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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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有頂天の鉄面皮と、親友たちの驚愕

パーティー会場に戻るなり、待ってましたとばかりにキースとノアの二人が、いつもの底意地の悪い笑みを浮かべて僕の元へと突撃してきた。

普通の貴族令息なら、他にも挨拶を交わすべき高位貴族が山ほどいるだろうに、わざわざ僕をからかうためだけに群がってくる親友たち。だが、今の僕には彼らを煙たがる気持ちなど微塵も湧かなかった。むしろ、彼らの婚約者談義の輪に、自分も「当事者」として加われることがこの上なく誇らしく、至福の時間にさえ思えたのだ。


「ずいぶん遅かったな。で? どうだったんだよ、レオン!」

「なぁ、俺が言った通り、お前にこれ以上ないくらいぴったりの最高の令嬢だったろ?」


二人は僕の反応を今か今かと楽しみに覗き込んでくる。特に、実際にアリアと話して彼女の素晴らしさを保証してくれたノアは、ドヤ顔を隠しきれていない。


僕は溢れんばかりの幸福感に口元をふにゃりと緩ませ、天を仰いで、うっとりと呟いた。




「り……」


「「り?」」


二人の声が綺麗にハモる。


「――理想が、ドレスを着て歩いてきた……」




「ぶっ!!」

「うわあぁ……!」


「いやもはや、彼女の網膜、結膜、表皮、そして脳細胞の隅々に至るまで、すべてが僕の医学的・美学的イデアの結晶だった。夜風に揺れる髪から落ちるキク科の花粉すら、彼女を彩るための触媒に過ぎなかったんだ……」


キースがワインを盛大に吹き出しそうになり、ノアが耳まで真っ赤にしてドン引きの声を上げた。いつもは感情を滅多に表に出さない「ヴァルツァー家の鉄面皮」が、完全に恋の魔法(というか重度のアレルギー並みの脳内麻薬)にかかって、語彙力まで暴走している。僕は恥じらうことも忘れ、完全に舞い上がっていた。


「おおう、言うねえ! この重症の幸せ者め!」

「おいおい見ろよキース、レオンの奴、だらしない顔してやがるぞ! いつもの冷徹な天才小侯爵はどこへ行っちまったんだ? 衛生管理局に通報した方がいいんじゃないか?」


ノアに背中をバンバンと小気味いい音を立てて叩かれ、キースにはニヤニヤと首をひっかけられる。いつもなら「見苦しい、僕のパーソナルスペースから3メートルは離れろ」と一蹴するところだが、今の僕はただただ夢うつつで麻痺して、嬉しくて笑うことしかできない。


「なぁ、礼儀正しくて、知的で、本当に謙虚な子だったろ?」


「ああ……。僕が思っていた以上に彼女の医学的教養は深く、驚くほど洗練されていたよ。肥満細胞やヒスタミンの分泌、I型アレルギーの潜伏期タイムラグの話まで完璧についてこられる、世界で唯一の女性だ。……キース、ノア、あの後の処理は本当に大変だったろう? ありがとう。お陰で彼女と二人きりで、誰にも邪魔されずにゆっくりと魂の結合を果たすことができた」


「レ、レオン壊れちまったのか? あのレオンをここまで骨抜きにするなんて……、さすがリア先生だ。これは彼女を持ってしないと治せない重篤患者だぞ」


僕が素直に何度も頭を下げると、二人は逆にゾッとしたように、少し照れくさそうに顔を見合わせた。


「花瓶の片付けと馬車の手配くらい、大したことないさ。……それよりさ、彼女が辺境の地にいたことといい、今日の伯爵家の奇行と言い、お前の婚約者は一体どうなってるんだ?」


キースが声を潜め、忌々しげに眉をひそめる。


「確かに僕も気になっていたんだ。同じ顔が、暗闇のカーテンから這い出てきたのを見た時は、正直ホラーかと思って心停止するかと思ったよ。レオン、一体リア先生に何が起こってるんだ?」


親友の真っ当な心配に対し、僕はこれまでの経緯を説明した。

彼女が伯爵家でなぜかその天才的な才能を妹に強奪され、不当に冷遇されていたという事実を。そして辺境地でも拉致同然で伯爵家に連れ戻され、今回は父・アルベルトの計らいでようやく顔を出すことができたという歪んだ流れまでを。


「許せないな。リア先生がなぜそんな理不尽な目に遭っているんだ」


彼女に助けられ、その卓越した医療技術を知るノアは怒りに拳を握りしめていた。しかし、ことは解決したも同然だ。僕はさらっと、今夜最大の戦果を言い放った。




「何の問題もない。先ほど、彼女から()()()()()()()()をいただいた。近々、あの生き地獄のような家から、僕が彼女を正式に連れ出す」


「「…………はぁっ!!?? プロポーズ!!!???」」




本日一番の大音量が、二人の口から同時に炸裂した。周囲の貴族たちが「何事だ、乱闘か?」とこちらを振り返るが、そんなことはお構いなしに、二人はからかいを通り越して顎が外れそうなほど驚愕している。


「いや、問題だらけだろ? お、お前、5年も婚約者を決めなかったくせに、……あまりにも気が早すぎだ!? 今日が初対面だぞ! 段階というものを学べ天才!」

「それに、彼女も了承したって……え、あ、いや、もともと二人は婚姻関係が前提の『婚約者候補』なんだから、手続き的にはそれでいいのか……? いやいや、普通は夜会で一言二言交わしただけで『生涯を共にしよう』なんて言われたら、いくら許婚でも通報案件だぞ!?」


キースが普段の冷静さを完全に失って頭を抱え、早口で混乱し始める。一方のノアは、すぐに納得したようにポンと手を叩いた。


「いや、いいんじゃないか? あのお淑やかなリア先生が、レオンの熱意(という名の暴走)を受け入れてくれたんだろ? もともと政略結婚の相手なんだし、リア先生を選ばなきゃ、自動的にあの性格の悪い妹の方と結婚しなきゃならなくなるんだからさ! 向こうの家にしてみても、早めに本命が決まった方が色々と都合がいいはずだしな!」


「確かにそうだが、こういうのはもっと慎重にさ……。ノア、お前はレオンのスピード感に毒されすぎだ! そういう問題じゃないだろ!?」


呆れるキースと、納得するノア。僕の持ち帰った歴史的な大特ダネに、親友二人は最終的に、呆れ果てながらも心からの祝福の笑顔を向けてくれた。


「でも、リア先生に手を差し伸べたレオン、正直めちゃくちゃ格好よかったよ。あれで彼女の心を完璧に掴んだのは間違いないね。あの家から救い出してくれる白馬の王子様だ。早く連れ去って幸せにしてやれよ!」


キースも諦めたように、僕に祝いの言葉を送った。


「まぁ、確かに。僕らの間を縫って、あんなに必死になって彼女を助けに行くんだもんな。アリア嬢が見惚れてもおかしくはない。とりあえず、良かったな。レオン、婚約おめでとう」


孤独だった僕の世界に、アリアという最愛の存在ができただけでなく、そのお陰で、こうして同じ目線でバカ騒ぎができる最高の友人たちとの絆もさらに深まった。すべてが、あまりにも完璧に順調だった。


(この後、屋敷に帰れば両親からも死ぬほどからかわれるのだろうな――)


いつもなら鬱陶しいはずのその未来すら、今の僕には愛おしくてたまらない。

お披露目夜会が閉会し、侯爵邸の帰路につく馬車の中でも、僕の浮かれた心は加速するばかりだった。家に着くなり、僕はまだ正装も脱がないうちに、リビングにいた両親へと猛烈な勢いで詰め寄っていた。


一刻も早く、彼女をあの理不尽な家から救い出すため――僕は人生で初めて、自らの意志で、怒涛の電撃結婚へ向けて行動を起こしていたのだった。

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