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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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檻の中の純恋、地獄を照らす月光の衣

王城でのあの奇跡のような夜から、私は変わった。

正確には、魂の底から「変わらざるを得なかった」のだ。


これまで誰に褒められることもなく、伯爵家のため、エリシアに奪われるためだけに淡々とこなしていた無味乾燥な作業。そのすべてに、一生をかけても足りないほどの、眩い大きな意味が生まれた。


(あの方に相応しい、最高の淑女になりたい――)


あんなにも気高く、底知れぬ美しさを纏った紳士だ。きっと私が知らないだけで、王都のあらゆる名門令嬢からのアプローチが絶えないに違いない。ならば、私は誰よりも自分を磨き上げなければ、あの方の隣に立つことすら許されない。

不思議なことに、これまで強制されていた地獄の勉強が「彼のため」の努力へと変わった瞬間、世界を覆っていた灰色の霧が一気に晴れ、何もかもが新鮮で楽しくなっていった。


私は以前にも増して、寝食を忘れて机に向かう時間を増やした。

エリシアが「こんなの退屈で頭が痛くなるわ!」と一瞬で投げ出した難解な課題を、三時間、四時間と心躍らせながら丁寧に紐解いていく。医学のみならず、淑女としての国際情勢や高度な語学にいたるまで、私は乾いた砂が水を吸い込むように、貪欲に知識を吸収していった。


勉強の合間、誰もいない独房の鏡を見る。私の肌は彼に触れられた記憶を慈しむように、真珠のような白い輝きと滑らかさを増していく。教養も、マナーも、そして彼が深く感銘を受けてくれた医療の話題も、いつどこであの方に再会しても、絶対に恥ずかしくないレベルにまで仕上がっていた。


そして夜、静まり返った檻の中で、私は誰にも内緒で引き出しの奥からそっと「彼の上着」を取り出す。

衣服に残る、あの清潔で上質な大人の香水の香りを深く吸い込み、愛おしそうに胸に抱きしめる。目を瞑れば、あの王城の庭園で、壊れ物を扱うように優しく抱きしめられた腕の強さ、熱い体温がありありと蘇る。いつかまた会えた日のことを想像するだけで、冷え切った胸の奥が甘く、温かく満たされていく。


(夢じゃないのね……。私の人生にこれほどの幸運に恵まれるなんて、この地獄も捨てたものじゃないわ。次にあの方に会えたら、今度はどんなお話をしよう……! 私、あの方に伝えたい面白い症例や、新しく見つけた薬草の話がたくさんあるの!)


次に社交界に出る日を夢見て、私の健気な乙女心は期待で大きく膨らんでいた。

――だが、現実の家族はどこまでも残酷だった。あの王城でのパーティー以来、私が伯爵家の敷地を一歩でもまたぐことは許されなかったのだ。


「これ以上、あんな品のない失態を演じた貴方を外に出せば、我がグレインフィール家の恥をさらに晒しにいくようなものよ! 今後の夜会には、絶対に参加させませんからね!」


「承知しました。伯爵夫人」


「アリア……いい加減、母と呼んで頂戴。私は貴方のためを思って――」


母マルティナの冷酷な叱責一つで、私は再び、この薄暗い監獄へと完全に閉じ込められた。


それ以降、華やかな社交界の光を浴びるのはエリシアだけとなった。妹は私が書いた論文で得た名声と、私の功績を(自分のものだと疑いもせず)使って着飾った話術を武器に、きらびやかな最高級ドレスを何度も身にまとっては王都へ出かけていく。そうして、何も知らない貴族たちに天才と褒めそやされ、帰宅しては私に向かって勝ち誇った歪んだ笑顔を振りまいていた。


一方の私は、光の届かない薄暗い独房の片隅で、ただ静かに本を読み、勉学に励む日々を送り続けた。


たまに、私の境遇を不憫に思った先生が、社交界の話題や流行のお菓子などを片手に我が家でひっそりとお茶会を催してくれた。


(私は先生方には恵まれている。彼らの惜しまんばかりの知識のお陰で、私は彼に恥じない自分でいられるのだから……)


一人寂しく独房に戻り、窓外に浮かぶ月を見上げてあの人の美しい面影を思い出す。


(大丈夫……。王城のパーティーに二度と行けなくたって、あの方はあの夜、私の耳元で『必ず迎えに行く』と、そう言ってくださったもの)


私は、世界中でたった一人、泥の中から私を見出してくれたあの人を信じている。だからここで、あの方に相応しい自分であり続けるために、自分を磨きながら待っていればいい。


家族からどれほど厳しく冷遇されようとも、胸に抱いたその純粋で、狂おしいほどの恋心だけが、冷え切った檻の中で私を優しく救い、生かし続ける唯一の光だった。

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