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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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蠢く疑惑、事実確認の始まり

ノアは、その地での出来事を興奮気味に語ってくれた。国境西側の辺境地にて、兵団の遠征に毎度帯同し、黙々と治療にあたっている一人の若い女性医師がいるという事実を。


「髪は落ち着いたアッシュブラウンでね、平民には珍しい、吸い込まれそうなエメラルドグリーンの美しい瞳をしているんだ。年齢も特徴も、その絵姿のアリア嬢に間違いない。凄まじい数の負傷兵が次々と運び込まれる地獄のような戦場だっていうのに、彼女は一切臆することなく、的確な処置で瞬時に止血し、消毒、抜糸、そして実に見事な手際で包帯を巻いていくんだ。兵士たちからは絶大な尊敬を集めていて、村ではその圧倒的な医療技術から『聖女』とまで触れ回られているよ」


「いや、挨拶を交わす時、あまりにも完璧で優雅な淑女のお辞儀をするから、どこかの没落貴族の令嬢かと思っていたんだ。まさか、レオンの婚約者候補だったなんてな……」


ノアの話を聞きながら、僕の心臓はうるさいほどに跳ね上がっていた。

これまで絶望し、完全に諦めていた「婚約者」という存在。もしノアの話が本当なら――血を恐れず、戦場にすら毅然と赴き、他者を救うためにその天才的な腕を振るう、夢にまで見た母のような「魂の半身」に、僕はすでに巡り合えていたことになる。


「凄い……まだ十四そこそこのはずなのに、現場でそれほど見事な処置ができるなんて……!」


感動に声を震わせる僕に、キースが至極真っ当な疑問を口にした。


「だが、彼女は没落していないグレインフィール伯爵家の令嬢なんだろう? なぜそんな高位の令嬢が、家を飛び出してわざわざ危険な辺境地で平民医師として活動しているんだ?」


キースの言葉に、僕は最初の顔合わせを鮮烈に思い出した。

「昔から出来が悪く、身体も弱い」と言って、頑なにもう一人の娘を僕たちに会わせようとしなかったロベルト伯爵の、あの泳ぐような目。やはり彼は、取り返しのつかない大嘘をついていたのだろうか。

理由は分からない。けれど、本物の「才女」であるアリア嬢は、あの歪な伯爵家を飛び出し、僕たちヴァルツァーの領地で、本物の医師として従事しているのかもしれない。


「そこまではさすがに分からない。何かしらの、深い訳ありなのは間違いないだろうけど……」


「ありがとう、ノア。そこから先は、僕が直接確かめてみるよ」


ノアとキースが帰ったあと、僕は居ても立ってもいられず、すぐに両親の執務室へと急いだ。

突然部屋に飛び込んできた僕に驚く両親の前で、僕は一気にノアから聞いた話を伝えた。


「お父様、お母様……突然申し訳ありません。ですが、もしかしたら……グレインフィール家の本当の『才女』は、エリシア嬢ではないかもしれません」


「なんだって!?」

「どういうことなの、レオン?」


二人が驚愕に目を見開く中、僕はアリア嬢の戦場での活躍と、その容姿の特徴を漏らさず話した。父と母は、厳しい医師の顔になって僕の言葉を静かに受け止めてくれた。


「なるほど……お前の言い分は分かった。それで長いこともう一人の令嬢が顔を出さないことにも説明はつく。しかし、まずは真相を確かめてみないことには動けないだろう」


お父様が苦々しく顎をさすりながら、慎重に言葉を紡ぐ。


「私には、あの温厚で情に厚いグレインフィールに問題があるとは、どうしても思えないんだ……。彼らは我々と交流があってから、薬に使われる薬草の栽培はもちろん、医療の発展にも多額の寄付を行っている。そんな温良な家から娘が家出をしているというより、本当に体が弱くてどこかで療養しているという方が、貴族の常識としては納得がいく」


父の意見に、母もふと、何かに気づいたように美しい眉をひそめて頷いた。


「そうね、まずはその村の医師の身元を正確に調べてみるべきだわ。それに、グレインフィール伯爵家には、我が家からグレイスが、定期的に彼女たちの指導のために遣わされているじゃない。けれど、彼女からはそんな報告、ただの一度も上がってきていないわよ。もし本当にその医師がアリア嬢なのだとしたら、どうやってその村で働くことになったのか説明がつかないわ。世界には同じ顔が三人はいるというし、他人の空似だってことも十分に考えられるもの」


「……ああ、まずは彼女たちを一番近くで見ているグレイスの話を聞いてみよう。何か分かるかもしれないからな」


「分かりました」


僕は今すぐにでもその辺境の村に赴き、自分の目で「アリア」という少女を確かめたい衝動に駆られていた。けれど、冷静かつ客観的な判断を下す両親に諭され、まずは身内からの確実な事実確認を行うことに同意した。


こうして、我が家に戻ってきている家庭教師のグレイスを執務室へと呼び出し、グレインフィール伯爵家の「本当の内情」について、遠回しに探りを入れることとなった。


まだ見ぬ彼女への、膨れ上がるような期待と、胸を焦がすほどの謎を抱えたまま、僕は回り始めた運命の歯車をじっと見つめていた。

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