3話 勇者達の罪
____________勇者side
魔王討伐の任を終えた僕達は、王都に戻った。勇者パーティの凱旋とだけあって、街の人々は盛大に祝ってくれた。
アレクセイ王も王宮で祝いたいと言ってくれたが、僕達はそれを断った。本来なら、凱旋パーティすらやめて欲しい所だ。しかし、民衆の事を考えると、せめてそれだけは許可しなければならなかった。
僕達を見る羨望の眼差しや、歓喜の声、一体何がそんなに嬉しいのか人々は大いに盛り上がっていた。
最低限、勇者パーティとして民衆に顔を見せた僕達は、その後すぐに宿をとった。
今は誰にも会いたくないし、明るく話す気分にはなれないから。
僕らが魔王討伐の任を受けてから五年。ようやく宿願を果たしたというのに、僕含め誰一人として喜んではいない。
何故か? 答えは簡単。僕らは自分の行いが正しかったとは思えなかったからだ。
「ロベルト、俺たちは一体…何の為に旅をしてたんだろうな」
服の上からでも分かるほど鍛え上げた肉体。赤い髪を短く刈り上げ、見るものを圧倒する眼力。仲間としてこれ以上ないほど頼もしい。
そんな大男は今、浮かない表情をしていた。僕と同じで後悔と自責、疑念に苛まれているのだろう。
僕と一緒で剣を主体に戦うレオンは、魔族を多く殺してきた。その感触は今も鮮明にこびり付いている。
「わからない。平和を願って旅に出たのに、僕らは……殺し過ぎた」
「で、でも魔族は人々にとっては……恐ろしい……その……」
震える声でそう言ったのは僧侶のマリアだ。美しい黒髪を腰まで伸ばした彼女は、誰にでも慈悲を施す天使のような人だ。
ただそんな彼女も魔族に慈悲を施す事はただの一度もしなかった。相手が幼子であれ、関係なく僕達は殺しまくった。
マリアが言葉を濁したのは、本当はそうじゃないのではないか、と思っているからに違いない。
僕達人間にとって、魔族は敵であり恐ろしい存在として知れ渡っている。
実際の所、彼らの力は凄まじく僕達が生き残ったのは時代に救われたからだ。
例えばこれが百年前や百年後であれば、旅をして一年足らずで旅先をあの世に変更していただろう。
それほどまでに魔族という存在は強力だ。
僕らが今ここに居れるのは、魔王ベルゼビュートのおかげでしかない。彼が過激派なら、数年もしないうちにこの大陸から人間は消えていたかもしれない。
「くよくよしてたって仕方ないじゃない。それとも王や民衆に本当の事でも言う? 私達は魔王を殺さなかったって。魔王は平和だけを望んでたって。そうすれば少しは気が晴れるんじゃないかしらね」
薄紫の髪をしたとんがり帽子の魔法使いカミラは、自嘲気味に言い放った。
彼女の言う通り、僕らは魔王ベルゼビュートを倒せていない。それ所か、幹部すらも。
世間は僕らが魔王を殺し、魔族を退けたと思い込んでいるがそんな事実は一つもない。
「……それはダメだ。事実を公にすればきっと――」
「人魔戦争が終わらない?」
カミラは食い気味言った。
しかし、実際のところはそれは少し違う。というより、この二十年間、人魔戦争なんて言われているものは起きていないのかもしれない。
正しく言うのであれば、人間の侵略戦争だとか、虐殺だとかそんな感じになるだろう。
「もう僕は誰も殺したくないんだ。魔族も人間も、どうして手を取り合えないのかな」
「ロベルト、俺らはそれを言う資格なんざねーよ。向こうからしたら俺達は大虐殺をした怨敵。手を取り合うなんて、俺達が言うべきじゃない」
レオンの言う通りだ。僕が言っていいはずがない。勇者として祭り上げられ、ベルゼビュートに会うまでずっと真実に目を瞑り続けたのだから。
「あの……皆は、国民は知っているのでしょうか。魔族が人間と同じように村や街を作り、子を育て、笑いあっているのを」
「知る訳……ないじゃない」
旅を出る前、魔族という生体について、僕らは無知過ぎた。
そこら辺の魔物同様、凶悪で野蛮な生き物だと思っていた。まさか、人間と同じように笑って泣いて、支え合いながら暮らしていたなんて夢にも思わなかったんだ。
最初の集落でそんな事を知らない僕らは、なるべく戦闘のリスクを減らす為に色々と話し合った。その結果、集落の存在に驚きつつも、深夜にこっそり井戸に毒を盛ることにした。
劇毒で有名な大蛇の毒をたっぷりと井戸に流し込んだ。
そうすると、魔族達は一晩と待たずに悶え苦しみ全滅した。
その時、僕らは戦わずに殺せた事を喜び、興奮した。こういう方法ならリスクを減らして魔王の元までたどり着けるんじゃないかって、ね。
助けて、痛い、苦しい。阿鼻叫喚の声は僕らの脳に染み付いていき離れる事はなかった。
それでも僕らは魔王を倒すというくだらない使命感と、自分の命可愛さのせいで、それを受け止め疑問に思うことはしなかった。
それに加え魔族からは攻めてこない。それをいい事に僕らは虐殺を続けた。続けなきゃいけなかった。
僕も、きっと皆も、途中からやめたかった。でもその勇気が無かったんだ。
だから僕らは今になって後悔する事で、自分の精神を守っている。そうでもしなければ崩壊してしまいそうだから。
偽善者。そんな言葉がピッタリだ。
王命を断ったり、途中で投げ出せば僕らはきっと処刑される。自分や仲間が可愛いから、無抵抗の相手を虐殺する。僕はそんな卑怯で不誠実なくだらない人間だ。自分でも吐き気がするくらい自分が憎らしい。
「あの、さ。僕、もう一度旅に出ようと思うんだ」
「……魔族領にか」
さすがは相棒。僕の事をよくわかってる。
「ああ、きっと魔王軍の幹部はどこかでまだ生きてる。僕は彼らに会わないといけない」
「で、でもそんな事をしたらロベルトは」
「うん、まず間違いなく殺されるだろうね。向こうからしたら僕は大虐殺をしたサイコ野郎だもん」
それを口にすると皆は目を逸らした。僕だけじゃなく、全員にその罪があるとわかっているのだろう。
「それにさ、真実を伝えないといけない気がする。あの日、魔王城で何があったか。どうして魔王ベルゼビュートが自殺したかを――」
託された事だってあるし、僕は彼の願いを叶えたい。それが勇者として、友であるベルゼビュートに出来るたった一つの贖罪だから。




