露見する虚飾、愚者の一歩
そうして、父は例の辺境地の駐屯部隊へと極秘裏に書状を飛ばした。「村で噂の『聖女』と呼ばれる若き医師の功績を聞きつけたため、我が侯爵家の医療研究の一環として、その身元を正確に調査したい」という体裁をとって。僕らはその返信を待つ間、次の手を打つことにした。
僕はというと、ひどく気が進まなかったが、もう一人の婚約者候補であるエリシア嬢から姉に関する情報を直接引き出すため、わざわざ激務の合間を縫って、彼女を邸の庭園でのお茶会に招くことにした。
「レオンハルト様、本日もお招きいただき光栄ですわ。本日はよろしくお願いいたします」
ただのお茶会だというのに、彼女はこれでもかと豪華絢爛に、けばけばしいほどのドレスを着飾って登場した。本来なら婚約者候補の熱意として喜ぶべきその姿を前にしても、僕の心が微塵も躍らないのは、彼女に対する疑惑のせいなのか。それとも、相変わらず無礼に僕のファーストネームを呼び捨てる彼女の浅薄さに、反吐が出そうになっているからなのか。
「こちらこそ、わざわざお越しくださりありがとうございます、エリシア嬢」
僕は完璧に作り込んだ微笑みを浮かべ、彼女の向かいに腰を下ろした。
「ふふ、わたくしたちもそろそろ、王都での社交界デビューの時期ですわね。当日のパートナーはお決まりですか? よろしければ、このエリシアがご一緒させていただきましてもよろしくてよ?」
上目遣いで熱烈にアピールしてくるエリシア嬢。僕もそろそろ十九、彼女も十五になろうとしていた。父も母も重い腰を上げ、激務を処理し、次の王城の夜会で僕を正式に社交界デビューさせることに決めていた。
だが、この夜会で彼女をパートナーに選んでしまえば、それは世間に対し「彼女を我が家の次期侯爵夫人として内定した」と宣言するも同義だ。真相を確かめるまでは、誰一人として選ぶつもりはない。
「お誘いは光栄ですが、当日は両親と共に、高位貴族の諸先輩方への重要な挨拶回りが分刻みで詰まっておりましてね。我が家にとっても数年ぶりの大々的な社交の場です。お相手をするべき閣下方が山のようにおられますので……どうか、ご容赦を」
「そ、そうなのですね……。残念ですが、致し方ありませんわ」
あからさまに不満げに顔を歪めるエリシア。重篤な患者を前にして、その病名を隠すことすら彼女にはできないだろう。やはり天地がひっくり返っても、この無能な女を選ぶつもりはなかった。ことの真相をはっきりさせ、すぐにでも彼女を婚約者候補から永久に除外しなければならない。
「しかし、僕は本日、お姉様(アリア嬢)もお呼びしたはずなのですが……どうして未だにお顔を見せてはくださらないのですか? 我が家の婚約者選定において、一度も姉君にお会いできないのはいささか不自然だと思うのですが」
僕は紅茶に口をつけながら、極めて自然な口調でアリア嬢の話題を振った。
「あ、姉は重病を患っておりまして、どうしても伯爵家から一歩も出ずに療養が必要なのです! 健康面では致命的な難があり、とてもレオンハルト様のお側へ赴くなんてできはしませんわ!」
(……重病、ね。グレイスは『根深い持病を患っている、医学ではどうにもならない不治の類』と言っていた。早くも彼女と本人の言い分が食い違っているな)
僕は心の中で冷笑しながら、さらに追い詰める。
「へぇ、それは心配ですね。ご存知の通り、僕は医者です。具体的にどこが悪いのですか? 僕でよければ改善の余地はあると思います。彼女の具体的な症状をお聞かせください」
医療の本場であるヴァルツァー家に長年名乗りを上げておきながら、彼女の口から飛び出した「姉の病状」は、あまりにも失笑を禁じ得ないものだった。
「それが……っ、姉は頭が酷くズキズキと痛むと同時に、心臓の鼓動が完全に停止してしまう発作が毎日起きるのです! その上、肺の機能が完全に麻痺して呼吸ができなくなり、全身の血液が全て凝固して、指先から黒く壊死していくような……とにかく、医学では絶対に治せない恐ろしい奇病なのですわ!」
(――ハッ、笑わせてくれる)
僕はカップをソーサーに戻すその一瞬、危うく吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
頭痛と同時に心臓が完全に停止し、肺が麻痺して血液が全て凝固する? そんな症状、重病どころの騒ぎではない。もはや何年も前に即死していなければおかしいレベルだ。基礎的な医学知識すら皆無の子供が、思いつく限りの「恐ろしそうな症状」を並べ立てただけの、あまりにも幼稚で支離滅裂な虚言。
これで、伯爵家がアリア嬢を「お体の弱い令嬢」に仕立て上げ、組織ぐるみで幽閉していることは完全に明白となった。
その時、タイミングよく背後から執静が近寄り、僕の耳元で父からの至急の呼び出しを告げた。辺境地からの返信が届いたのだ。
「申し訳ありません、エリシア嬢。急ぎの執務が入ってしまいましたので、本日の茶会はここまでといたしましょう。わざわざお越しいただき、ありがとうございました」
「は、はい……。また、お声かけくださいませ、レオンハルト様」
僕は彼女に背を向け、冷たくその場に置き去りにした。
――思えば。この時、細心の注意を払って、彼女が完全に侯爵邸を出るのを自分の目でちゃんと見届けていれば良かったのだ。
そうしていれば、僕たちがアリア嬢の居場所を突き止めたことを、あの狡猾な女に知られることなどなかったのに。
まさか、僕を諦めきれない彼女が、執事の目を盗んで僕の後をつけ、この後の僕と父の決定的な会話を、扉の向こうで盗み聞きしているなどとは――この時の僕は、夢にも思っていなかったのだ。




