腰かける彼女へと視線を送り続けた。


彼女は、淑女の顔を浮かべほほ笑んでいるが、かなり無理をしているのが見て取れる。

その顔は、あの日、王城の薔薇庭園で見た時と同じ――いや、それ以上に痛ましく、今にも大粒の涙を零しそうで、けれど、完全に光を失った瞳で自分の手元を凝視している。その指先は、我が上着を握りしめていたあの夜の健気さとは違い、ただ自らの絶望を堪えるように、ドレスの生地を白くなるほど強く握りしめていた。


胸の奥が、冷たい楔を打ち込まれたようにじわじわと締めつけられる。

息が詰まるほどの不穏な空気が、この部屋を支配している。アリア、君は一体何をそんなに恐れているんだ? 目の前にいるのは、あの夜君に生涯を誓った僕なのに。


僕はその正体不明の焦燥感に苛まれたまま、とうとう逃れられない本題――「ヴァルツァー家とグレインフィール家の、正式な婚姻の件」へと、決定的に足を踏み入れることとなった。

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