5話 魔法の可能性②
「準備はいい? 少し痛いかもしれないけど絶対動かないで」
「は、はい」
とりあえず処置を進めるに辺り、下着姿になってもらう必要があるから村長には出てってもらった。
年頃の女の子だし、父親とはいえ見られたくないと思うから。
それにしても白くて綺麗な脚だな。地黒のダークエルフからするとちょっとだけ羨ましい。
なんて、今はそんな事どうでもいいね。
「ふぅ、それじゃ始めるね」
そっと脚に触れると「ひゃっ」と情けない声が聞こえたけど無視しよう。
さて、何が原因なんだろう。
目に魔力を集約させ、体内をに魔力を流すと不自然な流れが見えた。腰の辺りで魔力の淀んでいる。
「これは……」
神経の損傷かな? 損傷というか、がっつりちぎれてない?
怪我してすぐならまだしも、時間が経ちすぎだ。それに多分……下手に治そうとしたせいで、余計に悪化してる。
さて、どうしたものか。
普通に治すのはまず無理かなぁ。回復魔法の専門家で、相当の腕があればいけたかもしれないけど、私はそこまでじゃない。
方法がない訳じゃないけど、それにはこの子の協力と努力が必要だ。
「ね、ねぇどうなの? その、治るの?」
うんうんと唸る私に、不安そうな表情でカティが呟いた。
「隠しても仕方ないから正直に言うね。元の状態に戻すのは無理」
「……やっぱり」
「話を最後まで聞いて」
あからさまに落胆する彼女にぴしゃりと言った。全くさ、治せないからって歩けない訳じゃないのに。早とちりしないでよ。
「元の状態には治せないけど、前と同じように歩いたり走ったり出来るようには出来るよ。ただ、それにはカティの協力が必要なんだけ……うわっ」
言いかけたところで勢いよくカティが私の肩を掴んできた。
「ほ、本当に!? 本当に私はまた歩けるの!?」
「結論から言えばそうだね。ただ、すぐにって訳にはいかないし、そこそこ苦労すると思う」
「いい! いいよ。また歩けるなら私は何だってする!」
「そう。それじゃあ処置に移るから動かないで。というか、動けなくするね」
ちょっとでも動かれると失敗する可能性があるから、私は問答無用で拘束魔法を掛けた。何が起きたかわからないカティは目で訴えてくるけれど、まぁ無視してもいいか。
さて、集中しなきゃ。くろすけの時とやる事は似てるけど、難易度は全然違う。
まずはちぎれた神経を完全に切断する。切断面を綺麗にしたいから、正確に切らないと。
まず魔力でちぎれた神経の先端を薄く覆う。それを円形に拡大させて……うん、ここまでは上手くいってる。
円の内側だけ魔力を薄く、より鋭利になるように調節。同時に切り落とした神経が体内に残らないように、先端にだけ転移魔法の準備。
……なんだか、思ったよりずっと大変だなぁ。
目の魔力と、円形、転移魔法と三つを同時に操らなきゃいけないし、下手すれば神経どころか他の箇所がバッサリ切れたり、必要な部分が体外に転移したりするから。
慎重にやらなきゃ。
「痛いよ、我慢して」
カティを見ないでそう言って、すぐに円を収縮させて切断。中々綺麗に切れたかな?
一瞬カティの上半身がビクッと跳ねそうになるけど、束縛魔法のせいでそうはならなかった。
切断したちっこい神経を足元に転移させ、同じ工程を反対側にもう一度繰り返した。
「あー疲れる」
あとはこのぷっつり切れた神経の間に魔力を流して、疑似神経として形成。
少し密度の濃くしてあげよう。最初は一人で補強出来ないだろうから。
流した魔力が神経を繋ぐ確かな感覚があった。
よしよし、上手くいったかな。
「とりあえず終わったけど、どう? 動かせる?」
指を鳴らして拘束魔法を解いた。別に鳴らす必要はないけど、ちょっとカッコつけたかった。
カティはそれを聞くと不安そうな顔で起き上がる。ゴクリと喉を鳴らし、目を瞑って呟いた。
「お願い……動いて――」
しかし、足はおろか指一本すら動かない。
駄目か。おかしいな、処置にミスはなかったんだけど……
とか何とか思っていると
「――あ」
「動、いた……?」
足の指がピクピクと動いている。間違いなく、カティが自分で動かしている。
「嘘……今、私、指が」
今起きた事が信じられないのか、声が震え焦点が定まっていない。
「嘘だと思うならもう一度やってごらん」
「そんな、そんな訳……」
またピクリ。今度はしっかり見た。良かった、ちゃんと出来てたんだ。
「あ、あぁ……脚が、私の脚が……」
震える声を洩らし、立ち上がろうとしたカティは筋力不足のせいで前に、つまりは私目掛けて倒れ込んできた。
「おっと、気を付けて。まだ自力では歩けな――って、聞いてないね」
私にしがみつくように立ったカティは、言葉にならない声を上げてわんわん泣いた。
本当に何を言ってるか分からない。それでも泣きながら笑っている。
「あり、ありがとう。本当にありがどう……!!!」
そっか、そんなに嬉しかったんだ。そうだよね。
大変ではあったけど、ここまで喜ばれると悪い気はしないなぁ。
ベルが見てたらちゃんと褒めてくれたかな。
それはそうと、
「ねぇ、どさくさに紛れて私の服で鼻かまないでくれる?」
◇
あれから三ヶ月が経過した。その間私は村に滞在し、カティに魔法を教えた。
魔法と言っても、自分で脚を動かせるようにする為の類だ。私が繋いだ疑似神経はどこまで行っても魔力でしかない。
濃密にしたつもりではあるけど、補充せずに歩き回っていたら一年かそこらで無くなってしまう。だから彼女には自分の魔力を込められるように教えてあげた。
そうすれば私がいなくなったあとで、自分の足で歩いて行けるから。
この三ヶ月はあっという間だったな。この地方にはあまり来ないから、カティに教えるついでに私も色々と教わった。猫族特有の魔法やその歴史は中々興味深いものだった。
それに、驚いたのはカティの才能だ。猫族を含む獣牙種全般は魔法との親和性は高くない。にも関わらず、カティはものすごい速度で吸収していった。
さすがに一般的な属性魔法は種族の壁があったけれど、身体強化の分野ではずば抜けた理解度を示した。
私自身、身体強化はあまり得意じゃないから深い知識はないけど、カティは一を教えたら十覚える。
特に部分強化やちょっとした属性付与が上手いんだよね。着眼点がよく、魔法の本質を理解している。
カティも魔法に魅入られたのか、暇さえあれば教えを乞いに来たし、私もなんとなく悪い気はしなかった。
日に日に自然と歩けるようになって、走ったりする彼女の顔を見ると力を貸して良かったなって思う。
ねぇ、ベル。あなたが言っていた事がほんの少しだけわかった気がしたよ。
そんなこんなでダラダラと滞在していたが、さすがにそろそろまずい。この勢いだとあと数年居座りそうだし。
「と言うことだから、私は旅立つとするよ。カン、世話になったね」
カン、と言うのは村長の名前だ。
三十人程の村人が全員わざわざ見送りに来てくれた。そこまでしなくていいのにな。
「エイラ様、本当に、本当にありがとうございました。娘の脚だけでなく、村の事まで助けていただいて、この御恩をどう返せばいいのか……」
「ちょっと井戸作ったり畑に栄養を与えただけなのに、大袈裟だよ。まぁ、私も色々勉強になったから気にしないでよ」
ベル以外で進んで関係を持ったのは久しぶりだった。面倒だからと避けてきたけど、そう悪い事ばかりじゃなかったなぁ。
「それと、カティ、元気でね」
「びええん、おじじょうぢゃまぁ!!いがないでぇぇぇ」
この子、本当キャラ変わったよね。変わりすぎだよ。
あの時みたいにグズグズ泣いてしがみつくカティの頭を撫でる。
「前にも言ったけど、やる事があるから無理だよ。皆も元気でね」
「エイラ様ありがとうございました!」
「ずっとここにいてぇぇ」
「結婚してくれ〜!」
「お元気で!」
若干一名変なのが混じっていたけど、この際気にしないでおこう。
「それじゃあ行こうか、くろすけ」
ふと、振り返るとみんなの笑顔がめに飛び込んできた。でもやっぱりカティは泣いていた。大袈裟だなぁ。
まぁ、私もこの三ヶ月彼女に魔法を教えて愛着がないでもないし、ちょっとだけ名残惜しくはある。
ふふ、本当に、ちょっとだけね。
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